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122.誘拐の理由

 フローロへとやって来た私たち。

 しかしギルドの外にも、中に入ってぐるりと見渡しても、どこにもベルさんの姿はなかった。

 

 やっぱり来てないのかな……。

 それともカミュさんの部屋で待っているのだろうか?


 とにかくカミュさんと話をしようと、受付へ移動する。

 その途中。二階からカミュさんが階段を降りてきた。


「あら、クロエさんとお嬢様方。どうかされましたか?」

「カミュさん! ベルさん、ここに来てないですよね?」

「ベル様ですか? 見ていませんが」


 カミュさんが受付の女性に確認するも、女性も首を横に振った。

 元々薄い望みだとは思っていたけど、やはり先にフローロへ向かったわけではなかったらしい。

 もしもベルさんが待っていたのなら、私たちの姿を見つけたらすぐに駆け付けてくれるはずだ。

 

 となると……。

 そういうことになってしまうだろう。


 私たちの不安や焦り、同様を不審に思ったのか、カミュさんが首をかしげる。


「あの、クロエさん。ベル様がどうかしたんですか?」

「それが……」


 ベルさんがいなくなった経緯を説明する。

 話が終わると、カミュさんは信じられない、と目を見開いた。


「ベル様が……!?」 

「すみません……私が目を離したせいです……」


 唇を噛んで俯く。

 本当に、あのときずっと手を繋いでいたらこんなことにはならなかったのだ。

 後悔が押し寄せてくる。

 

 すると、ポンと肩に手が優しく乗せられた。


「シラユキさん」

「これはクロエだけのせいじゃないよ」

「そうだよ、アタシたちだって近くにいたんだから」

「ジャスミンさん……」

 

 慰めてくれる二人の顔にも、それぞれ自責の念が滲んでいた。

 次いで、アリエルさんが私に一歩ずいっと近寄る。


「後悔しても仕方がねぇだろ。それよりもベルを助ける方法を考えろよ」

「アリエルさん……」


 そうだ、その通りだ。

 ここで誰の責任とかって話をしてもベルさんが戻ってくるわけじゃない。

 アムレで起きている誘拐事件に巻き込まれた可能性が高いのなら、その事件を解決して助けるほかない。


「カミュさん。ベルさんを助けるために、この誘拐事件の解決に私たちも協力させていただけませんか?」

「クロエさんたちが」

「はい。今まではアムレの事件だったので私たちは現状把握だけに務めてきましたが、もう無関係ではないので」

「そう、ですね……」


 まだベルさんが誘拐されたと決まったわけじゃない。

 でも、その可能性が高いのである。であるならば、王都のギルドに所属しているからと言って黙って見ているわけにはいかない。

 カミュさんは数秒考えを巡らせたあと、数回うなずいた。


「わかりました。クロエさんたちのファミリアに正式に協力の依頼を要請します」

「ありがとうございます! あの、つきましては」

「ええ、アポロンの許可ですよね? それはご心配なく。明日の朝一番で王都へ早馬を送ります」


 これでアポロンが要請を受領してくれれば、正式に解決に動き出せる。

 それに私たちは明日の夕方に王都へ戻る予定になっているけど、今の状態では戻れない。予定を延長してアムレに留まる旨も伝わるはずだ。

 ベルさんがいなくなっているから、安心なんてできるはずないけど……。


「それからギルドに今いる冒険者にベル様の捜索をさせます」

「いいんですか?」

「もちろんです。事件から時間も経っていないので何かを掴めるかもしれませんから。それとサーナンも呼びますね。彼のほうが色々と詳しいですから」

「あ、ですね。お願いします」


 何か新しい情報などが入ってきているかもしれない。

 きっとフローロは独自の警戒網が作られているはずだから、もしかするとベルさんの行方の手掛かりを掴んでいるかも。

 カミュさんが受付の女性に視線を送ると、女性は足早にギルドの奥へと向かっていった。


「しかし、どうしてベル様が狙われたのでしょうか……」


 あごに手を添え、カミュさんは眉を寄せる。

 その言葉に私も同意した。

 昨日もらった資料と比べると、やっぱりどこか腑に落ちないところがあるのだ。


「どうしてって、理由なんてねぇだろ」


 思案していた私たちにアリエルさんが言う。


「攫いやすそうな奴を適当に選んでんじゃないのかよ?」

「私もそう思っていたんです」

「あ? どういうことだよ?」


 何が言いたい? とアリエルさんが首をかしげる。

 シラユキさんとジャスミンさんも同じようにしていた。


「今まで攫われた子を思い出してください。全員、アムレの子でしたよね?」

「あぁ、たしかそうだったね。全員がこの街の子供たちだ」


 シラユキさんが首肯する。

 資料を一番読み込んでいたのはシラユキさんだったから、すぐに返答できたのだろう。

 

「それなのに、今回はベルさんが攫われてるんです」

「偶然じゃないのかい?」

「アムレは人の行き来が激しい街です。そこでアムレの子供だけを誘拐しているってことはどこに住んでいるかの下調べくらいはしていると思うんです」

「別の街のやつを巻き込んで、事を大きくさせたかったんじゃねぇのか?」


 アリエルさんの推測も外れてはないと思う。

 だけど、それにしてはいきなりステップを飛ばしすぎていないだろうか?


「そうかもしれません。でも、今まで冒険者でない人の子供ばかり狙っていたのに急に方針を変更しますかね?」

「そう言われれば不自然かもしれないな……」


 ふむとシラユキさんは考え込む。


「考えてみてください。この一か月、犯人は手掛かりの一つすら残さず犯行を繰り返しています。それなのにここで冒険者を巻き込むのは、危険じゃないですか?」

「たしかに……結果としてボクらだけじゃなくて、アポロンも巻き込むことになっているわけだからね」


 バレないからと言って調子に乗っているのかもしれない。

 アムレのギルドへ挑戦しているつもりなのかもしれない。

 だけど、王都のギルド――それもアポロン――が解決に動き出すことを望むだろうか? 自分たちが捕まってしまう可能性が高まるだけだと思う。


「それに私たちは5人でいたんですよ? 二人とか三人ならまだしも……」

「……クロエの言う通りだね」

「で、でもさ? アタシたち気づかなかったよ?」

「それはオレらのせいだろ。舐められてたのかもしれねぇけど」


 自嘲するように言うアリエルさんだけど、一理あると思う。

 私たちのようなパーティーは、男性ばかりのパーティーと比べたら狙いやすかったに違いない。

 だけど、5人もいたら一人くらいは気づくかもしれないし、姿を見られるかもしれないのだ。


 仮に今回の犯行がアムレに住んではいない人や冒険者を狙ったとして。

 様々な危険があるなかで、どうして犯人はベルさんを攫おうと思ったのだろう。

 自分たちのことを棚に上げるみたいだけど、もっと弱小のギルドや狙いやすいギルドはあったはずなのに。


 ……いや、待てよ?

 ベルさんは犯人が求める条件に偶然当てはまったから誘拐されたわけじゃないのか……?

 だとしたら。


 一つの結論にたどり着いて、はっとする。

 

「もしかして……!」


 もう一度頭の中で精査しようとしたけど、思わず言葉が零れてしまった。

 姉妹とカミュさんの注目が集まる。


「冒険者を誘拐ようとしたんじゃなくて、元々ベルさんを誘拐しようとしたんじゃないでしょうか」

「……つまり、ベルは偶然攫われたわけではなくて、狙われたってことかい?」

「はい」


 それならベルさんが誘拐された理由として十分だろう。

 アリエルさんが視線を鋭くさせて問う。

 

「何のためにだよ」

「それはわかりません」

「父上に何か恨みでもあるのかもしれないね」


 シラユキさんが言うとアリエルさんは舌打ちをした。


 実際のところ、犯人がどのくらいベルさん、私たちのことを知っている上で犯行に及んだのか不明だ。

 王都からやって来たと知って、王都のギルドを巻き込もうとしたのか。

 アポロンに所属していると知って、アポロンを巻き込もうとしたのか。

 それともサンズさんの娘と知って犯行に及んだのか。


 とにかくベルさんの居場所を突き止めるのが先決だ。

 それがわからないと動けないし、策も何もない。


「カミュ様」


 サーナンさんを呼びに行っていた受付の女性が戻って来た。

 しかし、サーナンさんの姿はどこにもなく、女性一人である。


「カミュ様。申し訳ございません。サーナン様はギルドにいないようでして」

「いない?」

「はい。午後から見ていないと」

「そうですか……」


 サーナンさんの意見も聞きたいところだったけど、仕方ないか。

 事件のことで色々と忙しいのだろう。

 

「みなさん、申し訳ありません」

「いえ、気にしないでください」


 私たちが急に来たのだからいなくても文句は言えない。

 今はできることをすべきだろう。


「カミュさん」

「なんでしょうか」

「少し、調べたいことがあります」


お読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] ベルさん、どうなってしまうのでしょうか?気になります…!
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