102.アリエルとデートの権利
「な、ななな何でオレなんだよ!?」
「ダメでしたか……?」
一番活躍した人、という判断基準だったからアリエルさんを選んだんだけど……。
どうやら本人は不満があるらしい。
アリエルさんは顔を赤くさせて、さっと身をよじる。
「ダメってわけじゃ、ねぇけど……」
「だったら」
「まさかお前!? オレのことそういう目で……!?」
「へ? いやいや!? 違いますよ!?」
必死になって弁明する。
アリエルさんのその言い方だと、まるで私がアリエルさんのことが好きで、デートしたいからアリエルさんを選んだみたいになっているじゃないか!
決して嫌いというわけじゃないし、好きか嫌いかで聞かれたら好きだ。でもそれは四姉妹全員に言えることで。
誰か一人に対して特別な想いを抱いていたりはしていない。だって先生と生徒だ。そのくらいは私もわきまえていますとも。
「だって一番活躍した人、ですよね?」
シラユキさんに確認する。
「あぁ、たしかにボクはそう言ったね」
「だから私はアリエルさんを選んだんです」
「でもオレよりも他のやつだって」
「普通に考えて、今まで依頼をこなしてきているアリエルさんが有利だし、その結果その通りになっただけですって!」
贔屓目なしで選んだら、誰だってアリエルさんを選ぶことになるはずだ。
他の三人とは今までの経験が違う。
普通にやれば、アリエルさんが最も活躍するのは間違いないのである。そして実際、アリエルさんはもっている実力を発揮したから他の三人よりも活躍した。
それだけの話なのだ。
決して下心なんてないし、デートをしたい相手を選んだわけでもない。
「まぁ……わかったよ」
「わかってくれましたか」
「ああ。けどよ、お前らはいいのかよ?」
頭をガシガシ掻きながらアリエルさんが三人に尋ねる。
三人は互いに顔を合わせて、納得の表情を浮かべた。
「ま、仕方ないね。クロエの言う通り、アリエルが一番活躍していたのは間違いないからね」
「だねー! 悔しいけど、アタシもそう思う。アーちゃん、すっごくカッコよかったもん!」
「うん……ベルも、同じ……。アリエル姉様が、一番……」
「……そうかよ」
三人が一言も文句を言うことなくアリエルさんを褒めたので、本人であるアリエルさんは照れてしまったのか、さらにほっぺたを赤くさせた。
「それでアリエルさん」
「あん?」
「特典のデートなんですけど……嫌なら、やめます……?」
「当たり前だ。そんなくだらな――」
と、言い終わる前に他の三人が割り込んできた。
「アリエル、ちょっといいかな?」
「は? なんだよ?」
「アーちゃん!」
「あ、アリエル姉様……」
アリエルさんは抵抗するものの、三人に連れられて私から離れていってしまった。
「は? おい! どこに」
「いいからいいから」
「アーちゃん暴れないで!」
「アリエル姉様、ちょっと……ね?」
ポツンと一人残される私。
寂しいぞ。
四姉妹は私のほうを気にしながら、何やらコソコソを話をしている。
わお、疎外感半端ない。
やがて少しして話が終わって、四人が戻ってくる。
アリエルさんは不機嫌そうにぶつくさつぶやいていた。
「なんでオレが」
「いいじゃないか。せっかくの権利なんだし」
「くそっ……」
四人の中からアリエルさんが前に出て、私の前に立つ。
「あー、お前」
「はい?」
「その、で、デート……やってやるよ」
「え? いえ、アリエルさんが嫌なら無理には……」
「うるせぇな! やってやるって言ってんだよ!」
顔を真っ赤にさせてアリエルさんが叫ぶ。
あれほど嫌がっていたのに、どういった心の変化なのだろうか。
「せっかくの権利だから仕方なくな!」
「そ、そうですか……」
「あ? んだよ、本当はお前が嫌だったのか?」
「へ? いや、そんなことは決して」
「だったら決まりだ! いいな!?」
「は、はい……」
ふんっと鼻を鳴らして、アリエルさんはぷいと横を向いた。
アリエルさんからデートすると言ってくれるのは、意外だった。というか、完全に予想外。アリエルさんは権利を放棄すると思っていたのだ。
いや、もちろん私が約束したわけだから、デートはきちんとするつもりだった。デートと言うか、お出かけだけど。
アリエルさんを選べばデートをしなくてすむから選んだ、ということはない。
四姉妹のそれぞれと親睦を深めたい気持ちはあるのである。
まぁ、意外だったし、まだ私も驚いているとはいえ。
アリエルさんとも親睦を深めておきたいし、よかったんじゃないだろうか。
ということで、今度の休みにアリエルさんとデートをすることになった。