136.事件解決
気を失っているサーナンさんを連れて、カタリナさんたちの待っている湖畔まで戻ると、
「ベル!」
「シラユキ姉様、ジャスミン姉様……っ!」
アリエルさんの隣にいたベルさんに気づいて、シラユキさんとジャスミンさんが駆け出す。
それを見て、ベルさんも二人のところに走り出した。
三人がぎゅっと抱擁を交わす。
本当にベルさんが無事でよかった。四人がまた会えてよかった。
改めてほっとする。
姉妹の再会を微笑ましく見ていると、カタリナさんが「お疲れさまでした」と隣にやって来た。
「クロエ、そちらも終わったようでなによりです」
「はい、なんとか」
私が手に怪我をしてしまったくらいで、シラユキさんとジャスミンさんには何もなく無事でよかった。
「カタリナさんの方は大丈夫でしたか?」
「ええ、まったくもって」
「よかったです。アリエルさんは」
「アリエルお嬢様も怪我の一つもありませんよ。私が見ていた頃よりもお強くなられていて、驚きました」
「ほんとですか? カタリナさんが見ても」
「ええ」
アリエルさんは本人が魔法を使いたくないということで、魔法をまだ教えられていない。
だから、これまで魔法を使わない手合わせの形で指導を重ねてきた。だけど私はあくまでも魔法使いで剣術は本職ではないから、どれだけアリエルさんの成長に貢献できたのか不安だった。
でも。
王都でも最強の呼び声高い剣士で、アポロンの№2であるカタリナさんが強くなっていたというのであれば、間違いないだろう。
まるで自分が褒められて認められたみたいに嬉しくなる。
「まぁ、まだまだですが」
「あはは、ですよね。でも、これから魔法も使うようになれば、もっともっと強くなりますよ」
「それは楽しみにしていますね」
これからは四人の剣の使い方についてはカタリナさんにも指導をお願いしようかな、と考えていると、
「クロエ……」
と袖を引かれた。
見るとベルさんが俯き加減で立っている。
「クロエ、ベルのせいで、ごめんね……」
「ベルさんが謝るようなことではないです。むしろ、謝らなければいけないのは私のほうで」
ベルさんが謝るなんてとんでもない! と胸の前で手を振る。
と、ベルさんはその手を凝視して目を大きくさせた。
「ううん……って、あの、その手どう、したの……?」
ベルさんが私のところにやって来たことで、四人もこちらへ移動していた。
シラユキさんがベルさんの言葉に心配そうな表情を作る。
「そうだクロエ、手は」
「手?」
シラユキさんの言葉にアリエルさんが首をかしげる。
「どうかしたのか?」
「ボクたちのせいで怪我をね……」
「クロエ、死なないでー!」
「だ、大丈夫ですよ。死にませんって……」
大げさな反応をするジャスミンさんに苦笑する。
「そんなに心配しなくても、血は止まってますから大丈夫ですよ」
「だからって、大丈夫ってことはないだろう」
「アタシたちのせいだもん。なにか、なにかできないかな、カタリナ!」
ジャスミンさんに尋ねられ、カタリナさんは「そうですね……」と答える。
「消毒して包帯を巻くといった簡易的な処置くらいでしょうか。私たちは素人ですし、あとは医者に診せないことには」
「そっか! って、アタシ何も持ってない……」
カバンを探ってジャスミンさんが肩を落とす。
どうやらシラユキさんも道具は持っていなかったらしい。
ファミリアとして初めての仕事だったし、まさか事件に巻き込まれるなんて思っていなかったから、準備していなかったみたいだ。
応急処置をしなくくては! って雰囲気になっているし、私の持っている道具でやってもらおうかな。
そんなことを思っていると、アリエルさんが「ん」と右手を差し出してくる。
「……手、貸せよ」
「へ?」
「いいから貸せよ! 軽く手当てしてやるって言ってんだよ」
そっか。
アリエルさんは一人で依頼をこなしていたから、簡単な手当ての出来る道具は常備しているみたいだ。
「勘違いすんなよ! こいつらが言うからやってやるだけだからな」
「わ、わかってますって」
「さっさと手を出せ」
手慣れた様子で消毒をして、私の手に包帯を巻いていくアリエルさん。
乱暴な口調とは裏腹に、手際が良いし丁寧だ。
ちょっと意外かも。
アリエルさんを見ていた姉妹も口々に感心するような声を漏らしていた。
「アリエル、ボクが思っていたよりも女子力が高いんだな……」
「アーちゃんすごーい!」
「ベルも、アリエル姉様、見習わなきゃ……」
姉妹に褒められて照れたのか、アリエルさんのほっぺたはほんのりと朱に染まっている。
「アリエルさん、ありがとうございます」
「うるさい!」
「いたっ」
お礼を言っただけなのに!
ぎゅっと力強く包帯を締め付けられて傷が痛んだ。
「ほら、終わりだ」
「ありがとうございます」
「別に礼を言われることでもねぇよ」
ぷいっとアリエルさんは顔を背ける。
その後、カミュさんをはじめとする他の拠点候補へ向かっていたフローロの人たちが続々と集まって来た。
全ての人たちが来たのを確認して、私たちはアムレの街へ戻った。
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