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153.部屋割り

「ほらほら、馬車を降りて」とサクラに言われて、私たちは顔を見合わせながら、首をかしげつつ馬車を降りた。


 だって、まだここは門の前だ。

 研究が行われたり、宿泊したりする建物があるのは、もう少し先だろう。

 門を開けてもらって、建物の近くまで馬車で行ったほうが楽だし早いと思うけど。


 疑問いっぱいの私たちの顔を見て、サクラも不思議そうに首をひねった。 


「どうしたの?」

「いや、サクラが降りろっていうから降りたけど、どうしてかなって。馬車で行ったほうが早くない?」

「あら? 言ってなかったかしら?」

「言ってないってなにを?」

「うち、馬車で学院内に入るのはめ~っちゃ面倒な手続きがあるから、今回はやってないの」

「あ、そうなんだ」

「ごめんごめん。サクラちゃんうっかり、てへっ」


 あざとく「てへぺろ」して、サクラが馬車で入れない理由を説明してくれる。


 馬車による事故や事件――例えば、馬が暴れだしたり、火薬を乗せて突っ込んできたり――が起きる可能性を排除するため、馬車で学院の敷地内に入るのはかなり複雑な手続きが必要らしい。


 そのため、私はここで御者さんと馬車とお別れして、門の傍にある専用の通路から学院内へ入った。

 まるで王城のような造りの学院内をサクラに説明してもらいながら歩く。

 西側に研究施設があり、食堂や宿泊施設などは東側にあるらしい。

 

 通路を歩くサクラは、学院の人たちに尊敬されているのか、それとも恐れられているのか、道行く人たち全員に道を譲られていた。

 その人たちにサクラは軽く挨拶をしながら進んで行く。

 途中でサクラが「あ、そうだ」と何やら思い出したような声を零した。


「泊まってもらう部屋なんだけど、みんな同じ部屋でよかったかなにゃ~? もし別々の部屋が良かったら、今から変更してもらうけど」


 四姉妹はお互いに顔を見合わせて、すぐに結論を出す。


「ボクたちは同じ部屋でいいよね?」

「……だな」

「アタシもみんなと一緒がいい!」

「べ、ベルも、うん……」

「おけまる~。クロエもそれでいい?」


 どうやら、サクラの言う「みんな」とは四姉妹だけでなく、私も含まれていたらしい。


「あ、私もなの?」


 私は講習を受けるわけではなく、サクラのお手伝いをする予定だから、四人と部屋は違うと思っていた。

 それに四姉妹だって、学院に来てまで私と同じ部屋で寝泊まりするのは嫌だろうし……。

 私がいると話しにくいこともあるだろうし、気が休まらないかもしれない。


「当たり前じゃない。お屋敷にも一緒に住んでるんでしょ?」

「それはそうだけど……でも、寝るのは別々の部屋だよ」

「だからこそじゃない!」

「ど、どういうこと?」

「いつも別々なら、逆にこういう機会こそってこと。サクラちゃんが思うに~、四姉妹ちゃんはあなたと一緒が良いと思ってると思うな」

「そうかなぁ」


 懐疑的な私をよそに、サクラは四姉妹に「ね?」と話を振る。

 真っ先に大きく「うん!」とうなずいたのはジャスミンさんだった。


「アタシはクロエと一緒がいい!」

「そうですか? お邪魔じゃないです?」

「全然! むしろ一緒じゃなきゃ嫌!」


 次いで、ベルさんが私の服の裾をきゅっと摘んだ。

「えっとえっと」と言葉を選びながら、上目遣いで言う。


「ベルも一緒が、いいな……。邪魔なんかじゃ、ないよ……?」

「ベルさん……」

「ほら、えっと……クロエと一緒の方が、安心するし……」


 こんな風に言われてしまうと断りにくい。

 頼るみたいに私の服の裾を摘んでいるベルさんの指を引き剥がすのと同じようなものじゃないか。そんな真似は私には到底できそうもない……。

 

「ボクもクロエと同じ方が嬉しいな。前だって同じ部屋だったんだから、気を遣う必要はないよ」

「シラユキさん、ほんとにいいんです?」

「もちろん。ま、クロエがボクたちと同じ部屋は嫌っていうのなら、無理強いはできないけどね」

 

 シラユキさんが苦笑を浮かべて、大仰に肩を竦める。

 本人はおそらく冗談で言ったんだろうけど、ジャスミンさんとベルさんがショックを受けたような表情で私を見つめたので、慌てて訂正した。

 

「そ、そんなわけないじゃないですか!」

「よし、それじゃあ決まりだね」


 なんだか、まんまとしてやられたような……。

 さすがは長女と言うべきなのだろうか。

 シラユキさんは最後にアリエルさんへ確認をする。


「アリエルもそれでいいかい?」

「別に、好きにしたらいいんじゃねぇの?」


 アリエルさんは舌打ちをして、ぷいっと顔を逸らす。

「お前と同じ部屋なんて気持ち悪い!」と文句の一つや二つや三つは言われると覚悟していたので、なんだから意外な反応だった。


 じっとアリエルさんのことを見つめていたからか、アリエルさんが視線に気づいて不機嫌そうに尋ねてくる。


「あ? んだよ?」

「あ、いえ、その……いいんだなぁって思って」

「かっ、勘違いすんなよ。オレはどうだっていいんだ。けど、コイツらが言うから仕方なくだ! それにお前がいたら色々聞けるだろうし……」


 わずかに頬を紅潮させて、アリエルさんが早口でまくし立てる。

 たしかに、同じ部屋にいたらアドバイスはしやすいかもしれない。

 でも講習がメインなのだから、私が勝手にアドバイスをしすぎるのは気を付けておかないと。いつも通り、助言は惜しみなくするつもりだけど、今回は自分たちで自分の魔力と魔法について考えてほしい。


「みんな同じ部屋で決まったみたいね」


 私たちのやり取りを聞いていたサクラがパチンと両手を合わせる。


「じゃ、予約してる部屋に案内するわね」


 サクラに来客が宿泊する部屋が集まっているエリアを案内してもらう。

 その途中、隣でサクラが「むふふ」と怪しげな笑みを浮かべているのに気が付いた。


「ここまではサクラちゃんの思惑通りね……」

「サクラ、どうしたの?」

「ん~? 四姉妹ちゃんには頑張ってほしいなって思ってただけよ」

「そうだね。学院都市で講習を受けられる機会なんて滅多にないし」

「ま、それだけじゃないけど」

「?」


 学院都市に来て、講習以外にがんばることってあるかな?


「クロエは気にしなくて大丈夫よん」

「そ、そう?」

「そ。まぁ、どうなるかわかんないけど、サクラちゃんはクロエと四姉妹ちゃんみんなの味方だぞっ」

「う、うん……? ありがとう……?」


 サクラがいつも以上に変な気がする。

 首をかしげながら、私は四姉妹とともに宿泊する部屋へと案内をしてもらったのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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