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123.南門へ

「調べたいこと、ですか?」

「門番の人のところに行ってこようかなって」


 ベルさんがいなくなってから、まだ時間は経っていない。

 さすがに連れ去られるベルさんを見ている、なんて都合のいいことはないだろう。

 だけど、拠点が外にあるのならば、不審な荷馬車が門を通過している可能性もある。


 なんでもいいから手がかり、糸口を見つけたい。

 明日になれば、時間が経てば経つほど、今まで事件が解決できていないようにわからなくなっていくだろう。今のうちにできることはしておきたい。


 私の言葉にカミュさんは数秒の間思案を巡らせてから、うなずいた。


「そうですね……たしかにベル様は他の子供たちよりも早くいなくなったことがわかったので、何か掴めるかもしれません」


 おそらく、カミュさんたちも子供たちが消えた後、門番の人に話は聞いている。

 でも、街の子供たちが消えた時は今よりも遅く尋ねていると思う。早くても次の日の朝、とか。

 それは誘拐されたのか、それとも単に帰って来るのが遅いだけなのか、そこの判断が難しいからだ。

 子供たちは門限を破ることもあるだろう。だからどうしても対応が遅れてしまう。


「アムレの街から外に出る門は東西南北の四つだけですか?」

「ええ。ですが、今の時間は南北の二つだけになっています」

「そうなんですか?」

「二週間ほど前から、この時間……というよりも、夕暮れ以降は東西の門は閉じるようにしているんです」


 二週間前、ということはこの事件がきっかけなのは間違いなさそうだ。

 カミュさんたちも犯人が攫った子供たちを外に連れ出している可能性を踏んで、

 昼間もそれが出来たらいいんだろうけど、やって来る商人の数が違うからできないのだろう。来る人だけでなく、外に出る人の数も昼と夜では大きく違うだろうし。

 

 説明してくれたカミュさんは最後に自嘲気味に笑う。


「それでも何も掴めていないのが現状なのですが」

「いえ、いいことを聞きました。ありがとうございます」


 カミュさんに言ってもらわなかったら四つの門を順番に回るところだった。

 東西の門が閉じられているのなら、行くところは一つだけでいい。


「南門へ行ってみます」

「南門だけですか? 北門へは……」

「北に拠点があった場合、王都との間になりますから、下手をすれば王都のギルドが出てくる。それは避けたいと思うはずですから」

「なるほど……たしかに北側に拠点は置かないかもしれませんね」


 それにここから王都へ行くよりも南にある街のほうが遠い。

 距離がある南の街道を進んだほうが隠れられる場所もたくさんあるだろう。

 北にある街道は王都から出発する冒険者の多くも使うから、その分発見される可能性も高いと思う。


 とするならば、南側のどこかに拠点を構えているはずだ。

 もちろん、街の中に隠れている可能性も捨てきれないけど……。


「街の外の調査って、あんまり進んでないんでしたよね?」

「進めようとはしているのですが……」


 申し訳なさそうにカミュさんは伏し目がちに答える。


「依頼はこの事件だけではないので、どうしても外と調査するとなると、なかなか進まず……すみません……」

「いえ、責めているわけではないんです。仕方ないと思いますから」


 カミュさんの言う通り、ギルドが請け負っている依頼は誘拐事件だけではない。

 ギルドだって運営しなきゃいけないし、冒険者だって生活がある。

 誘拐事件ばかりにかまけている余裕はないだろう。


 事件を解決できれば、そこそこの報酬が出るかもしれない。

 だけど調べるだけで事態は進展しないとなると、報酬はきっと多くはない。もしかするとゼロかもしれない。

 

 街の中ならまだしも、出費だけがかさんでリターンが少なく、加えて魔物と戦わなければならない外の調査に喜んでいく冒険者がいるとは考えにくかった。

 となると、調査に必要な費用の負担はギルドがもつことになる。多少は街も支払ってくれるかもしれないけど、厳しい状況であることに変わりはない。

 

 アポロンのような王都の大きなギルドならば、金銭的な心配をすることなく、優秀な冒険者を大勢集めた人海戦術ができるだろう。

 だけど、そんな大胆な作戦ができるのは本当に限られたギルドだけだ。

 

 豊かな資金面と、所属している冒険者の高い質が必要となる。

 何の心配もなしにそれができるギルドなんて、王国で数えても5つもないかもしれない。


 逆に言えば。

 犯人側がそれをわかっているかもしれない。

 大胆な策を使ってくるギルドはアムレにはないと。

 

 やはり街の南側に拠点を構えている可能性が高い気がする。

 あとは街の外にベルさんを連れ出した確証さえあれば、もっと絞り込めるんだけど……。


「あの、クロエさん」

「はい……?」


 ちらっとカミュさんは私の後ろにいるシラユキさん、アリエルさん。ジャスミンさんに視線を向けた。

 私に顔を戻して、心配そうに言う。


「南門へ行くのはお嬢様方もお連れするつもりでしょうか?」

「そのつもりですけど」

「ベル様は狙われて誘拐されたとしたら、他のお嬢様方は大丈夫でしょうか?」


 もちろんその可能性も考えた。

 シラユキさんたちには、ここで待っていてもらって私一人で行動したほうがいいんじゃないかって。

 だけど、それが犯人の狙いだとしたら?

 私がいない間に他の姉妹も攫うつもりだったら?

 

 ……ベルさんは私といたときに誘拐されてしまったわけだから、あまり偉そうなことは言えないけど。

 私の近くにいたら絶対に安全とは言えない。

 でも、今はあの時と違って油断していない。むしろ、相手から来てくれるのなら望むところである。


 それに私の気持ち以上に――


「お前、何迷ってんだよ」

「アリエルさん……」

「何と言われようとオレは行くぞ。ベルをこのまま放っておけるかよ」


 はっきりと言うアリエルさんの瞳には固い意志が見受けられた。

 そうだよね。

 この姉妹が妹のピンチに自分だけ安全なところにいるという選択をするはずがないのだ。


「アタシも行くよ」


 グッと拳を握っているジャスミンさんが続く。

 次に狙われるとしたら三女のジャスミンさんの確立が高いわけで、一番不安を感じているはずだ。

 だけど、力強く宣言した。


「アタシだから、ううん、アタシたちだからわかることだってあると思う。それに何もしないでいるのは嫌だから」

「ボクもアリエルとジャスミンに同意だ」


 最後に長女もうなずく。


「それにクロエは言っていたじゃないか」

「へ?」


 何か言っただろうか?

 うーん、と考えてみるも思い出せない。

 そんな私にシラユキさんがウインクをして答えを教えてくれる。


「ボクたちを死んでも守ってくれるんだろう?」

「ッ!」


 そうだ、確かに言った。

 四人と初めて王都の外で魔物を相手に鍛錬をしていた時だ。


「——はい。その通りです」

「だったら決まりだね」


 二言はない。

 私は四姉妹の先生でファミリアのマスターなのだから。

 もう一度、私は自分に言い聞かせるためにも断言しておく。

 

「私が三人には絶対に手出しはさせません」

「……ベルには手を出させてるけどな」


 ボソッとアリエルさんが皮肉を零す。

 それを言われてしまうとつらい……。


「うっ……」

「こらこら。アリエル」


 シラユキさんが宥めてくれる。


「それはクロエだけのせいじゃないさ。ボクたちにも責任はある。だから、ベルはボク()()が連れ戻さないと」

「そ、そうだよアタシたちもいたんだから」

「わかってるよ」


 舌打ち混じりにアリエルさんが返答した。

 

 私たちのやり取りを聞いていたカミュさんが「あの」と提言する。


「クロエさん、私も一緒に行きましょうか?」

「いえ、カミュさんには他にお願いが」

「お願いですか?」

「街の南側で犯人の拠点になりえる場所を洗い出してもらってもいいですか? 噂とかでもいいので」

「わかりました。明日、クロエさんたちが本格的に動き出せるようになるまでには」

「ありがとうございます」


 距離の問題だったり、魔物が出たりする関係で犯人の拠点がありそうだけど本格的な調査はできてない、そんな場所があるはずだ。

 王都の私たちよりもカミュさんたちに任せた方が絶対に良い。犯人だってこの辺りの地理には詳しいだろうし、その目線でも候補を絞り込んでくれると思う。

  

「それから、今日はギルドにクロエさんとお嬢様方が泊まれる場所を設けますので、よろしかったら」

「いいんですか?」

「もちろんです。そのほうが色々と都合も良いかと」

「お言葉に甘えて、門の調査が終わったら、ここに戻ってきますね!」

「ええ。お気をつけて」


 カミュさんと別れて、私たちはフローロを出た。

お読みいただきありがとうございます。


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