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128.黒幕

 人喰いと呼ばれる魔物との対峙はカタリナさんとアリエルさんに任せて、私とシラユキさん、ジャスミンさんは湖畔を目指して進んでいた。

 かつてお金持ちの人たちが別荘を構えていたらしいので、そこが犯人の拠点になっている可能性が高い。


 後ろからは獣の大きな叫び声が時折聞こえてくる。

 カタリナさんがいるから劣勢ということはないだろうけど、それでも気になって後ろ髪を少し引かれてしまう。

 そのたびに私たちはベルさんと子供たちの救出を任されたのだから、と足を進めた。


 まだこの森に犯人と攫われた子供たちがいると決まった訳ではない。

 あくまでも可能性が高いというだけの話だ。

 この場所が外れだったら、カタリナさんたちと合流して人喰いを討伐、その後アムレに戻って改めて犯人たちの拠点へ移動することになる。

 

 道草を食っている時間はないだろう。

 足元はとても悪いけど、シラユキさんもジャスミンさんもちゃんと付いてきてくれている。


 しばらく進んでいると周りの空気が少しだけ変わった。

 元別荘が構えられている湖畔が近いのだろう。

 目を凝らして先を見ると、茂った木々が開けた場所に繋がっているようだった。

 この辺りからは見張りがいるかもしれないので、警戒して進んだほうが良さそうだ。

 

 一度速度を落として立ち止まる。

 シラユキさんが不思議そうに尋ねてくる。


「どうかしたかい、クロエ?」

「この先に別荘があるようなので、もしかすると見張りがいるかもしれません」

「そっか。ここが一番可能性が高いんだもんね」

「はい。気を引き締めて進みましょう」


 コクッとうなずいてくれた二人と、さらに奥へと進んで行く。

 やがて鬱蒼としていた木々が拓けた湖畔にたどり着いた。


 この一帯だけが拓けており、大きな湖の周りはぐるりと森が囲まれている静かで落ち着いた場所だ。湖のほとりには降るそうだけど四姉妹のお屋敷に負けず劣らずの別荘が建てられている。


 そして。


「……どうやら、クロエとカタリナの思っていた通りだったみたいだね」

「うん。あの人絶対悪い人だもん」


 森の中、木の陰から湖畔を覗きながら、シラユキさんとジャスミンさんが声を潜めて言う。

 別荘の前に立っている小汚い男が剣を片手にあくびをしているところだった。

 

 言っちゃ悪いけど貴族の護衛にはどこから見ても見えない。

 どうやらこの場所が子供たちを攫い、ベルさんも連れ去った犯人の拠点で間違いないみたいだ。


「クロエ、どうする?」

「突撃する? アタシ、がんばっちゃうよ」


 ぐっと両手を握ってやる気十分のジャスミンさん。

 シラユキさんが苦笑しながら宥めた。


「落ち着いてジャスミン。大胆なのはジャスミンの良いところだけど、ここは冷静に行ったほうがいいと思うよ?」

「そ、そっか。ごめんね、ユキちゃん」

「ううん。ボクたちが捕まってしまったり、ベルたちを危険な目に合わせるのは避けないとね」

「そうだよね……でも、どうするの?」


 二人の視線が向けられる。

 私は油断しまくっている見張りをちらっと見て答える。


「あの見張りを近くまでおびき寄せて捕まえましょう。本当にここにベルさんと子供たちがいるのか確かめたいですし」


 せっかく相手の見張りは一人しかいないのだから、下手に動いて仲間を呼ばれるのは避けたいところ。

 それにただの盗賊かもしれないから、事実の確認はしておきたい。

 どうやっておびき寄せようかと思っていると、何やらガタガタという音が聞こえてきた。


「あ、ちょっと待ってください。誰か来るみたいです」


 息を殺して観察していると別荘跡地の真向かいから馬車がやって来た。

 どうやら、あの馬車がやって来た道を通れば人食いと呼ばれる魔物と出くわすことなく、この別荘まで来られたらしい。

 帰りはあの道を使ってアムレに戻ろうと考えていると、馬車の扉が開いて人が降りてきた。


「え……?」


 その人物を見て、私は目を疑った。

 同じく馬車を見ていたシラユキさんとジャスミンさんも驚きの表情を浮かべている。


「クロエ、あれってサーナンさんじゃないかい?」

「で、ですね」

「アタシたちを助けに来てくれたのかな?」

「わかりません……」


 何が起こっているのか、本当にわからない。

 だけど、助けに来てくれたようには見えない。


 サーナンさんたちのパーティーは別の場所を担当していたはずだ。

 もうハズレだと確認ができたから、私たちの援護に来てくれたのだろうか……?

 いや、でも……。

 人喰いに会わずに済む道を知っているのなら、どうして私たちに教えてくれなかったんだろう。


 疑念で頭の中がいっぱいになる。

 サーナンさんは周りをきょろきょろと警戒しながら見張りの男に話しかける。


「おい、異常はないだろうな?」

「へい。今のところは問題ありませんぜ、サーナンの兄貴」


 不機嫌そうなサーナンさんに媚びへつらうように言う男。

 サーナンさんの知り合い?

 フローロやアムレのギルド関係の人には見えないけど……。

 二人の会話に耳を傾ける。


「ガキどもも全員、他のやつらがちゃんと見張ってますんで」

「……アポロンのガキは」

「昨日からずっと大人しくしてます。怖いくらいに落ち着いてるって中の奴が気味悪がってました」

「あいつにはもう少し役に立ってもらわねぇといけねぇからな。油断せず見張っとけよ」

「へい」

 

 会話を終えると、サーナンさんは別荘の中へ入っていった。

 ジャスミンさんが信じられないものを見た、という顔で私とシラユキさんに視線を向ける。


「ユキちゃん、クロエ、これって……」

「……だね。ボクも信じられないけどサーナンさんが黒幕だったって、ことだよね?」

「そう、ですね」


 敵の拠点である別荘の中に堂々と入っていったのだ。しかも、それを見張りの男は咎めなかった。

 間違いなく、サーナンさんも敵の仲間なのだろう。

 いや、二人の様子からして、サーナンさんのほうが立場が上のようだったから、主犯やリーダーなのかもしれない。


 だけど、どうしてサーナンさんはこんなことを?

 マスターであるカミュさんに誘拐事件の担当を任されているんだから、ギルドでは信頼されていてそれなりの立場にいるはずだ。

 そんな人が何を思って事件を起こしたのだろう。

 

 ……考えても私にはわからない。

 こうなれば、本人に聞くしかないだろう。


 サーナンさんが関わっていたなんて想定外だけど、それでも私たちのやることは何一つ変わらない。

 ベルさんと子供たちを助けるだけだ。

お読みいただきありがとうございます。


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