14.早起きジャスミン
次の日。
小鳥のさえずりで目覚めた私は、魔法書を忘れずベルトのホルダーにセットして部屋を出た。
さすがお屋敷のベッドと言うべきか、ぐっすりと眠れていい気分だ。
廊下を歩いて、ティナさんを探してダイニングへ向かう。
まだ朝の少し早い時間だからか、廊下は静かなもの。四姉妹の皆さんはまだ寝ているのかもしれない。あ、違う。シラユキさんは朝から街へ行っているんだっけ?
ダイニングが近づいてくると、楽しそうな話声が聞こえてきた。
「おはようございます」
ダイニングに入る。
シラユキさんとジャスミンさんが、向かい合って席に座ってご飯を食べていた。
シラユキさんは昨日、お風呂で会った時はロングヘアを下ろしていたけど、今は首の辺りで一つに結んでいる。この髪型が普段過ごしているときのスタイルなのだろう。まるで王子様のようで、とても似合っていた。
女性に対して褒め言葉かわからないけど、相変わらずのイケメンである。
「おや、クロエじゃないか。おはよう」
「ほんとだ! クロエ、おはよ~!」
「おはようございます」
どこへ座ろうかと悩んでいると、すぐにシラユキさんが隣の席を勧めてくれる。
ペコッと会釈をして、その席に座らせてもらうことにした。
「お二人ともお早いんですね」
「なぁに、ボクは普通だよ。ボクなんかよりも、ジャスミンのほうがすごい」
「そうなのですか?」
「あぁ。ジャスミンは毎日、ボクの一時間は早く起きているからね」
「へへーん!」
ジャスミンさんが胸を張る。
なんだか意外かも。
ジャスミンさんのイメージだと、ぐっすりとお昼まで寝ている感じと思っていた。
「実はね、向こうの森の中にいる猫ちゃんが、最近子猫を産んだの。その子たちを見るのとお世話のために早起きしてるんだぁ」
「そうなんですか」
「うん! よかったらクロエも見に来てよ。可愛いよ?」
「ぜひ」
「ユキちゃんも」
「ふふ、時間があればね?」
シラユキさんの口ぶりから、これは遠回しに断っているなぁ、と感じる。
今日もきっと、これから街へ出かけるのだろう。
でも街の女性たちも子猫を見せたら喜ぶと思う、なんて思ったけど、シラユキさんには黙っておくことにした。
「そういえばジャスミン。昨日また猫を拾ってきたそうじゃないか」
「うーん、またアーちゃんに怒られちゃった」
「あいつも変わらないね」
「ユキちゃんからも言ってよ」
「ボクがかい? それでも構わないけど、この家は四人で暮らしている家だからね。嫌だというのに無理強いはできないよ。ジャスミンが本当に飼いたいのなら、自分でアリエルを説得するべきじゃないかな?」
「うーん、そっかぁ……」
長女の協力を得ることができず、肩を落とすジャスミンさん。
だけど明るい顔に戻って、大きくうなずいた。
「そうだよね! アーちゃんにお願いしてみる!」
「それがいい。ちなみに、ボクは犬派だから飼うなら犬がいいな」
こうして見ていると、シラユキさんは立派にお姉ちゃんをしているんだなぁ、と感心する。
私は一人っ子だから、素直にすごいと思った。
さすがは四姉妹の長女だ。
「ん、クロエ、どうかしたかい? ボクの顔に何かついてる?」
「いえ、シラユキ様はやっぱりお姉さんなんだなって」
「そ、そうかな? 照れるな……」
ポッと頬を朱に染めるシラユキさん。
本当に照れているのか、視線を逸らす。いつもとのギャップに思わず可愛らしいと感じてしまった。
「アタシもユキちゃんが一番のお姉ちゃんでよかったって思うよ!」
「おいおい、ジャスミンまで。褒めても何も出ないよ?」
この調子で、しっかり魔法を学ぶ意欲も見せてくれたら嬉しいんだけどなぁ。
残念ながらそうはいかない。
シラユキさんはナプキンで口元を拭って立ち上がる。
「では、ボクはこれで失礼するよ」
「シラユキ様、どこへ」
「乙女の秘密……かな……?」
唇に人差し指を当て、ウィンクするシラユキさん。
結局、質問には答えてくれないまま、ダイニングを出ていってしまった。