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小さな社の小さな奇跡  作者: カモメ
3/6

魔法の様な食べ物

子狐を惹きつける青年が差し出す不思議な食べ物…


子狐はその誘惑に

勝てるのか?ら

青年の差し出すサンドウィッチなるものからは

ただならぬ程の香りがする。

その香りにはまるで魔法が振り掛けられたの如く

子狐を惹きつける。

子狐は、母ぎつねの戒めと必死に戦おうとするが…


解っているのだ…解っているのだけれど…

何故か?足が青年の差し出すサンドウィッチなるものに踏み出してしまう。


いけない!いけない!と、己れを戒めるのだが…

勝手に足が青年の差し出すサンドウィッチなるものに向かい踏み出してしまう。


そのサンドウィッチなるものに、近付けば近付く程に子狐の足は言うことを聞かなくなる。




遂に、青年の手が子狐の頭を触れる程の距離にまで近寄ってしまった。


もう抗えない…


幾度も幾度も…頭の中で危険信号が激しく点滅していた。


しかし…まるで頭と体が引き離された様にサンドウィッチなるものに惹きつけられていく。







その時…




子狐が駆け上がってきた斜面から


「芙蓉!!」

と母ぎつねの叫びにも似た声がして子狐は母ぎつねに突き飛ばされた。


すると…


子狐の呪縛は解け、切り離された様な頭と体が一つになった感覚と共に体の自由を取り戻した。







子狐の体を咥え母ぎつねが拓けた村を一望できる里山の尾根から立ち去ろうとしたその時…



「おまえ…ひと葉だろ…ひと葉だよな?」と

如何にも懐かしげな表情で語り掛けた。


母ぎつねは子狐を咥えたまま、その足を止め

懐かしげに話し掛ける青年の方を振り向いた。


「そうか…お前にも子供が出来たのか?

そうか、お前も大人になったんだ。


そうか…もうそんな…時が過ぎてしまったんだな?」


ひと葉と呼び止められた母ぎつねは、無表情のまま我が子芙蓉を咥え草むらに姿を消した。

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