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145.質問タイム

 驚く私の声に反応して、アリエルさんが「あぁん?」と睨みつけてくる。


「んだよ。てめぇ、文句あんのか」

「い、いえ。ないです、けど……」


 文句なんて滅相もない。

 アリエルさんが自ら他の三人と同じように学院都市で講習を受けたいと言うのは、むしろ私としては感激である。大感激。


 だけど。

 学院都市が魔法の研究を行っている場所の説明はしたし、この講習も魔法に関するものだってアリエルさんもわかっているはず。さっき四人で呼んでいた講習のことが書かれた用紙にも、それは書かれていた。

 それなのに、あのアリエルさんが行くだなんて。

 一体全体、どういった心変わりなんだろう?

 

 と、そんな私を訝しんでか、サクラが首をかしげる。


「どうしたの? 行くって言ってるんだからいいんじゃないの?」

「それは、そうなんだけど……」

「なによ~? 何かあるなら、サクラちゃんにはっきり言いなさいよ~」

「い、いや。ううん、なんでもない」

「そ?」


 他でもないアリエルさん自身が言っているのだから、私が余計な口を挟むべきではないだろう。

 下手なことを言って、変にへそを曲げられても困るし。

 口をつぐんだ私に代わって、サクラが四姉妹に言う。


「それじゃ、何か質問はないかにゃ~? サクラちゃんが答えてあ・げ・る☆」

「え、えっとじゃあ……」


 サクラへの質問タイムが始まると、ジャスミンさんが姉妹の顔を伺いながら、おずおずと手を挙げる。


「はい、ジャスミンちゃん。なにかな? クロエのタイプについて?」

「え?」

「うん? クロエの好きなタイプ、知りたいんじゃないの?」


 勝手に質問を決めつけて突き進もうと暴走するサクラに、ジャスミンさんは困惑しているみたいだった。

 私の好きなタイプとか、ジャスミンさんというか、四姉妹とも興味あるわけないでしょ!


 困っているジャスミンさんに助け舟を出す。

 

「ちょっとサクラ!」

「にゃはは、ごめんごめん。冗談。ジャスミンちゃんもごめんね。質問、もう一回言ってもらっていいかな?」

「う、うん……」


 うなずいたジャスミンさんは少し頬を朱に染めながら、私の顔をちらとだけ見ると、

 

「え、えと、クロエの好きなタイプって、ちなみに……」

「おやおや? やっぱり知りたいのかにゃ?」

「ジャスミンさん!?」

「ご、ごめん、冗談。あはは……」


 まったくもう……。

 サクラのせいで、ジャスミンさんまで影響されつつあるじゃないか。

 

 ……って、こちらをじっと真剣に見つめていたシラユキさんとベルさんがため息を吐いたような気がしたのは、気のせいだろうか?


 改めて、ジャスミンさんがサクラに質問をする。 


「サクラちゃん。これって、魔法についての講習なんだよね?」

「もちのろん。学院都市だからね☆」

「冒険者として、強くなれる、かな?」

「ジャスミンちゃんは強くなりたいの?」

「うん。クロエみたいにみんなを助けられるような」


 ジャスミンさんの真剣な言葉にサクラは「そっか」とだけ短く返す。

 それからサクラはあごに手を添えて数秒の間、思案をして口を開いた。


「それは自分次第、かな」

「自分次第……」

「そ。ただの思い出作りのためにくる人もいるし、本気で自分を変えようと来る人もいる。急速な成長につながったって人からは、未だに感謝のお手紙をもらったりしてる。だから、私たちの講義を受けて、何を感じて、それをどうするのかは、あなたたち次第、かな」


 言って、サクラは視線をジャスミンさんからシラユキさんへと移した。


「というわけだから、シラユキちゃんも」

「あ、あぁ、うん……」

「さっき少し聞いただけじゃ、具体的なことはわからないけど」


 さっき、というのは、私とアリエルさん、ベルさんが外に出ていた時間のことだろう。

 シラユキさんとジャスミンさんは、私たちが帰ってくる一足先にサクラとダイニングにいたから、何か相談を持ち掛けていたみたいだ。


「ボク次第、か……」

「そういうこと。ま、講義を受ける生徒は、ただ受けるだけじゃない。私たちに質問もできるし、相談だってできるはず。だから本当に学院都市にいる時間をどう有効に活用するかは自分次第かな☆」


 ジャスミンさんからの質問に答え、シラユキさんに優しく諭すように言うサクラの姿は、珍しく真剣というか、先生っぽく見えた。

 サクラ本人も、そんな真面目な雰囲気を感じ取ったらしい。わずかに頬を紅潮させて、はにかんだ。

 

「あはは、なんか照れちゃう。偉そうにごめんね」

「ううん。サクラさんの言葉で、ボクの心もしっかり決まった気がする」

「そ? それならよかった」


 サクラが他に質問は? と問うと、シラユキさんがベルさんの肩を肘で軽く突っつく。


「ベル。本について尋ねてみてはどうかな?」

「ほ、ほん……?」

「うん。学院都市、それに研究施設なんて、いかにも本がたくさんありそうじゃないか」


 長女のその言葉にベルさんは、はっと目を大きくさせた。

 たしかにシラユキさんの予想するように学院都市、それも研究室が集まっている中枢には資料のために本が集められていそうだ。


 二人の会話を聞いていたサクラが首をかしげる。 


「本? ベルちゃん、本が好きなの?」

「う、うん……」

「いいねいいね、よいちょまるだね!」

「え、えと……」


 ハイテンションなサクラに戸惑うベルさん。

 

「魔法と本は切っても切れない縁があるから、もちろん、学院都市にも本はあるよ☆ それもたくさん」

「たくさん」

「学院図書館っていうところがあって、そこに魔法書は王国で一番揃っているし、魔法書以外も、魔法が関係したり、出てくるものはほとんどの本があるんじゃないかな」

「すごい……!」


 ベルさんは、メリダの本屋さんを訪れた時、いやそれ以上に目を輝かせていた。

 サクラはまるで自分が褒められたかのように胸を「えっへん」と逸らす。


「すっごいでしょ~」

「う、うん。ベルたちも、行ってもいい……のかな……?」

「もっちろん。講習を受ける生徒さんたちはみんな図書館の利用はおっけーだよ☆ 自ら学ぼうとするのはサクラちゃんたちも大歓迎だから」


 ベルさんの質問に答えた後、「あ……」とサクラが何か閃いたような声を零した。

 

「ベルちゃん、そんなに本が好きなんだったら、ベルちゃんたちは私の名前で借りられるように言っておくね。ほんとは外部の人は書籍の利用は館内のみなんだけど、特別にね」

「……! いい、の……?」

「いいのいいの。あ、もしよかったら、うちの研究室に所属しちゃう? ベルちゃん、なんだか向いてそうだし」

「え……?」

「読み放題になるよ!☆」


 なんてことをサクラが言って、ベルさんも少し考えようとしていたので、私は慌てて口を挟んだ。


「サクラ! 何ちゃっかり、ベルさんを引き抜こうとしてるの!?」

「あ、バレた?」

「バレるよ! やめてよ!」

「そんなに怒らなくても……冗談に決まってるじゃない。クロエのとこの子を奪うような真似はしないわよ。でも」


 ペロッとサクラは上唇を舐めて、ベルさんに言う。

 

「ベルちゃんがもし本気で学院都市で魔法の研究をしたいのなら、私の研究室はいつでも歓迎だから☆ シラユキちゃん、アリエルちゃん、ジャスミンちゃんもね!☆」


 サクラにバチーン! とウインクを決められた三人は、返事に窮したらしく互いに顔を見合わせた。

 まったく、サクラのやつめ……。

 油断も隙もありゃしないマブダチだ。

お読みいただきありがとうございます。


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