メイメイとマールの花かんむり
くりねずみ=リス
くりねずみのメイメイのお仕事は、ステキな花かんむりを作ることです。
メイメイの手にかかればどんなかんむりも思いのまま。シロツメクサやレンゲソウのかんむりは、いつも大人気でした。
「あなたの作る花かんむりは、とってもステキ」
メイメイの花かんむりをかぶると、みんなにっこりと笑うのです。
森の動物たちはみんな、メイメイの花かんむりにあこがれていました。
そんなメイメイのところに、ある日とおい国のお姫さまからお手紙が届きました。
「あなたのつくった花かんむりで、結婚式をあげたいのです」
とてもめいよな注文に、メイメイは大よろこびしました。
「結婚式だなんて、とってもステキ! すばらしいものを作らなくっちゃ!」
メイメイは材料をあつめると、さっそく花かんむりを作りはじめました。
青いわすれな草と、朝もやみたいなカスミソウ、そして宝石みたいにピカピカしたキンポウゲの花を、ていねいに編みこんでいきます。
「わぁ、きれい」
「一度でいいから、メイメイの花かんむりをかぶってみたいなぁ」
メイメイの特別な花かんむりが、みんな気になってたまりません。
森の動物たちは、お店をかわるがわるのぞきこみます。
ウサギもキツネもうっとりしました。
「さあ、できた! ほら、とってもステキ!」
できあがった花かんむりには、まっしろなレースのリボンでふわふわのベールをむすびつけました。うつくしいお姫さまにぴったりの花かんむりができあがったのです。
とおい国から銀色の馬車でやってきたお姫さまは、メイメイの花かんむりを見るとびっくりしていいました。
「こんなにステキな花かんむり、見たことがないわ!」
お姫さまの金や銀のかんむりよりも、ずっとすばらしかったからです。
お姫さまはたいへんによろこんで、メイメイのやわらかいほっぺたにキスをしました。
そして、しあわせそうな顔で、結婚式のために帰っていきました。
ごほうびのクルミをたくさんもらったメイメイはうちょうてんです。
「よろこんでくれて、とってもしあわせ!」
メイメイのお店は前よりももっと人気がでて、大いそがしになりました。
◇◇◇
そんなメイメイのお店のとびらをトントン、とたたくものがありました。
こぐまのマールです。
はじめてのお客さんでしたので、メイメイはかんげいしました。
「ようこそ、花かんむりのご注文ですか?」
「はい。メイメイさんの花かんむりがほしいんです。できればすぐに」
メイメイは少し困った顔をしました。
「ごめんなさい、すぐにはムリなんです」
メイメイには、急ぎのお仕事がいくつもありました。なかにはユキヒョウの結婚式のために、夕やけ色のユリで花かんむりを作る約束もあります。ちいさなくりねずみのメイメイには、これはたいへんな大しごとなのでした。
ことわられたマールは、しょんぼりと帰っていきました。
けれど、そのつぎの日もマールはやってきました。
「どうかお願いできないでしょうか」
メイメイが「できない」と言うと、マールはがっかりして帰っていきました。
それなのに、またつぎの日もマールはやってきました。
こんどは両手にどっさりと、ドングリやクルミをかかえてキズだらけでした。メイメイにあげるつもりで、キケンな森のおくから採ってきたのです。
「あぶないことをしてはダメ! どうしてそんなに、花かんむりがほしいんですか?」
メイメイがたずねると、マールはぽろぽろとなみだをこぼしはじめました。
「おかあさんが、重い病気なんです。メイメイさんの花かんむりをいちどかぶってみたいというから、そうしたらきっと、元気になると思って」
メイメイは、すぐにもマールのおかあさんの花かんむりを作ってあげたくなりました。でも、クマの花かんむりを作るのは、ユキヒョウに作るより、ずっと大しごとです。
「どうしてもムリでしょうか」
かなしそうなマールの力になりたくて、メイメイは考えました。
そして、いいことを思いついたのです。
「マールさん、わかりました。ステキな花かんむりを作りましょう!」
マールは大よろこびしました。
「本当ですか! メイメイさんの花かんむりを!」
「いいえ、そうではないんです」
「え? それじゃあ、どうやって?」
マールは、またなみだをこぼしそうになります。
メイメイはいいました。
「マールさんが作るんです。わたしも手伝いますから!」
「そんな! メイメイさんみたいな花かんむりが、できるはずない」
「いいえ、きっとステキなものになります。いっしょに、がんばってみませんか?」
メイメイがねっしんにいうので、マールもとうとう決心しました。
「わかりました。教えてください」
メイメイとマールはクマのおかあさんのために、ねんいりにお花をえらびました。
まず、きれいなむらさきのラベンダーと、雪のように白いカモミールをつんできました。これは病気のクマによくきく、すっきりしたかおりがします。そして、気持ちの強くなるオリーブの葉も取ってきました。病気になんて負けないようにです。
「材料がそろった!」
ふたりは、カゴいっぱいにあつめたお花をつかって、さっそく花かんむり作りにとりかかりました。
メイメイは自分の仕事をしながら、マールにもていねいに作り方を教えます。マールにはむずかしいことばかりで、お花がちぎれたり、葉っぱがまがったりしました。けれどマールは、むずかしくてもけっしてあきらめませんでした。
そしてついに、クマのおかあさんの花かんむりができあがったのです。
マールがはじめて作った花かんむりは、あまり上手ではありませんでした。
がっかりするマールでしたが、メイメイはにっこり笑っていいました。
「だいじょうぶ。とってもステキよ! さあ、最後にまほうをかけましょう」
メイメイは、きらきらしたガラスのこびんを取り出しました。
「お花にこのしずくをふりかけるの。そうすると、花かんむりはいつまでも美しいままでいてくれる!」
これは、メイメイが早起きしてお花から集めた朝つゆです。それをぽたぽたとたらしてあげると、マールの花かんむりは、きらきらとかがやきだしました。
でも、マールはしょんぼりしています。
お花がちぎれて、葉っぱもまがって、ちっともステキになんか見えないと言うのです。
「いいえ、この花かんむりはとってもステキ! わたしを信じてちょうだい!」
泣いてしまいそうなマールをはげまして、メイメイはマールとクマの家に行きました。
メイメイはこっそりかくれて見守ります。
クマのおかあさんはベッドで休んでいましたが、マールが帰ってきたのをとてもよろこびました。そしてスンスンとふしぎそうに鼻をならしました。
「マール、春みたいな匂いがするわ。お花畑に行ってきたの?」
マールは花かんむりを、はずかしそうにおかあさんに差し出しました。
「おかあさんに花かんむりをあげたかったの。でも、メイメイさんの花かんむりみたいにはステキじゃなくて……」
マールはしょんぼりしていましたが、クマのおかあさんは起きあがって、かわいいマールをぎゅっとだきしめました。
「こんなにステキな花かんむり、見たことがないわ! ありがとう、マール」
メイメイはそれを聞くと、よろこんでくるくるとおどりました。
「ほらね、マールの花かんむりはとってもステキ! わかっていたの!」
クマのおかあさんはそれからすっかり元気になって、メイメイの花かんむりは、それまでより、もっと有名になりました。
いいにおいがして、とっても元気が出ると、大評判になったのです。
メイメイの花かんむりのお店は、今日も大いそがしです。
こぐまのマールはメイメイのお手伝いとして、花かんむりのお店ではたらくことになりました。あれからたくさん練習して、今ではマールも、とってもきれいな花かんむりを作れるのです。
メイメイとマールは今日も、ふたりで花かんむりを作っています。
「ようこそ、メイメイとマールの花かんむり屋へ。どんな花かんむりをお求めですか?」
おわり
2019年、母の日に寄せて。
<2018年 公募落選作 改稿版>
本作はショートバージョンを、2019年夏予定のイベントで朗読予定です。