135.水は火に強く、火もまた水に強い(個人差あり)
「サーナンさん! カタリナがッ!」と叫びながら、部屋に入って来たサーナンさんの仲間の男を、シラユキさんとジャスミンさんが捕まえたのを見て、私は安心してサーナンさんに視線を向ける。
「サーナンさん。覚悟してください」
「くっそ……!」
苛立った様子で、サーナンさんは自棄気味に魔法を放った。同時に窓際へ走り出す。
どうやら、二階から飛び降りて逃げるつもりらしい。
私たちを人質にしてカタリナさんと交渉するみたいなこと言っていたけど、はったりだったみたいだ。いや、勝算が低いと判断して逃げようとしたのかも。
向かってくるサーナンさんの水魔法を火魔法で打ち消して、サーナンさんが向かう窓に手を掲げる。
「焔よ! 道を阻め!」
炎が窓辺に格子を創り、まるで檻のように行く先を塞いだ。
さすがのサーナンさんも炎の中に飛び込む勇気はないらしく直前で足を止めた。
水魔法を発動させて炎を消そうとしたが、残念ながら焼石に水でまったく効果はない。メラメラと燃え続けている。
さっき攻撃を打ち消した時に感じたけど、今のサーナンさんの魔法には最初のような威力はない。
多くの魔力を消費していること、苛立ちや焦りなどで精神状態も安定していないことなどで魔法の質がかなり落ちていた。
そんな魔法で私の魔法が消せるはずがない。
魔法と言うのは単純な魔力だけではなくて、体力、精神力、日々の努力などの上に成り立つものなのである。
くそっ! と舌打ちをして、サーナンさんが恨めしく私を睨む。
窓から逃げるのは諦めたようで、腰に携えていた剣を抜いた。
魔法の撃ち合いではなく、接近戦に切り替えるつもりらしい。
「サーナンさん。もう諦めて――」
「うるせぇ!」
大きな声で遮られる。
「俺はお前らみたいな大きなギルドにいて、それで自分が偉くなったと勘違いしている傲慢なやつらが嫌いなんだよ! そして、次に嫌いなのはお前みたいな火の魔法使いだ!」
「え?」
「ちょっと派手な魔法を使えるからって鬱陶しいんだよ! いつもいつも邪魔しやがって!」
な、なにそれ?
よくわからないけど、サーナンさんの目の色が変わったのはたしかだった。
(主よ、止血はしておいたぞ?)
(ありがと、シャル)
(かかかっ、よいよい)
とはいえ、血が止まっても痛いものは痛い。
我慢して短剣を抜いて、サーナンさんの攻撃に備える。
柄を握ると右手がやっぱり痛みが走った。
サーナンさんが左手で魔法を放ちながら、右手に剣を構えて突進してくる。
「火魔法使いのくせに、都合よく死ねやぁぁぁぁ!」
サーナンさんは一つ、終始勘違いをしているみたいだった。
主に魔法同士の相性の部分で。
最後になるし、訂正しておこう。
随分と雑になったサーナンさんの魔法を、魔力で強化した短剣で冷静に捌いて話しかける。
「私が火の魔法を使うから、都合がいいって言ってましたよね?」
「それがなんだよ」
「それ、私も同じですから」
振り下ろされたサーナンさんの剣を受け止める。
「水魔法は、たしかに火魔法に相性がいいから都合がいいかもしれません。でも――」
剣に更なる魔力を込めると、炎に包まれた。
私の剣はある程度私の魔法に耐久出来るようにオーダーメイドで作ってもらった、決して安くはない代物。
しかし、サーナンさんの剣はそうではない。
脆くなったサーナンさんの剣の刃を真っ二つにへし折り、
「焔になれば、水は消し飛ばせます! 都合がいいのはお互い様です!」
がら空きになったサーナンさんの身体へ一歩踏み込んで、強化されたままの剣を叩き込む。
「てやぁぁッ!」
振り抜くと、短い悲鳴とともにサーナンさんは吹き飛んだ。
最初、私たちがこの部屋に来たときに座っていた机にぶつかって止まり、砂煙が巻き起こる。
視界が晴れると、サーナンさんは白目をむいて気を失っていた。
「クロエー!」
「うわっと!?」
背中にジャスミンさんが抱きついて来た。
「ジャスミンさん!?」
「あ、ごめんね! つい」
慌てて離れて、胸の前でジャスミンさんは手を振る。
その顔には張り詰めていたものから解放された安堵が見て取れた。
シラユキさんを見ても、表情に柔らかいものが戻っている。
とりあえずは一件落着、かな?
ようやく私も安堵の息を吐いて、二人に笑いかけるのだった。
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