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101/159

101.デートの権利

 なぜか私とデートする権利をかけた四姉妹の争いになってしまった、ファミリア最初の対モンスターの指導。

 森の中へやって来ると、至る所にアレインの姿を発見することができた。

 

 アレインは注意は必要だけど、四人で寄ってたかって倒すようなモンスターではない。

 こちらの人数が多いと、かえって連携の邪魔になりかねない。

 ということで、四姉妹には二人ずつでペアを組んでもらうことにした。


 一番実践の経験があるアリエルさんとまだ少し魔法の制御に不安のあるジャスミンさん。

 

「アーちゃん、よろしくね!」

「おう」

「あの、アタシ足を引っ張っちゃうかもしれないけど……」

「気にすんな。そのためにオレがいるんだから」

「ありがと!」


 剣の感覚を取り戻してきたシラユキさんと魔法の制御に長けているベルさん。


「よろしくね、ベル」

「お、お願いします……シラユキ姉様」

「あぁ。周りのことはボクに任せてくれて構わないから、あまり気負わないようにね?」

「はい……ベルもがんばります……っ」


 と、バランスを考えて、この二つのペアに分かれてもらうことにした。

 ちょうど左右にアレインが一匹ずつ這いずり回っているので、さっそくそれぞれ倒してもらうことにしよう。

 

「右と左にアレインがいるの、わかりますか?」


 私の言葉に四人姉妹は二匹の姿を捕捉してうなずく。


「右側をシラユキさんとベルさんが、左側をアリエルさんとジャスミンさんが倒してください。落ち着いてやれば大丈夫ですので」

「よぅし! クロエ見ててね!」


 まず、動き出したのはジャスミンさんだった。

 自分の魔法が届く間合いでアレインと対峙して、右手を掲げる。


「炎よ! あいつをやっつけて!」


 魔方陣が展開されて、ジャスミンさんの手から炎の球が生み出される。

 上手く制御されているし、これなら威力も十分にありそうだ。命中すれば、あれくらいの相手なら消し去ることができるだろう。

 しかし、ジャスミンさんから放たれた炎は途中で軌道が逸れて、アレインの右半身を掠めるようにして飛んでいった。当然それで倒せるはずもなく、むしろ攻撃されて怒ったのだろう。アレインがジャスミンさんに向かって飛び掛かろうと飛び跳ねながら突撃してきた。


「ぎゅああ!? こっち来た!?」

「——ッ!」


 パニック状態になって大声を上げるジャスミンさん。だけど、その隣からアリエルさんが駆けだし、冷静な一撃で、アレインをコアごと一刀両断した。

 

「落ち着けジャスミン」

「あ、アーちゃん、ありがとう……」

「別にいい。ファローはしてやるから、お前はもっと集中しろ」

「う、うんっ!」


 思っていた以上にアリエルさんも協調性があるじゃないか。

 ……姉妹だから、ということも考えられるけど。

 でも、私が思い描いていた二人での行動ができている。これなら心配しなくてもいいかもしれない。

 ジャスミンさんも初めて相手に向けて撃ったにしては惜しかった。あとは慣れの問題だろう。


「アリエルさん、その感じでお願いします!」

「うっせぇーな! わかってるよ!」

「あ、ごめんなさい……ジャスミンさんもすごく惜しかったですよ!」

「ほんと!?」

「はい! その調子でがんばってください!」

「うん!」


 続いて、その一連を見ていたベルさんが覚悟を決めてアレインに向き合う。

 ベルさんはジャスミンさんよりも細かな制御に長けているので、アレインとの距離はジャスミンさんよりも開いている。それだけ相手の攻撃も避けやすいけど、こちらの攻撃も命中させるのが難しくなる。


 ベルさんは、先ほどジャスミンさんが失敗してアレインが向かってきたことを思い出したのか、不安そうにシラユキさんへ顔を向けた。


「あ、あの……シラユキ姉様……」

「心配しなくていい。アリエルほどではないけど、ベルのことはボクが守るよ」


 姉らしくシラユキさんが柔らかく微笑むとベルさんはほっとしたようにコクリとうなずいた。

 短く息を吐いて、ベルさんがアレインへ両手で狙いを定める。


「炎、よっ! あいつを燃やして……っ!」


 魔方陣から炎が創り出されて、アレインへ真っすぐに向かっていく。

 しっかり制御された炎は吸い込まれるようにアレインへ直撃した。だけど、それ故に威力が低い。煙が晴れると、少し黒っぽくなったアレインがベルさんへ飛び掛かって来た。


「ひっ……」

「大丈夫」


 シラユキさんはベルさんの方をポンと叩いて、庇うように前に立つ。

 そして迫るアレインの動きを見極めて、


「——やっ!」


 アリエルさんと同じように、コアごと真っ二つに斬り割いた。

 ふぅ、と安堵するシラユキさんの背中にベルさんが抱きつく。


「シラユキ姉様……ありがと……」

「ははっ、気にしなくていい。それよりも、初めてなのにすごいじゃないか、ベル」

「そ、そうかな……?」

「あぁ。ねぇ、クロエ?」


 シラユキさんに尋ねられ、私は素直にうなずく。

 ベルさんの魔法は威力こそ弱かったものの、狂いなくアレインへ命中していた。おそらくジャスミンさんが外したのを見ていたから、制御することを重視しすぎたのだろう。

 こちらもジャスミンさんと同じく、回数を重ねていけばどのくらいの強さの魔法を放てばいいのかわかってくるはずだ。


「ベルさん、よかったですよ」

「ほんとに……?」

「はい。一回目で当てられるのはすごいです。あとは繰り返しましょう」

「う、うん……っ」

「シラユキさんもびっくり……と言っては失礼かもですけど、よかったです。引き続きお願いしますね!」

「あぁ、任せてくれ」


 どちらのペアも、想像以上だ。

 まずはアレインを倒して、モンスターを倒す経験を積む。次はもう少し動きの早いモンスターと戦う。

 ファミリアで依頼を受けてこなすというのも、思いのほか早くできるかもしれない。


「では、後はそれぞれ無理のないよう、モンスターを倒して倒して倒しまくりましょう!」


 左右に分かれている四姉妹に一応の注意をしておく。


「途中で休憩をしてもいいので、というか必ずしてください。それと私はここにいるので、私のことが見えなくなるくらい遠くに行かないように。何かあったら大きな声で私を呼んでくださいね!」

「はーい! 行こ、アーちゃん?」

「あ、おい、引っ張るなって……」


 左側ではジャスミンさんがアリエルさんの腕を引いて、次のアレインを探しに行った。


「それじゃあ、ボクたちも行こうか、ベル」

「う、うんっ!」


 長女のシラユキさんに優しく導かれて、ベルさんも歩いていく。

 ……さて。

 私の言った通り、四人とも私から見える位置でアレインと戦っていた。

 四姉妹の心配はいらないだろう。

 それよりも、この四人をよく見て一番活躍している人を選ばないといけないのか……。

 思わず苦笑が零れてしまう。



 それから数時間後。

 四人ともいい具合に疲労の色と充実感を顔に浮かべて、今日の指導は終わりとなった。

 ペアでの連携も上手くなっていたし、魔法もどんどん上達していたので上々ではないだろうか。

 森を後にした私たちは村へ立ち寄って村長さんに挨拶をして、王都のお屋敷へ帰ることにした。だけど、その前にシラユキさんが「ちょっと待った」と切り出す。


「クロエ、まさか忘れているわけではないよね?」

「あはは……」

「さぁ、クロエ。約束だ。誰が一番だった?」


 じっとシラユキさん、ジャスミンさん、ベルさんに見つめられる。

 アリエルさんは三人ほど身を乗り出すことはなく、一歩引いて、それでも気に掛けた様子で視線を送っていた。


「アタシだよね!?」

「べ、ベル、だよね……?」

「ボクも自信があるんだけどな」

「…………」


 今までも大勢に注目されるってことは、なかったわけではない。

 だけど、こんなに美人で可愛い、それも四姉妹という顔や雰囲気が似ている四人から見つめられる経験は初めてだ。

 ドギマギしてしまうというか、汗が凄いぞ……。


 とはいえ、シラユキさんが言っていたように約束なのでちゃんと決めている。

 今日一番活躍していた人。

 まぁ、当たり前といえば当たり前で、順当なところである。たぶん、誰か選んでもこうなるはず。

 本人が喜んでくれないかもしれないけど……。


「えっと……それじゃあ、アリエルさんで……」

「はぁ!? オレ!?」


 自分は選ばれないと思っていたのか、アリエルさんは驚愕した声をあげたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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