125.最強の助っ人
フローロへ戻って来たあと。
その日のうちに私とカミュさんはアムレの近くで犯人が拠点にしている可能性が高い場所の絞り込みを行った。
シラユキさん、アリエルさん、ジャスミンさんも手伝いたいと言ってくれたんだけど三人人は先に休んでもらうことにした。
今日はベルさんを探して街を探しただけでなく、その前に本来の依頼であった現場の調査も行っているのだ。
明日はベルさんと子供たちを連れ戻すため、街の外に出ることになる。
そのために少しでも休んで体力も気力も回復させておいてもらいたい。
途中で帰ってきたサーナンさんも加わって、作業を進める。
サーナンさんによると、ベルさんがいなくなった同時刻に別の子供も誘拐されていたらしく、そちらの家族の対応に当たっていたらしい。
つまり、ベルさんが誘拐されたタイミングで別の子供も誘拐されたということになる。
「——ではクロエさん。私たちもそろそろ」
「ですね。すみません、こんな遅くまで」
構いませんよ、とカミュさんは首を横に振ってくれる。
「明日のお昼前には、王都へ送る早馬が帰って来ると思います。それまではクロエさんも休んでください」
「そうさせてもらいます」
お礼を言って、カミュさんの部屋を出る。
カミュさんに用意してもらったギルド内の部屋に戻ると、三人がソファでそれぞれ身を寄せ合うようにして眠っていた。
真ん中で寝ている長女のシラユキさんの左にアリエルさん、右にジャスミンさんがもたれるように寝息を立てていた。
その微笑ましい光景に思わず口元が緩んでしまう。
もしかしたら、私が戻って来るのを座って待っていてくれたのかもしれない。
いや、不安ですぐに寝ることができず、三人で何か話をしていたのかも。
肉体的なもの以上に精神的にも疲労困憊だったはずだから、途中で三人ともそのまま眠ってしまったのだろう。
だけど。
本来なら、この輪の中にベルさんがいるはずなのだ。
四人でいるのが当たり前なのに、目の前には三人しかいない。
なんだか胸の奥がぎゅっとなる。
「……絶対にベルさんを連れ戻しますから」
三人を見ていたら、自然とそんな言葉が口からこぼれ落ちた。
この事件を解決して、また四人と一緒に美味しいご飯を食べたい。
「……ぅん?」
シラユキさんのまぶたがゆっくりと開いた。
静かに部屋に入って、声も潜めていたつもりだったけど起こしてしまったらしい。
「あぁ、寝てしまってたのか……おかえりクロエ」
「すみませんシラユキさん。起こしてしまって」
「ううん、気にしなくていいよ」
シラユキさんは左右の妹たちを見て優しく微笑むと、起こさないよう気をつけながらゆっくりと立ち上がった。
「クロエ、悪いんだけど妹たちをベッドに運ぶの、手伝ってくれないかな?」
「もちろんです」
「ありがとう。ジャスミンをお願い」
シラユキさんはアリエルさんの腕を自身の首に回して、ベッドまで連れて行く。
さすがのシラユキさんもアリエルさんをお姫様抱っこするのはできないらしい。
シラユキさんのほうが背は高いとはいえ、体格はほとんど変わらないし、アリエルさんは筋肉もしっかりついているから難しいのだろう。
サンズさんとかなら、できるんだろうけど。
私もシラユキさんに倣って、ジャスミンさんをベッドまで運ぶ。
「シラユキさんも休んでください」
「うん。そうするよ」
うなずいて、ベッドへ向かうシラユキさん。
だけど、その途中で足が止まる。
「クロエ。ベル、大丈夫かな……」
末っ子を案じる長女の表情はひどく不安が滲んでいる。
いつものシラユキさんとはかけ離れた影が落ちていた。
「大丈夫、と無責任に言い切ることはできません。でも、わざわざ誘拐するってことは何か目的があるってことですから」
「……そう、だよね。うん、ごめんね」
「いえ……」
「クロエも疲れているんだから、ちゃんと休んで」
それから、それぞれベッドに入る。
私の意識が夢の中に旅立つまで、少なくともシラユキさんの寝息は聞こえてこなかった。
次の日の朝。
早馬として王都へ向かってくれた人を見送ることはできなかったけど、王都から戻ってくるのを迎えることはできた。
朝の準備を整えて、シラユキさん、アリエルさん、ジャスミンさんとフローロの一階で迎え入れる。
到着の予定はお昼前、とのことだったけど、予想に反して正午まではまだ2時間ほどある。
それだけ急いでくれたってことだ。
フローロからの協力依頼を受領するサンズさんの許可はすぐに下りたらしい。
そして私たちのファミリアだけでは心もとないと、アポロンから冒険者を送ってくれた。
私も数人くらいは来てくれるかなぁ、なんて思っていた。
だけど、サンズさんが向かわせてくれたのはまったく予想していなかった人物だった。
王都からやって来たのは――
「なんだかクロエとは思いがけないタイミングで顔を合わせるのが多いようですね」
小さく笑みを浮かべ、紅の長い髪が小さく揺れる。
腰に携えた二振りの細身の剣。
以前会ったときは私服だったけど、今は動きやすそうな鎧を着ていた。
「まさか、カタリナさんが来てくれるとは思いませんでした」
「私からマスターにお願いをしたんです」
「カタリナさんから?」
「ええ。マスターは二つほどパーティーを送るつもりだったようですが、私一人のほうが強いですから」
はっきりと断言してしまうカタリナさん。
いや、実際のところそうなのでしょうけど!
カタリナさんくらい強い人が言うと嫌味にも聞こえないっていうか、ただの事実である。
「それに私にとってもお嬢様方は大切ですから。一秒でも早く解決したい」
カタリナさんは私の後ろに並んでいる三人に視線を移す。
「シラユキお嬢様、アリエルお嬢様、ジャスミンお嬢様。微力ながら私もお力添えをさせていただきます」
いやいや、微力って……。
言葉の綾だと思うけど、心の中で突っ込まずにはいられなかった。
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