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155.学院案内

 サクラの案内で、私たちは明日からの講義で使用される教室、学院内で唯一飲食物が提供される場所である食堂、医務室などを巡った。


 芝生の緑が綺麗な庭園に、貴重な薬草などの植物が育てられている温室なども見せてもらった。

 魔法の研究に集中できるように、周りの環境なども整えられているみたいだ。


 敷地の端っこには、溜まった鬱憤やストレスを解消するため、魔法をぶっ放す闘技場を模した建物(サクラ曰く)もあった。実際は、研究で大掛かりな魔法を使うとき、事故が起きて周りに被害が及ばないように造られたものらしい。


 そして、ベルさんお待ちかねの図書館へ向かう。

 図書館は貴重な書物や文献、論文なども保管されているので、研究の事故や食堂での火事で被害を受けないように独立した建物になっていた。


 色とりどりの花々が咲いている庭園の道を進んで行くと、まるで神殿のような造りをした図書館が見えた。

 階段を上って中に入り、サクラがベルさんに言う。

 

「どう、ベルちゃん? すごいでしょ?」

「う、うん……!」


 今までに見たこともないほど瞳を輝かせているベルさんの視線の先には、本という本がぎっしりと本棚に綺麗に並んでいた。

 ベルさんの部屋もかなりの量の本があったけど、その比ではない。

 数万、いや数十万は軽くあるのではないだろうか?


 ベルさんは誰が見てもわかるくらいに、ソワソワとしていた。


「あの、サクラちゃん……」

「ん?」

「ベルも、借りても……いいの?」

「もちろん。前に会ったときに約束した通り、ベルちゃんたちは借りられるように言ってるからね☆」

「あ、ありがと……っ」


 身長差があるので、ベルさんがサクラを見上げるようにお礼を言った。


「お礼なんていいよ。もうっ、ベルちゃん可愛いな~」

「えっ、えっと、ベル……そんなこと……」

「ぎゅってしちゃうぞ☆」


 しちゃうぞ、というかサクラがベルさんに抱きついた。

 サクラに抱きつかれ、頭をなでなでされて、ベルさんが顔を朱に染めて驚きの声を上げる。

 

「さ、サクラ……ちゃん?」

「あぁ、ごめんね、つい☆」

「う、うん……」


 ごめんね~、ともう一度謝って、サクラがベルさんから離れる。

 

「あの、ベル……何か借りてきてもいい……?」

「おぉ、すごい読書欲。いいよって言いたいところだけど、まだ行くところがあるから、夕食のあとが自由だから、そのときにしてもらってもいいかにゃ? ごめんね」

「あ、そっか……。ううん、ベルも、ごめんなさい……」


 両手の人差し指同士をツンツンとするベルさんは、いじらしく可愛らしかった。

 どうやら、その動作にサクラの心の揺らぎかけたみたいだけど、何とか振り切って私たちに言う。

  

「最後に私の研究室に行って、ご飯を食べて解散にしよっか」

「研究室、見せてもらえるの?」

「もちろん。クロエは特別よ♡ きゃっ」


 ほっぺたに両手を当てて、恥ずかしがる演技をサクラが見せる。

 こんなんだけど、本人の口から研究室って言葉ができると、本当に学院都市の教授なんだなぁ、と感心した。


 と、私たちは図書館を後にしようとしたのだけど。


「ベルさん?」


 ベルさんだけは、その場に留まって動き出そうとしない。

 じっと立ち並んでいる本棚に並べられている本に目を奪われているようだった。


「…………」

「おーい、ベルさーん?」


 肩をちょんちょんと叩くと、ベルさんが大きく肩を揺らした。


「っ!」

「あ、すみません。驚かせちゃって」

「う、ううん……だいじょ、ぶ」

「行きましょうか? ここには、また来ましょう」

「う、うん」


 ベルさんの手を取って、私たちを待っているサクラやシラユキさんたちのところへ急ぐ。


「く、クロエ、手……」

「わ、すみません……嫌でしたか!? ごめんなさい!」

「そうじゃない、けど……。このままで、いい……」


 サクラたちと合流して、図書館を出る。

 そこから向かった研究室がある棟は、正門と同じくらい厳しい警備がなされていた。

 鋼の鎧に身を包んだ学院騎士にサクラが挨拶をして、私たちも研究室棟へ入る。


 廊下を進んで行くと、やけに目立つポップなパステルカラーの装飾でデコられた一室を発見した。間違いなく、ここがサクラの研究室だろう。

 予想通り、サクラはその部屋の前で足を止めた。


「ここがサクラちゃんの研究室で~す☆」


 あんまり片付いてないけど、と言いながらサクラが扉を開ける。

 

 その言葉通り、机の上には書類や開かれた本などが混沌としており、床にもそれらが散らかっている。その一方で、奥にある机だけやけに整理整頓されており、試験官やビーカーなどの器具が綺麗に並んでいた。

 大切な実験の最中なのかもしれない。


 外観こそ派手だったものの、中はいかにも研究室然としていた。

 サクラはいつも、この場所で研究をしているのか。なんだかイマイチ、マブダチのそんな姿は思い浮かべられなかった。


 どんな研究をしているのかも気になるし、明日以降、研究室にお邪魔して見ようかな。

 そう思っていると、奥から白衣を着たセミロングの黒髪の女性が現れた。


 女性はサクラと目が合うと、深いクマが目立っている目を大きく開いた。


「あっ! サクラ先生!」

「げっ」

「研究を放り出してどこに行ってたんですか!」


 女性がこちらへ足を踏み出した瞬間、サクラはピシャッと勢いよく扉を閉めた。

 そして「えいっ」と指をパチンと鳴らす。

 サクラの右手周辺に小さな魔方陣が展開されて、扉が一瞬で氷漬けにされた。

 

「ちょっとサクラ先生!?」


 内側から扉が激しくたたかれる。

 何度も扉を開けようとしているみたいだけど、凍り付いた扉はびくとも動かない。

 

「よし、今のうちに逃げましょ☆」

「え、サクラいいの!?」


 今もなお、目の前の扉は壊れそうなほどの強さで叩かれている。


「いいのいいの」

「でも、今の人って」

「うちの研究員の子よ。す~ぐ怒るけど、頭の回転は速いし、物分かりもいいし、いい子なの」

「そ、そうなんだ……」


 すぐ怒るのは、主にあなたが原因なのでは……?

 真理にたどり着いた気がしたけど、黙っておいた。


「あれ、閉じ込められるよね? 大丈夫なの?」

「大丈夫。どうせ中にある薬品を使ってすぐに出てくるんだから」


 サクラはもう一度魔法を発動させて氷を補強して、


「さ、ご飯を食べに行きましょうか☆ クロエ、四姉妹ちゃん!」

「え、えぇ……」


 サクラに強く手を引っ張られて、研究室を離れていく。

 四姉妹も研究室を気にするようにちらちらと振り返りながら、私とサクラについてきていた。


 早足で食堂へ向かう途中、サクラが「あ」と思い出したように零して、人差し指をピンと立てて私たちに注意するように言う。


「みんなに言っておくけど、ここでは不必要な魔法の使用は禁止だからネ!☆」

「それサクラが言う!?」

お読みいただきありがとうございます。


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