106.そのころの三人
シラユキがセレクトした服を着ておめかしをしたアリエルがクロエを連れてお屋敷を出た後。
二人を見送ってシラユキは、少しからかいすぎたかなと反省していた。
とはいえ、素直ではない妹のことだ。シラユキがこのくらい強引でなければ、クロエと出かけることさえできていなかったのである。
「さてと」
今日は完全な休日だ。
午前中はいつも通りクロエに指導を従事してもらったけど、そのクロエがアリエルと出かけたのだから午後からの指導はない。
だが、シラユキはこのあと何をするか昨日の夜のうちに、いや、もっと言えばアリエルがクロエとデートをする約束をしたときに決めていた。
ダイニングで一緒にアリエルのことをからかっていた妹たち、ジャスミンとベルが質問して来る。
「ねぇねぇ、ユキちゃん。アタシたちはどうする?」
「ん? そんなの決まっているじゃないか」
「え!? なになに!?」
興味津々といった様子でジャスミンがずいっと距離を詰めてくる。
「クロエとアリエルがデートに行ったんだ。なら、相場は決まっているだろう?」
「相場? わかんない」
「シラユキ姉様、何、するの……?」
首をかしげる妹二人に、アリエルはふふんと得意げな表情で答えた。
「尾行さ」
「尾行……!?」
「そ、それって……二人についていく……ってこと?」
「あぁ、バレないように、そっとね」
ウインクをすると、ジャスミンとベルは顔を見合わせる。
そして二人とも浮かない顔で「でも」と言葉を発する。どうやら尾行することに躊躇いがあるらしい。
「さすがにユキちゃん、尾行は……ねぇ?」
「う、うん……」
「だったらボク一人で行ってくるよ。無理にとは言わないから、二人は休んでいるといい」
アリエルのことだから、きっとデートでいっぱいいっぱいになっているから、おそらく尾行したところで気づきはしないだろう。
だけど、万が一にでも事故でバレたら面倒なことになるのは目に見えている。
妹二人を力づくで付き合わせるわけにはいかない。
だが。
二人は少しの間、頭を悩ませる。
アリエルの邪魔をしてはいけないという気持ちと、二人が何をしているのか気になる気持ち。その二つがせめぎ合っているらしい。
そして最終的には、
「アタシも行く!」
「べ、ベルも……!」
自分の素直な気持ちに従ったらしい。
シラユキは二人を見て、やはり自分の妹だなと苦笑を浮かべた。
「よし、じゃあ二人とも、これを」
「何これ」
「黒い……メガネ……?」
シラユキが私物を渡すと、二人は不思議そうに眺める。
「それはサングラスといってね、尾行するときには必ずつけなくてはいけないんだ」
「へぇ~! そうなんだ!」
「さすが、シラユキ姉様……!」
「ふふっ、そうだろう?」
クロエとアリエルがいない現状、ツッコミは不在だった。
シラユキは自分の顔にサングラスを装着して、妹二人に見せてみる。
「ほら、こうすると誰だかわかりにくいだろう?」
「ほんとだ!」
「シラユキ姉様、すごい……っ!」
「さ、じゃあボクたちも出発しようか」
「はーい!」
「う、うん……っ!」
こうして怪しい三人組は街へ繰り出したのだが、武器屋でカインに正体を気づかれ誤魔化しているうちにクロエとアリエルを見失ってしまった。
結局、いくら探しても二人は見つからず、お昼ご飯を食べた三人は買い物をして帰ったのであった。