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旅日記  作者: クスクリ
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久住花公園(2010年10月)

 すかっとしたいときは遠出するに限る。できることなら、空もすかっと晴れて欲しい。民主党の社会実験で無料化された椎田道路に入った。俺の前方をバジェロイオが走っていたが、豊前おこしかけの手前で路側帯に停車。見ると右リヤタイヤが酷いバーストだ。タイヤの腹が円状に破れている。俺らが豊前おこしかけに入って時を経ずパジェロイオも辿り着いた。


 道路を渡って店に入ろうとする間際、俺の足は止まる。パジェロイオから降りてきたのは30代後半くらいの女性だ。さぞ怖かっただろうと同情する。

 俺の耳に、「MBのボロ車!MBのボロ車!」とこだまする。嫁が訝し気に俺を見て、「どうしたん?助けてやらんの」

 腹が決まった。

「財布から俺の名刺出せや」

 

 俺はつかつかと女性に近づくと話し掛ける。

「俺はMBの者ですが困っちゃるんやないでしょうか?俺がタイヤ交換しちゃりましょうか」と名刺を差し出した。

 女性はまさに地獄で仏に会ったような満面の笑顔で、「凄い!私運が良いです。まさかMBの人にここで出会えるなんて。お願いします。でも先急いであるんじゃないんですか?」

「そんなこと全然気にされることないっす。俺はMBの車ば見捨てることができん性分なんです」


 俺は車に近づくと左のリヤタイヤも見た。下手するとこっちもバーストしかねない。前輪二本は新品だ。こんな整備をMBがしたとなると信用問題だ。

「整備はいつもどこでされよるんですか?」

「車は行きつけのモーター屋さんを通して行橋店から買いました。この前そこで整備して貰ったとき後ろは換えなくていいって言われたんです」

 曲がりなりにもMBの看板を揚げている店の、人命に関わるようないい加減な整備に無性に腹が立つ。

 ――そいやけんMBのボロ車ち言われるんじゃ、くそっ!

 俺は女性が驚きの目で見ている前でてきばきと交換を終えた。俺は10数年オフロードレースにどっぷり浸かってきた人間だ。四駆と言ってもパジェロイオの軽いタイヤくらいお手の物だ。


 作業が終わった後は助けられた人は助けて貰った人を眼前に恐縮するものだ。

 俺は、「左のタイヤも早く換えられた方がいいですよ」と言い残すと、足早にその場を去ってトイレに入る。トイレを出てさっきの現場を見たら女性は去っていた。俺はほっとする。

 去り際に、「はい。今すぐタイヤ交換に行ってきます。ありがとうございました」 と言う女性の声が背中越しに聞いた。


 いつものように青の洞門で鴨に餌をやったあと禿の湯温泉を目指す。今日は深耶馬溪は素通りだ。行きつけの家族風呂、くぬぎ湯のゆったりとした湯舟でリフレッシュした俺ら家族は、これも行きつけの蕎麦処・駿で絶品手打ち蕎麦に舌鼓を打って久住花公園へ。


 助けてやった女性、名刺の住所、YHTHGS店にお礼の菓子折りを送ってきてくれた。

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