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114.アムレのギルド


 アリエルさんの気分が回復したのは、日も暮れてきたころだった。

 

まだ少し顔色が悪いけど、随分と楽にはなったみたいだ。


 本当はもう少し休ませてあげたいんだけど、そうも言っていられない。

 今日のうちにサンズさんと関りを持っているこの街のギルドに顔を出す予定になっているのだ。

 サンズさんの面目を保つためにも、遅くなっているとはいえ伺わなくては。


 アリエルさんには宿で休んでいてもいいとは言ったんだけど、本人が行くと言うので私たちは五人でギルド・フローロへと向かった。


 フローロはアムレの街では1,2を争う有名なギルドで、王都では中堅くらいのギルドになるだろう。

 アポロンが凄すぎて感覚が麻痺しているけど、十分に信頼と実績のあるギルドである。

 1,2を争うギルドと聞くと、私が前に所属していたギルドの嫌なところを思い出してしまうが、アムレの街のギルド同士の関係はそこまで悪くない。ライバル同士なのは変わらないけど、協力するときは協力する間柄だ。


 ギルドに入って、受付でサンズさんの依頼できたことを説明する。


「王都からギルドアポロンのサンズさんの依頼で来ました。ファミリア・クローバーズのクロエです。遅くなって申し訳ありません」

「お待ちしておりました。では、マスターをお呼びしてきますので、少々お待ち下さい」


 少し待っていると、奥から穏やかな表情が印象的な青みがかった黒髪の女性がやって来た。歳は30代中盤くらいだろうか。でも随分と若く見える。


「お待たせしてすみません」


 急ぎ足で歩いてきたその女性は、私たちの前で小さく頭を下げた。


「フローロのマスターをしております、カミュと申します」

「クロエです。こちらこそ遅れてしまって、大変申し訳ありませんでした」


 さっきカミュさんが下げた時よりも深く頭を下げると、すぐに「頭を上げてください」と優しい声色が掛けられる。


「気にされなくても大丈夫ですよ。サンズさんから事前に聞いていましたから」

「え?」


 聞いていた?

 私たちが遅れることをだろうか?

 首をかしげている私たちにカミュさんが種明かしをしてくれる。


「サンズさんから、娘たちは昼に向かうらしいけれどおそらく遅れて夕方になるだろうから、そのつもりでいてほしい。と」


 さすがは親と言うべきか。

 どうやら、朝の出発がドタバタして遅れること、アリエルさんが乗り物酔いすること、それらはサンズさんにはお見通しだったらしい。

 今はまだ、四人との仲は良くないみたいだけど、それでも家族なのだなと改めて思えた。


 カミュさんが私から四姉妹へ視線を移す。

 一人ひとりを見て、それから特にシラユキさんへ顔を向けて笑みを浮かべた。


「お久しぶりです。お嬢様方」

「あぁ、久しぶりだね。カミュ」


 シラユキさんがうなずいたので、私は二人に尋ねる。


「あれ? お二人はお知り合いなんですか?」

「うん。ボクは幼いころに遊んでもらったし、剣術も教えてもらった記憶がある」

「シラユキ様は長女でしたので、特に会うことが多かったのです。ですから、他の皆様は覚えていないかもしれませんが……あの頃は本当に小さかったのに、今はこんなにお綺麗になられて」


 なるほど。

 それでシラユキさんはいつも通り自然な感じだけど、ジャスミンさんはそわそわと、ベルさんは不安そうにしていたのか。

 ちなみにアリエルさんは完全には気分が回復していないのか、アンニュイな表情をしているので感情は読み取れない。


「ありがとう。そういう君も昔と変わらず綺麗なままだとおもうけれどね?」

「相変わらずシラユキ様はお世辞がお上手ですね。ありがとうございます」

「お世辞じゃないよ。それにしても、五年ぶりかな……」

「……ですね」


 ……?

 再会を喜んでいたはずの二人の間に、なぜか重苦しい空気が一瞬だけ流れた気がした。

 気のせい?

 

 首をかしげていると、

 

「とりあえず、一応自己紹介を。ボクは長女のシラユキ。そしてこっちが――」


 とシラユキさんに紹介されて、それぞれ挨拶をする。


「次女のアリエル」

「三女のジャスミンです!」

「よ、四女のベル……」


 もじもじしながら言ったベルさんのあと、なぜかシラユキさんは私へ顔を向けて、

 

「そして、こっちが最近五女になったクロエ」

「あ、はい。五女のクロエです……じゃないです!」


 急に言われたものだから、つい一度受け入れてしまった。

 言い切る前に、ギリギリ否定する。


「え! クロエってアタシたちの妹だったの!?」

「べ、ベルがお姉ちゃん……」

「いやいや違いますって! ちょっとシラユキさん!?」


 シラユキさんが五女って言ったから、二人が反応してしまったじゃないか!

 アリエルさんと同い年なんだから、せめて三女にしてほしかった。


 助けを求めると、シラユキさんはからかうように声に出して笑った。

 

「あはは、冗談さ。ごめんごめん」

「もう……」


 私も妹と言うか、家族として見てくれているみたいだから嬉しいけれど、ちゃんと訂正しておかないと。

 事実、カミュさんは驚いているのか混乱しているのか、困っているみたいだった。

 

「カミュさん、私は一人っ子ですから」

「あぁ、ええ。わかっています。大丈夫です」


 さすがに似ていないから騙される人はいないか。

 それにカミュさんは幼い時の四姉妹に会っているのだから当然だ。


 でも、だとしたら何を驚いていたのだろう?

 

「その、お嬢様方のファミリアと聞いていたので少し心配していたのですが、皆さん仲が良さそうでほっとしたといいますか……」

「……?」

「いえ、お気になされず。では、ここで立ち話もなんですからこちらへ」


 カミュさんに促されてギルドの奥へと移動する。

 案内されたのはフローロのマスター執務室だった。


 背の低いシックなテーブルを囲むようにソファが設置されており、机の奥にある一人掛けソファにカミュさんは腰を下ろした。

 私たちはカミュさんに向かって左のソファに私、シラユキさん、ベルさんが、右のソファにアリエルさん、ジャスミンさんと別れて座る。

 

 自然と食事をとるときの座り順になっていることに、座ってから気が付いた。

 無意識のうちに癖になっていたらしい。

 私も知らないうちに四姉妹との生活に馴染んでいるんだなぁ、と思わず笑みがこぼれる。


「クロエさん?」

「あ、すみません」

「いえいえ。構いませんよ。では、さっそく本題に移りましょうか」


 小さく息を吐いて、カミュさんは事件の説明を始めた。

お読みいただきありがとうございます。

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