13.主と魔法書
夜になり、私は自分の部屋で今日のことを振り返りつつ、明日からの予定を立てることにした。
四姉妹に魔法を教えるはずが、魔法の「ま」の字も教えられていない。
というより、四人ともが魔法を覚える気がないのは明白。指導を受けてもらえる気配もなかった。
今までに、私よりも優秀な人が指導役で来たのに辞めていった気持ちが初日にして理解できた気がする。
とはいえ、私まで放り出すわけにもいかない。
ティナさんのご飯は美味しいし、お風呂も最高。こうして広い自分の部屋まで与えてもらっている。その恩には報いたい。
それに私も魔法使いの端くれ。魔法使いの一人として、四人にも魔法を好きになってもらいたい。
「して、クロエよ」
魔法書から少女の姿になったシャルが、ベッドに座っている私の隣に腰を下ろす。
もちろん全裸である。四姉妹には刺激が強いかもしれないから、もう少しシャルのことは黙っていたほうがいいかもしれない。
当人のシャルは裸であることはやはり気に留めず、足を組んでいた。
シャルにバレないよう、ちらっと胸部を見る。うん、シラユキさんのことは多くは語らないほうがよさそうだ。
「なかなか曲者が多いようじゃが、お主どうするつもりよ?」
「一人ひとり説得っていうか、話すしかないんじゃないかなぁ」
「ふむ、面倒ではないか?」
「仕方ないよ。魔法を嫌いって言うのは聞いてたから、難しいとは思ってたし」
「我が一発かましてやってもよいぞ? うん?」
「ダメだよ……」
かかっと上機嫌に笑うシャル。
本当にこの妖精は好戦的っていうか、何というか。
冗談で言ったのかもしれないけど、すごくわかりにくい。
「まずは四姉妹ともっと仲良くならないと。私のことを受け入れてもらえないと、指導をしても嫌々になるかもだし。それじゃあ身に付かないもん」
「そういうものなのかの」
「そういうもの……だと思う」
力技は絶対に悪手だと思う。
無理やり魔法を指導するのなら、言ってしまえば誰にでもできる。それで解決するのであれば、とっくの昔に四姉妹のお父さんが解決しているはずだ。
「四人が魔法を嫌って使わなくなったのはお母さんが亡くなったのがきっかけって聞いた」
「亡くなった……魔法で殺されたか、それとも制御できず身を滅ぼしたか、ということか?」
「それは、わからない……」
すごくプライベートな部分っていうか、繊細な話だと思う。
それが直接の原因となっているかも不明だけど、少なくともそれをトリガーとして四人が魔法を嫌いになったのは間違いない。
絶対に魔法を使わないと決めて、誰が来ても指導を無視するくらいだから、大きな感情をもっているのだろう。
お母さんのことを教えてくれるくらいに心を開いてくれれば、きっと魔法を嫌いな理由も教えてくれると思う。それがわかれば、一緒に解決できるかもしれない。
四人が四人、それぞれ違う理由を抱えているはずだ。
大変だとは思うけど、がんばりたい。
「シャル。たぶんシャルの力を借りるときが来ると思う」
「よいよい、わかっておる。我にできることはするつもりじゃ」
「ありがと、シャル」
「礼などよいわ。そなたは我が主ではないか」
シャルがいてくれて、本当に良かったと思う。
ギルドを追放されたときもシャルが怒ってくれて、少し嬉しかったし、だから追放を受け入れることもできた。
「クロエ。明日はどうするつもりじゃ?」
「街に行こうかなって思ってる」
「ほう、街に」
「シラユキさんは街にいると思うし、アリエルさんが依頼を受けるのなら一緒に行こうかなって。ジャスミンさんは何をするかわからないけど、帰りにベルさんに本を買ってこようかなって思ってる」
「……大変そうじゃの」
他人事のようにつぶやくシャル。
あなたも一緒に行動するんですよ! シャルは朝が苦手だから、お昼から活躍してもらうことにしよう。
……いざとなったら、遠慮なく叩き起こさせてもらうことにする。
今日はアリエルさんもお昼から依頼に行っていたから、それで大丈夫だと思うけど。
「てことだから、もう寝るね」
「うむ」
クロエ
16歳。明るい茶髪のミディアムヘア。次女アリエルと三女ジャスミンの間くらいの長さ。長いと邪魔になるので、肩口よりも少し下くらいでいつも切っている。
シャルロット
魔法書。???歳。プラチナブロンドのショートカット。アリエルよりもちょっとだけ短い。