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131.ベルの元へ

 その後は運も味方をしてくれたのか、誰にも会うことなく、私たちは二階へ上がる階段を見つけた。

 階段を上りながら、ジャスミンさんが言う。 


「この先にベルたちがいるんだよね」

「はい。ですが、サーナンさんもいるはずですから、気を引き締めていきましょう」


 今のところ、戦った相手は誰も魔法を使っていない。

 使う素振りも見せていないので、おそらく魔法を使えない人たちだったのだろう。


 だけど、サーナンさんは違う。

 フローロでそこそこの地位にいる人だ。油断をしてはいけない。

 こんな誘拐事件をする人だけに何をしてくるか、わからない。シラユキさんとジャスミンさんに危害を加えてくるかも。ベルさんたちを助け出しても、二人が大怪我なんてことになったら笑えない。


 二階に上がって、ベルさんたちがいる、ついでにサーナンさんもいるであろう部屋を探す。


「——まさか、本当に侵入者がいるとはな」

「——ッ!」


 前方から声が聞こえて、私たちは足を止める。

 柱の陰から、背の高い男が現れた。筋肉質な体型で顔に大きな傷跡がある。

 先ほどまで相手にしていた人たちと違って、この人はまるで傭兵のような手練れの雰囲気を纏っていた。

 

「てめぇらが、サーナンが言っていた王都の冒険者だな?」


 男が私たち一人ひとりに確認するような視線を送り、シラユキさんに剣の切っ先を向けた。

 

「お前がカタリナか」

「……え? いや、ボクは」

「サーナンから聞いてんだよ。一人、とんでもなく強い剣士がいるってな」


 シラユキさんの訂正を遮って断言する男。

 どうやら、私たちの中で一番剣士っぽい格好をしているから、シラユキさんをカタリナさんだと勘違いしているらしい。


 二人とも歳も近くて背の高さも同じくらいだし、わからなくもない。

 顔を知らなきゃ、判断できないだろうし。

 

 男はシラユキさんに視線を向けたまま、剣を構えた。

 そして目を見開き、

 

「ヒャッハー! 死ね!」


 飛び掛かって来た男の剣をシラユキさんが受け止める。

 辺りに金属音と響き、火花が散る。


「う、ぐ……」

「はっ! たいしたことねぇじゃねぇか!」


 シラユキさんだって決して弱いわけじゃないけど、相手との上背や筋肉量の差もあって、押し込まれて苦しい状況だ。

 魔法で強化できればいいんだけど、あいにく四姉妹の誰にもまだ教えていない。 

 

「ユキちゃん!」


 心配するようにジャスミンさんは言って、私の顔を見る。


「クロエ、ユキちゃんが!」

「わかってます!」


 シラユキさんを援護すべく、男の背中に狙いを定める。

 魔力を右手に集中させ、手のひらに赤い魔方陣が展開された。すぐさま魔法を撃ち放つ。


 だけどこの位置からだと、もしも男が避けたとしたら、シラユキさんに直撃してしまう角度だ。

 相手の力量が分からない以上、確実に当てられる保証はない。

 だから結局、相手に避けられた場合にシラユキさんも避けられるように、と威力も速度も普段よりもかなり落ちた攻撃になってしまった。


 この攻撃は確実に男に回避されるだろう。

 でも、それでいい。

 男とシラユキさんを離すことができるれば、次の一撃は遠慮することなく放てるのだ。

 それで倒せばいい。


 回避された後、男を確実に仕留めるために、私はじっと男の動きを注視する。


 私が魔法を放ったことに気づいたのか、男がこちらに振り向いた。

 そして魔法を避ける――と思いきや、


「ぎゃっ!?」


 ――そのまま顔面に直撃した。


「あ、あれぇ……?」


 ピターン! と大きな音を立てて床に倒れた男は白目をむき、完全にノックアウトされていた。

 ピクリとも動かない。

 まるで肩透かしでも受けた気分になった。

 もしかして、この人って雰囲気だけでめちゃくちゃ弱かった……?


 まさかの展開にシラユキさんも目を大きくさせて当惑している様子だった。


「えっと、クロエ……? ありがとう……?」

「い、いえ。お怪我はないですか?」

「うん。ボクは大丈夫」

 

 剣を鞘に戻しながら、シラユキさんは苦笑する。


「急にボクのところに来たときは、驚いたけどね」

「すみません。私も反応が遅れてしまって」

「クロエが謝ることはないよ。それに、あのくらいはボク一人で対処できるようにならなくちゃね。そう思わされたよ」

 

 それからシラユキさんは床に倒れている大きな男に心配そうな視線を向けた。

 まるで死体のようだ。

 

「この人、大丈夫かな?」

「クロエの魔法を顔で受け止めてたよね!?」


 痛そう……とジャスミンさんは思い出しているのか顔を歪めた。


「たぶん大丈夫です。息はあるみたいですから」

「そっか、よかったぁ。ユキちゃんも、ほんとに大丈夫なんだよね?」


 ほっとした息を吐きつつ、心配そうに長女へ視線を送るジャスミンさん。

 シラユキさんはそんな妹を安心させるように柔らかく微笑んで髪を撫でた。


「大丈夫だよ、ジャスミン」

「それなら、ほんとよかった……。ユキちゃん、カッコよかった!」

「そうかな? ありがとう」


 少し照れたようにはにかんで、シラユキさんは頬を掻いた。

 ジャスミンさんは興奮気味に顔をシラユキさんへ寄せる。

 

「なんかね、お姉ちゃんって感じだった!」

「そんなに言われると、なんだか恥ずかしいな……」

「アタシも、何もできなかったけど、がんばる」


 シラユキさんはもう一度ジャスミンさんの髪をくしゃりと撫でた。

 姉妹の微笑ましいやり取りを見守りつつ、私は声をかける。


「それじゃ、まずはベルさんと攫われた子供たちの救出ですね」

「うん。アタシ、頑張るから何でも言ってね」

「はい。頼りにしてますね」


 この階のどこかにベルさんと子供たちが監禁されている。

 そして、きっとサーナンさんも。

 おそらく戦うことになるだろう。気を引き締めないと。


 私たちは、いよいよサーナンさんが待ち構えているであろう部屋に向かうのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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