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小さな社の小さな奇跡  作者: カモメ
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にんげん

翌朝

母ぎつねは、餌を探しに巣穴を出て行く時に

子狐に

「決して村には近づいてはいけませんよ」と言い残した。

しかし…子狐には

昨夜の眩い煌めきが忘れられない。

しかし昨夜からの母ぎつねの言葉が彼を縛り付ける。


もう一度…もう一度あの夢の様な煌めきを見てみたい。

母ぎつねに教わり人間の恐ろしさは知っている。

だが…その危険な香りさえ甘く甘美な幻想に思えて仕方がない。


(十分に気をつけてれば、人間よりも先に勘付く自信はある。)


そんな…裏付けの無い自信が子狐の背中を後押しする。

大きく息を吸い込んだ子狐は

巣穴から覗く真っ青な夏の空に向かい勢いよく飛び出した。







巣穴から飛び出した子狐は、まずは里山の尾根を目指して走る。

名も無き里山の尾根など子狐の足でも一気に登れる…

駆け上がる子狐の視界には青い空とポッカリ浮かぶ白い雲しか映らない。


軽い興奮状態の子狐は早く村を一望できる尾根に辿り着きたい。


山の切れ目と空の交わる境目が見えてきた。


子狐の軽い興奮が一気に高まる。


勢いよく尾根の上に飛び出すと







拓けた村を一望できる、その場所に一人の人間が座っていた。



「しまった!!」つい、子狐は声に出してしまうが

尾根の上に座る青年には、只の子狐の小さな叫びにしかきこえなかった。


しかし…不思議なものに腰掛ける青年らしき人間は、優しげな顔をして微笑んでいる。


人間はズル賢いと聞く。

子狐は…おのれが迂闊に警戒を解いて尾根に駆け上がった事を反省する前に…

己が風上から駆け上がった事を悔やんだ。


せめて…風下ならば…この青年と思しき人間の匂いを嗅ぎ分けられない筈は無い。

だが…現実には人間の匂いを察知出来なかった自分に非がある。

だが…これは、世間でも良くある事

一種の現実逃避に陥り己の責任を何れかに転嫁したにすぎない。


それは、子狐にも重々理解出来るのだが?

やはり、己の過ちを素直に認められるほど世の中の倫理をわかる程の年でもない。


しかし…そんな戸惑いを見せる子狐にお構いなく

不思議な腰掛けに腰を下ろしたまま…


青年と思しき人間の男は優しげな笑顔を浮かべ

「こっちへ…おいで…」と話し掛ける。


いくら…その青年の表情に邪気が無くとも


あの…ズル賢い人間だ。

罠がない筈は無い。




すると…不思議な腰掛けに腰を下ろした青年と思しき人間は…何か、不思議な物を取り出し…



「ほら…おたべ…」と、屈託の無い表情で何かを取り出した。






人間は魔法を使う。

人間の差し出す食べ物は、全てがとろける様に美味しいと、狐の長老に聞いた事がある。


その人間の差し出す食べ物を食べた山の動物は、山の食べ物では満足出来なくなり

誘われる様に里山から降りて人間の食べ物に手を出し


二度と帰らないと、もっぱらの噂だ。


しかし…風上に立つ子狐にその白くて三角の形の中に何かを挟んである。


邪気を伴わない青年は

「ほら…コッチに来てサンドウィッチをお食べ」と

またも子狐に語り掛けた。

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