鎮守の裏で
声を掛けられ驚きのあまり振り向き、あまつさえ声をあげてしまったひと葉に
青年はさも、楽しそうに声を掛ける。
「村の中の人は大概…見知っているけど、君はあまり見かけない顔だねぇ」
ひと葉は、勿論村の人ではない。
それどころか子狐の化生である。正体をバラしたならば、たちまちのうちに捉えられ殺され、皮を剥がれ置物にされてしまう。
ひと葉はとりあえず
「隣の村から…」と消え入る様な声でこたえた。
「そうか…となり村の女の子か?知らないのも無理はない。」と青年は翳りのある笑顔を口元に浮かべ
「折角なんだ…こんな裏手に隠れる様に祭りを眺めてるなんてつまらないだろう。」
ひと葉は黙り込む…
あんなに出店が出てる…何か買っても良いし、冷やかすのも楽しいよ。と、今度は翳りの無い笑顔でひと葉に語り掛ける。
その言葉にもひと葉は俯くばかり…
そんな…ひと葉に
「綿あめやトウモロコシ…りんご飴なんかもあるよ。」
ひと葉はわた飴と聞くとピクリと反応した。
トウモロコシは知っている。林檎も知っている。
しかし…わた飴とは?
頭の中に雲の様にフワフワな綿を想像した。
動物の知らない食べ物を人間は食べている。
だから、人間の食べ物を食べた山の動物は、一度里の食べ物を口にすると、二度と山には戻らないと、聞く。
ひと葉は思わず後退りした。
その後退りしたひと葉の手を、青年は掴み
「さあ…気後れせずに祭りを楽しもう。」
と、半ば強引とも言える程の勢いでひと葉を誘った。




