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133.クロエVSサーナン

「クロエ……」


 シラユキさんが、ちらとだけサーナンさんに視線を送ってから私を心配そうに見る。


「大丈夫ですよ、シラユキさん。それより、二人は少し離れててください」

「あ、あぁ、そうだね……」


 ジャスミンさんを連れてシラユキさんは入り口の近くに避難する。


 相手は今までと違って、フローロのギルドでもそれなりの立場に冒険者だ。魔法だって遠慮なく使ってくるだろう。

 とてもじゃないけど、一緒に戦ってくれと言える状況ではなかった。


 私が守りながらでも戦うことはできなくはないかもしれない。

 けど、それでサーナンさんに逃げられたら元も子もない。

 サーナンさんはカタリナさんがいないから、私たちをここで倒していこうとしているけど、少しでも不利だと思ったら無理はしないはずだ。

 ベルさんと子供たちと一緒に逃げている馬車との合流に切り替えると思う。


 そうなれば、また一から場所を探さなきゃいけない。

 確実にここでサーナンさんを捕まえて、馬車が向かっている場所を聞き出して追いかけないと。

 申し訳ないけど、シラユキさんとジャスミンさんの二人を守りながら、相手を逃がさないように戦うのは自信がなかった。

 

 二人もそれを悔しく思っているらしい。

 シラユキさんは唇を噛み、ジャスミンさんは俯いて両手をぎゅっと握っている。


 とはいえ、二人にもやってもらわなきゃいけないことがある。

 ただ見守っていてもらうわけにもいかない。

 

「もしかすると他にもサーナンさんの仲間が残っているかもしれません。すみませんが、そっちまで気が回るかどうか……」

「わかった。それはボクとジャスミンでなんとかする。この部屋には通さない」


 頼もしくシラユキさんが答えると、ジャスミンさんもコクッとうなずく。


「クロエはサーナンさんに集中して?」

「ありがとうございます」


 万が一、シラユキさんとジャスミンさんを狙っても守れる位置に移動して、サーナンさんと対峙する。

 そういえば、サーナンさんってどんな魔法を使うんだろう。

 剣を抜く気配はないし、接近戦ってわけではなさそうだけど。


 様子を窺っていると、サーナンさんがおもむろに話しかけてくる。


「そういえ、あんたは火の魔法を使うんだっけか」

「……だったら、なんですか」

「んー? なにって」


 何を考えているのか不気味に笑みを浮かべると、サーナンさんは右手を私に向けると、


「これまた俺に都合がいいだけだよッ!」


 その手元で魔方陣が展開された。

 刹那、サーナンさんの周りにうねるような激しい水流が生み出される。

 

 なるほど……。

 サーナンさんの使う魔法の属性は水。

 私が得意としている火の魔法に、一般的には相性がいいとされているから都合が良いというわけか。


 なんてことを考えているうちに、やがて水流は鋭く研ぎ澄まされ、槍のような形をかたどった。

 それも一つや二つじゃない。

 数えるのが嫌になりそうなほどだ。

 これだけの魔法を創り出し、なおかつ安定して制御できるとなると、やはりサーナンさんはかなりの実力者ということ。


 私もいつでも魔法を使えるように身構える。

 サーナンさんが手を振ったのが合図となり、無数の水の刃が私に――いや、私()()に襲い掛かった。


 くっ……やっぱりシラユキさんとジャスミンさんも狙ってくるよね……。


 目の前にいる私だけでなく、後ろにいるシラユキさんとジャスミンさんへも躊躇なく攻撃しようとしているあたり、サーナンさんの本気度合いもわかる。

 完全に私たち全員を倒しに来ていた。


(シャル、お願い)

(かかっ。無論、承知しておるわ、主よ)


 水魔法への対抗心があるのか、シャルの心はいつもより燃えている気がする。

 私とシャルの魔力が身体の中で溶け合って馴染んでいった。

 

 サーナンさんの魔法の一つ一つを相殺するのは難しい。

 それに、一つでも見落としたりして後ろに通過させてしまうと、二人に当たってしまう。

 シラユキさんとジャスミンさんが避けられるか……ちょっと微妙なところだ。


 ならば。

 私は両手を前方に突き出して、魔力を集中させると真紅の魔方陣が目の前に浮かび上がる。


「焔よ! 水流を全て無に還せ!」 


 一つ一つを狙うのが難しいのなら、全てを一度に受け止められる大きな壁を創ってしまえばいい。

 言葉と同時に火柱――炎柱といったほうが正しいかも――が現れて、炎の壁が出来上がる。


 水流の槍は炎に触れると、その瞬間に蒸発して姿を消していった。

 気化した水が水蒸気となり、湯気が白煙のように辺りを包む。

 

(主よ、来るぞ)

(うん、わかってる)


 一瞬の視界不良の隙をついて、サーナンさんは次の攻撃を繰り出していた。

 迫りくる魔力を肌で感じつつ、シャルの魔力感知にも頼りながら位置を確かめる。水の魔法に火の魔法を丁寧にぶつけて相殺する。


 よしよし。

 今のところは全部防ぎ切っている。

 このハイペースでずっと魔法を使うのは、サーナンさと言えども厳しいだろう。その隙をついて取り押さえられれば……。


 なんて考え事をしていたから、反応が遅れた。

 木製の古びた椅子が目の前に迫ってきていたのだ。


「おわっと!?」


 魔法を放つ時間もなく、慌てて回避する。

 体勢が崩れて、なかなかカッコ悪い避け方になってしまった。

 魔法に対してばかり警戒をしていたから、物理的な攻撃への感知が遅れてしまい備えられなかった。


 と、好機ととらえたのか、サーナンさんがさらに魔法で水流を創り出す。

 その数は二つ。

 しかし、どちらも最初に見た水流の槍よりも細く鋭い。

 そして――速い。

 狙ったものを一閃に貫く矢のような魔法が私と、後方にいる二人に向かって飛んでくる。


 やっば……!


 今から二つともを防げるような壁を展開できる時間はない。

 できたとしても、厚さが足りなくてたぶん貫通される。


 一つ一つを相殺しようにも、体勢が悪いから二つともっていうのは厳しい。

 ……こうなったら仕方ない。


「やぁっ!」


 左手に魔方陣を展開させて、私に迫る水流の矢を打ち消す。

 そして、私の右側を抜けてシラユキさんとジャスミンさんへ向かおうとする水の矢に対しては――


「……うぐっ」


 ――右手を伸ばして、手のひらで受け止めた。

お読みいただきありがとうございます。


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