17.アリエルと依頼へ
「さ、アリエルさん。どの依頼を受けますか?」
私とアリエルさんは個人で活動している冒険者を対象に依頼を貼りだしている、大きな酒場に来ていた。
エーデルシュタインやアポロンといった巨大なギルドから少し離れた位置にある。けれど大通りに面した立地の良いお店だった。そのためか、お昼だというのにお酒を飲んで盛り上がっている人たちも多くいる。
様々な依頼の紙が貼りだされた掲示板の前で、私とアリエルさんは並んでいた。
一流ギルドにあるような凶悪な討伐依頼はないけど、討伐依頼もちらほら。薬の素材や鉱石を取っている採取の依頼などもある。
「けっこうたくさんありますね~」
「当たり前のようにいるしよ……」
「え? 何か言いました?」
「なんでお前がいるんだよ」
「一緒に行くって言ったじゃないですか」
「オレは嫌だって言っただろ!」
「私はそれが嫌って言いました」
「なんなんだよ、お前!?」
相変わらずアリエルさんは私への当たりがキツイ。
掲示板を眺めていると、良い感じの依頼を発見した。
内容は、ここから一番近くにある村に最近出現しているという、アレインというモンスターの討伐。
アレインは水分が多く、ジェルのような半透明の見た目をしていて、酸性の体液を吐き出し田畑の作物を枯らすモンスターだ。
がんばれば一般人でも倒すことできるので、初心者が最初に行う依頼と言えばアレインの討伐と言われているくらいである。
今回は数が多いみたいだから油断はできないけど、難易度自体はそこまで高くない。それに報酬も悪くない。
「アリエル様。これなんてどうです?」
「んぁ? って勝手に決めんなよ!」
「まぁまぁ。一度見てくださいよ」
「くっそ……」
苛立ちを表に出しながらも、アリエルさんは私が指で示す依頼を見る。
鋭い目つきで、まるで依頼の用紙を殺すのかと思うくらいだった。だけど、徐々に顔つきが柔らかくなっていく。
「まぁ、悪くはねぇんじゃねぇの?」
「では、さっそく受注してきますね!」
「あっ、待てお前! オレは――」
「行ってきます!」
掲示板から用紙を剥がして、依頼の受付に持っていく。
受付のお姉さんに受領してもらって、アリエルさんのところに戻る。
「さ、はりきっていきましょう、アリエル様」
「本当に来る気かお前」
「何を当たり前のことを」
「マジかよ……」
大げさなくらいにため息を吐いて、アリエルさんは肩を落とす。
「人数が多いほうが効率が上がりますし、悪いことではないと思いますよ?」
「それは、そうかもしれねぇけど」
「今回の依頼は、相手の数が不明となっていますから」
いくら雑魚のアレインとはいえ、群れとなって襲われたら危険だ。
アレインだからと舐めてかかった結果、数十匹に襲われて帰らぬ人になってしまった新米冒険者の話をいくつか聞いている。
……まぁ、不明ってことだから、めちゃくちゃ少ない可能性もあるけど。
アリエルさんは今までも依頼を一人でこなしてきたみたいだし、心配はないと思う。
弱い相手に対してアリエルさんがどんな心構えで挑むのか、というのも見ておくとしよう。
「あーもう! わかったよ! 今日だけだからな!」
「はい! では出発ですね!」
「ぜってー足を引っ張るんじゃねぇぞ!」
「気をつけます」
というわけで、私とアリエルさんは依頼へ向かった。