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143.学院都市への誘い

「学院都市に……?」

「そ。クロエ、前に来たいって言ってたでしょ?」


 そりゃあ、そうだ。

 魔法をちょっとでも使う人間なら、学園都市に興味のない人はいないと思う。

 それは私も例外ではなくて。


「それは、うん。でも、サクラの研究は大丈夫なの?」

「サクラちゃんの心配は~、のんのん」


 心配ご無用、とサクラは人差し指を左右に振る。


「そっか。てことは、研究は順調なんだ?」

「うん?」

「え? こうして王都に来てるってことは、そういうことじゃないの?」

「あぁ~うん、まぁ、ある意味では落ち着いたところと言うか、一区切りって感じ☆」


 よくはわからない返事だったけど、実際にサクラが王都まで来て、私とこうやって話をしている事実が全てだろう。

 研究の成果なんて、一朝一夕で得られるものではないだろうし、そう言った意味では順調とまではいえないのかもしれない。


 サクラ自身が落ち着いていると言っている以上は、その言葉に甘えたいところだ。

 きっと以前までの私ならば、二つ返事で招待と案内をお願いしていたに違いない。メリダもさそって、マブダチ三人で学院都市ツアーなんてことになっていたかもしれない。


 けれど。


 今の私は、以前までの私ではない。

 ある程度自由気ままに好き勝手な行動してもいい、ただの冒険者とは立場が違うのだ。

 

 一日や二日で戻って来られるのならたいした問題ではないだろうけど、学院都市は王都から遠い。

 行くだけで一週間以上、場合によっては十日ほどかかってしまう。


 四姉妹の指導をしなきゃいけないし、今回は残念だけど難しいかなぁ。

 そう思っていると、


「あ、あの!」


 静かに私とサクラの話を聞いていた四姉妹から、ジャスミンさんが代表するように「はいはーい!」と元気に挙手した。


「あのさ、クロエ。学院都市? ってどんなとこなの?」


 ジャスミンさんが首をかしげながら尋ねる。

 他の三人を見ると、シラユキさんもアリエルさんもベルさんも、全員が学院都市についてピンと来ていないようだった。

 

 みんな魔法を扱えるのだから、サンズさんから説明を聞いていたとしてもおかしくはないけれど。

 仮に四人が幼いときにされていたとしたら、忘れているのかもしれない。

 仕方ない。

 興味のないことって、そんなものだと思う。


「えっと、学院都市っていうのはですね――」


 学院都市は王都の北に位置する、その名の通り魔法の研究、魔法の学びのための都市である。

 都市全体が魔法のために存在し、魔法の研究中心の生活が送られている。 


 まさに魔法の聖地。


 魔法を追究、探求したいと考えるサクラのような人はもちろんのこと、私みたいに冒険者として魔法を使っている人にとっても、死ぬまでに一度は訪れたい場所ナンバーワンといっても過言ではなかった。


 また、学院都市は王国で唯一ギルドが存在していない都市でもあり、王国騎士団から選ばれた優秀な人たちが学院騎士団として駐在している。

 特に魔法の研究がされている都市中枢は、学院騎士団のなかでも選りすぐりの人員が虫の一匹も不法に侵入できないように目を光らせているんだとか。


 この中枢に関しては、極悪犯ばかりが収容されている王国最大の監獄よりも厳しいと言う人もいるほどで、そのため学院都市は一部から「魔法監獄」なんて呼ばれることもあった。

 ある意味では、研究者は魔法と言う名前の檻や監獄に捕まっているようなものだから、その例えはあながち間違いでもないと個人的には思う。


 私の説明を四人とも真剣に聞いてくれていた。

 サクラに「間違ってないよね?」と視線を送ると、「おけまる~☆」とオッケーのサインを出してくれた。

 ていうか、今思えばサクラに説明をしてもらったらよかったぞ。


「というわけだから、どうかにゃ~? 案内する時間くらいはとれるし、あなたに見せたいものもあるのよね」

「えっと、あの」


 言い淀む私に、サクラは不思議そうに首をかしげる。


「なになに? 早く行きましょう? 今すぐにでも」

「い、今!?」

「だってあなた、昔からフッ軽じゃないの」

「昔は、たしかにそうだったけど……」


 ちらと四姉妹に視線を向けて見ると、四人ともが不安そうに私とサクラを見つめていた。

 シラユキさんは表情に出さないようにしつつ静かに。

 アリエルさんはテーブルに肘を置き頬杖をついて、ちらちらと窺うように。

 ジャスミンさんは一番わかりやすく、イスから腰を半分ほど浮かせている。

 ベルさんはどうしようかと、長女のシラユキさんと私たちとで視線を彷徨わせていた。


 私の視線と四姉妹の様子にサクラも気が付いたようで、


「あぁ、そういえばこの子たちの指導役? なんだったっけ」

「うん。ファミリアのマスターも」


 だから、今まで見たいにフッ軽な行動はできない。

 学院都市までは移動だけで一週間以上、そこから滞在するのを考えると一か月近く王都を離れることになるだろう。

 数日間なら、指導はカタリナさんにお願いをしたり、四人で一緒に王都周辺で依頼をこなしたりするのはできると思う。

 だけど、さすがにそれだけの期間、四姉妹を王都に残していくわけにもいなかい。


「サクラ、その、今回は悪いんだけど」

「そっか、残念」

「うん……ごめんね……」

「それは、この子たちが心配だから?」

「心配っていうか……なんていうか……」

「要するに、全員で来るのならいいってことよね?」

「……え?」

「これ、どうかしら」


 ふふんと自慢げに微笑むサクラが取り出した用紙に書かれていたのは、


「特別夏期講習……?」

「これなら、おけまる騎士団よいちょまるでしょ?」

お読みいただきありがとうございます。


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