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100.四姉妹と実践へ

「今日はこれから、全員で王都の外へ行こうと思います!」


 ファミリアの名前が決まった次の日。

 四姉妹の全員がそろっているお昼ご飯のタイミングで私は切り出した。

 事前には何も伝えていないから、急な発表にジャスミンさんがガタッと席から立ち上がる。


「え! 全員ってことは、アタシと」

「ベ、ベルも……?」

「はい、全員です!」


 今まではシラユキさんとアリエルさんは剣の実践を積むために、二人で簡単な依頼をこなしてもらっていた。

 だから魔法を主に指導していたジャスミンさんとベルさんが外へ出るのは、これが初めてである。

 いきなり言ったし、驚くのも無理はないかもしれない。


「お二人とも、そろそろ相手に向かって放つ練習もしようかなと。お屋敷の近くでは危ないので、せっかくなら外に行こうかなって」


 二人とも想像以上の速さで成長して、魔法を制御できるようになっている。

 とても本人には言えないけど、ジャスミンさんとベルさんの制御できる力を4分の1ずつシラユキさんにあげられたらいいのに、と思ってしまうほどだ。

 ……それは置いておいて。


 そんなジャスミンさんとベルさんだから、ただ魔法を使ってキープするだけではなく、ここ数日は魔法を放つ練習もしていた。

 けれど、やはりお屋敷の近くだし、周りには別のお屋敷だってある。さすがに他の家に燃え移ったりはしないだろうけど、もしもということはある。

 二人ともしっかり自分の魔法を制御できるようになっているけど、シラユキさんのこともあるので私も心配をしてしまっていた。

 

 そうなると、自由ではないし、思い切って放つことはできない。

 となれば、王都の外で使うに限る。

 ジャスミンさんとベルさんが実戦経験を積むこともできるし、四姉妹と一緒に行動すればシラユキさんとアリエルさんのことを見ることもできるのだ。


 それに。

 実戦の経験を積んでいる姉二人のシラユキさんとアリエルさんと一緒なら、実戦の経験が乏しい妹二人が危なくなりそうなら、守ってくれると思う。

 今日の指導はファミリア初となる、四姉妹で協力するという意味合いもあるのだ。

 四姉妹だからと言って、一生四人で一緒にいるかどうかはわからない。

 だけど、私が先生を務めている間は少なくとも四人は一緒。連携が取れなくては困るのである。


「というわけなんですけど、シラユキさんとアリエルさんもいいですか?」

「あぁ、ボクは構わないよ」


 快く了承してくれるシラユキさん。

 心の中では、きっと妹たちに魔法で後れを取っていることを気にしていると思う。シラユキさんは気にしぃ体質だから。

 さすがは長女だなと感心すると同時に、焦らずシラユキさんにしっかり魔法を指導しようと改めて思った。


 続いてアリエルさんが、

 

「オレも別にいいけどよ」

「はい……けど?」

「ジャスミンとベル、大丈夫なのかよ」


 王都周辺にいる最弱のモンスターを相手にするとはいえ、一度本人は痛い目に遭っているので妹たちが心配らしい。

 

「やっぱり妹さんが心配ですよね」

「ベ、別にそんなんじゃねぇけど……」


 頬を薄っすらと朱に染めて、アリエルさんはぷいと横を向く。


「ですから、お二人に力を貸してほしくて」

「なるほど、そういうことか」


 納得した様子でシラユキさんが言う。


「ボクとアリエルにジャスミンとベルを守ってあげてほしい、ということだよね?」

「その通りです。お二人もやりたいことがあるかもしれないですけど、お願いします」

「いや、謝らなくていい。姉の務めさ。ね、アリエル?」

「……あぁ」

「ありがとうございます! あ、でも無理はしないでくださいね?」


 シラユキさんとアリエルさんなら大丈夫だとは思う。

 だけど妹を守るために身を挺して、自分が大怪我……なんてことはやめてほしい。


「もしものときは、私が四人を死んでも守りますから」

「はは、それは頼もしいね」

「お前の手は借りねぇ」

「クロエ死なないで!」

「べ、ベルたち……がんばる……っ」






 と、いうことで。

 お昼ご飯を食べた私たちは、王都を出てすぐ近くの村までやって来た。

 私が先生を始めたばかりのとき、アリエルさんと二人でアレインを倒す依頼で訪れた村である。

 今はアレインが大量発生しているという話は聞かないけど、それでも森の方へ行けば会えるだろう。

 私たちは村長さんに挨拶を済ませて、さっそくアレインを探しに向かうことにする。


「あ、そうだ」


 村からアレインたちが生息している場所へ移動している途中、シラユキさんが何か閃いたように言った。

 全員がシラユキさんへ視線を向けると、私たちへ提案する。


「今日のことなんだけどね?」

「はい……?」

「一番活躍した人が今度クロエとデートできる権利を得る、というのはどうかな?」

「はい!?」


 シラユキさんのあまりに突飛な言葉に思わず声をあげてしまう。

 私とのデート権って……シラユキさんは何を言い出したんだ。

 冗談かな? と思うものの、シラユキさんはどうやら本気で提案しているらしい。


「ほら、近いうちに完全なオフの日を作ってくれると言っていただろう?」

「言いましたけど……」

「別にその日でなくてもいいけど、休みの日にクロエと一日デートする権利。どうかな?」

「どうって、そんなの」


 欲しい人なんていないだろう。

 と、思ったんだけど。


「クロエとデートってことは、お出かけできるってことだよね!?」

「そういうことだね」

「だったらアタシもやりたーい!」

「よし、これで二人だ。ベルはどうかな?」

「べ、ベルもやる……っ」

「これで三人だね」 


 なんとあっという間に過半数が賛成してしまった。


「えぇ……」


 そんな姉妹三人のやり取りに、アリエルさんは心底嫌そうに顔を歪めていた。綺麗な顔が台無しというか、人には見せられない表情である。

 そこまで嫌がられると、ちょっとショックだ。


「オレはいらねぇ」

「ですよね」


 今回の場合は、アリエルさんの反応が正しいと思う。


「そっか……アリエルは勝つ自信がないんだね?」

「は?」

「今日は個人じゃなくて、あくまでジャスミンとベルの補助だ。個人ならアリエルが断トツかもしれないけど、協力となったら自信がないんじゃないかな?」

「けっ。そんな挑発に乗るかっての。オレもバカじゃねぇんだから」

 

 肩を竦めて見せるアリエルさん。


「つーか、なんでわざわざ休日にこいつと出かけなきゃならないんだ」

「ボクは嬉しいけどね」

「はぁ? お前、趣味悪くねぇか?」


 鼻で笑うアリエルさん。

 あの……本人がすぐ傍にいるんですが……。


「ふふっ、おこちゃまのアリエルにはわからないかな?」

「んだと……?」

「ま、それはあくまで景品さ。勝負は勝負だ。アリエルは勝てないから下りる、ということでいい?」

「そうは言ってねぇだろ!」

「なら、どうする?」

「——ってやる」

「ん?」

「やってやんよボケぇぇぇぇッ! オレが参加したことを後悔するんじゃねぇぞ!」


 火山が噴火したみたいに顔を赤くさせて、叫ぶアリエルさん。

 参加を表明して、私をキッと睨みつける。


「勘違いすんなよ! お前とデートしたいわけじゃねぇからな!」

「え、あ、はい……」

「さてクロエ。ボクたちはみんな賛成なんだけど、君はどうかな?」

「いや、まぁ、みなさんがそれでいいなら……」

「よし、決まりだ」


 こうして、ファミリア最初の全員での指導は、なぜか私とのデート権をかけたものになってしまった。

 やる気を出してくれるのは嬉しいけど……どうしてこうなった。

 えぇ……ほんとに何で……?



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