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130.結果オーライ

「——くしゅん」


  クローゼットから可愛らしい声が聞こえて、部屋を出て行こうとしていた男たちは足を止める。

 

 ちょっとジャスミンさんんんん!?


 古びた建物で、部屋の中も荒んでいて埃っぽかったから、くしゃみをしてしまう気持ちは理解できる。

 生理的な現象だし、仕方のないことだと思うけど……。

 

 だけどタイミングがタイミングである。あとちょっとだけ遅ければ……。

 なんていうか、ジャスミンさんっぽい感じはするけどね!

 ベッドの向こうに隠れているシラユキさんは、妹の失態という現実から目を逸らさずにはいられない、とばかりに表情が死んでいた。


 どうかな、気づかれた……かな……?


「おい、今の聞いたか!?」

「あぁ、お前の言うように誰かいるみてぇだな!」


 やっぱりダメだったか……。

 男たちは警戒した様子で部屋を見渡している。

 二人とも剣を構えて、クローゼットのほうにゆっくりと進んで行く。

 

 幸いにも、男たちは私とシラユキさんがいることには気が付いていないみたい。

 クローゼットに歩んでいく背中は隙だらけだ。

 心配そうに「どうする?」と視線を送ってきているシラユキさんに、私はコクッとうなずいた。 


 静かに短く息を吐いて、魔力を右手に集中させる。

 もう一度シラユキさんとアイコンタクトをして、同時に飛び出した。

 私に近いほうの男の、がら空きの背中に魔法を叩き込む。

 

「ぎゃあ!?」


 男が悲鳴とともに崩れ落ちたのを確認して、シラユキさんを援護しようともう一人の男へ視線を向ける。

 

「シラユキさん、そっちは大丈夫――みたいですね」


 その場にへたり込んでいる男に剣を突きつけているシラユキさんの姿に、ほっとする。

 男は不意を衝かれたこともあってか、シラユキさんに剣を弾き飛ばされたようで手には何も握られていない。

 完全に勝負ありといった様子だった。

 シラユキさん、お強い。

 

 対人戦はあまり練習していないからシラユキさんを心配していたんだけど、その必要は全くなかったみたいだ。

 元々のセンスに加えて、アリエルさんと一緒に依頼もたくさんこなしていたわけだし。

 指導役として嬉しい限りである。


「まぁ、なんとかね」

「さすがです」


 男が仲間を呼んだりしないうちに魔法を放って、気絶させておく。

 それでようやくシラユキさんは短いため息を吐き出した。

 

「これでひとまずは安心、かな?」

「ですね。ドキドキしました……」

「ははは、ボクも」


 シラユキさんは苦笑をして、ジャスミンさんがいるクローゼットに向かって話しかける。

 

「ジャスミン、ボクだ。開けるよ?」

「……うん」


 返ってきたジャスミンさんの声は自分のミスに落ち込んでいるみたいで、消え入りそうなものだった。

 シラユキさんがゆっくり扉を開けると、ジャスミンさんは中で膝を抱えて小さく座っていた。


「ジャスミン、平気かい?」

「うん。アタシは、全然……」


 肩を落としてクローゼットから出てきたジャスミンさん。

 私とシラユキさんをちらっと見て、申し訳なさそうに頭を下げた。


「ユキちゃん、クロエ……アタシのせいでごめんね……」

「ジャスミンさん、大丈夫ですから。頭を上げてください」

「ボクも気にしていないよ。大丈夫」

「でも」


 強く負い目を感じているのか、元気のないジャスミンさんに、シラユキさんが優しい口調で言う。

 

「謝るのはジャスミンだけじゃない。ボクもだ」

「ユキちゃんも……?」

「うん」


 首肯して、シラユキさんは私に顔を向けた。

 ちらと一瞬だけ床に転がっている男たちを見てから、口を開く。


「この人たち、銀色の髪が見えたからって言っていたよね?」


 その質問にうなずく。

 この人たちは部屋に逃げ込んだ私たちをベルさんが逃げ出したのではないか、と勘違いをしてこの部屋に入って来たのだ。

 勘違いをする原因となったのは、銀髪が見えたからであると話していた。

 つまり、シラユキさんとジャスミンさんのうち、どちらかの髪の毛を見られたわけだけど……。

 

「たぶん、ボクが遅れたせいだ。だから、ジャスミンだけのせいじゃないよ」

「そんなこと、それってアタシかもしれないし」

「いや、最後に入ったのはボクだったからね。ボクも悪いよ、ごめん、クロエ」

「お二人とも気にしないでください」


 謝罪する二人に私は胸の前で手を振る。

 

「シラユキさんだったから、疑われるだけで済んだんです。もし見つかったのが私だったら、侵入しているってバレてしまっていたと思いますから」

「そっか……そういうもの、かな」

「はい。ジャスミンさんだって」

「アタシも?」

「くしゃみのあと、ジャスミンさんが中から出てこなかったから、私とシラユキさんが相手の不意を衝けたんです。おかげで相手の数が二人減りましたし、ちょっと楽になりました」

「う、うん……クロエがそう言うなら……」


 二人とも納得はいかないのか、微妙な表情だ。

 こういうとき、やっぱり姉妹だなぁなんて思ってつい少しだけ口元が緩んでしまう。


「ベルさんたちのいる場所もわかったわけですから、結果オーライです」


 ピンチになったとはいえ、一番知りたかった情報を手にできたのだ。

 悪いことばかりでもなかったと思う。

 私にもミスはあったわけだし反省はする。だけど今は引きずっているわけにもいかない。

 落ち込むのはもう少しあとにしないと。


「それにまだベルさんたちを助ける途中ですから、気合を入れ直していきましょう」

「……そうだね。クロエの言う通りだ。ボクらも落ち込んでいる場合じゃなかったね」

「うん。アタシももっとがんばる……!」


 二人ともグッと力強く拳を握り、真っすぐな瞳で私に言う。

 よかった。

 シラユキさんもジャスミンさんも良い表情に戻ってくれた。


「急ぎつつ、でも周りを警戒しながら行きましょう」


 廊下に誰もいないのを確認してから、私たちは部屋を出る。

 ベルさんと攫われた子供たちがいるという、二階へ行くために再び廊下を進んだ。

お読みいただきありがとうございます。


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