142.サクラの目的
「で、クロエ」
改めて、とサクラが切り出す。
「なに?」
「誰が本命なの?」
「……はい?」
何を言っているのか、わからなくて首をかしげる。
すると、サクラは大仰にため息を吐いて、やれやれと肩を竦めた。
「だーかーらー。この子たちの誰があなたの本命の子なのかなぁって」
その言葉に反応して、四姉妹がそれぞれガタッとイスを揺らした。
サクラが変なことを急に言い出すから、四人とも驚いてしまったみたいだ。私のほうを凝視している。
「別に本命とかってないよ。強いて言うなら全員だから」
「え! 全員? 四人とも?」
「うん」
「そ、そっか……それはさすがにサクラちゃんも想定外……にゃはは」
少しだけほっぺたを朱に染めて、髪の毛を指でいじりながらサクラは曖昧な笑みを浮かべた。
想定外って、そうかな?
サクラのいる学院都市は選ばれた数少ない人だけしか研究室には所属できないから、全員を平等にっていうのは珍しいのかもしれない。
サクラが教授になって数年経過するし、常識がおかしくなっているのかもしれない。
「想定外って……普通に当たり前だと思うけど」
「当たり前なの!? いや、たしかに四人ともすっごく顔、可愛いけど……」
サクラは、だからといって四人ともに手を出すなんてクロエもやるわね……なんて意味の分からないことをつぶやいていた。
「え? 顔は関係ないって」
「あ、性格的な?」
「だって、私は四姉妹の指導役ってことで仕事を受けてるんだもん。誰か一人ってことはないよ。全員に魔法を教えて、立派な冒険者になってもらうんだから」
私は四姉妹の指導役の依頼をサンズさんから受けているのだ。
それに今は四姉妹の冶ファミリアのマスターでもある。誰か一人を贔屓するつもりはまったくない。
「え、冒険者?」
「うん」
首肯すると、サクラは大げさにため息を深く深く吐き出した。
「なにその反応!?」
「いや~、クロエだし、どうせそんなことだろうなぁとは思ってたけど……」
「どういうこと? 他の意味なんてあるの?」
「あるわよ! ていうか、普通そっちでしょ!」
頭に血が上ったかのように指摘された。まるで私が悪者である。
えぇ……? そっちって、どっち?
なおも私がポカンとしていると、
「恋愛的な意味に決まってるでしょう! れ・ん・あ・い!」
「レンアイ?」
れんあい、レンアイ、恋愛?
恋愛!?
ようやくサクラが言っていた本命の意味にたどり着けた。
大慌てで否定する。
「ないないない! ないよ!」
「ふ~ん? さっき全員っていってなかったかなぁ~?」
「そんなわけないでしょ! 不誠実な!」
「なら、誰なの?」
「誰も違うって! 私は指導役だし、今は四人のファミリアのマスターなんだよ!? そんなことしないって!」
そんな真似をしたら、サンズさんに追放どころか殺されるんじゃないだろうか。
「それにシラユキさんも、アリエルさんも、ジャスミンさんも、ベルさんも女の子! そして私も女の子!」
「それは別に関係ないとサクラちゃんは思うけどな。好きになったのなら些細な問題よ」
「と、とにかく、違うから!」
「そっか。残念。せっかくクロエの恋バナを聞けると思ったのになぁ」
からかうような口調で、小悪魔な笑みを浮かべてサクラはお茶を一口含んだ。
「さ、サクラはどうなのさ」
「ん? 聞きたい? サクラちゃんの恋愛事情聞きたい!?」
「いや、どっちでもい――」
「サクラちゃんの~恋人は、ま・ほ・う」
きゃっ! とサクラは頬を赤らめて、恋する乙女アピールをしているけど、どうせそんなことだろうとは思った。
初対面の四姉妹だけでなく、私も置いてけぼりにされていた。
久しぶりにあったというのに、このマイペースさである。本当に変わらない。
「ねぇ、サクラ」
「ん~?」
「私に会いに来たって言ってたけど、それだけじゃないでしょ? サクラが会いに来たってことは絶対何かあるよね?」
「あはは~、さすがはクロエ。わかっちゃう?」
「そのくらいはね。サクラ風に言えば、マブダチなんだし」
「うーん、単刀直入にいうと……」
あごに手を添えて、数秒だけ思案した仕草をしてサクラは私に言う。
「クロエ、学院都市に来ない?」
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