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旅日記  作者: クスクリ
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2011年盆休・奈良大阪旅行I

やっと盆休みになったが、相変わらず会社は五日間しか休みをくれない。日産なんか八連休だというのに。俺の8月の実績は散々だ。持ち越しのD2が1台だけで販売0。7月の第二週から1ヶ月0だ。休み明けが思いやられる。でも俺は気を取り直す。夏を体感できる貴重な五日間だ。

宿は大和高田市の二鶴に取った。デリカも月曜日の店休日にオートバックスに行ってオイル交換を済ませた。ベルト鳴きもないしエアコンの効きもバッチリだ。去年の夏はさぁ今から出ようというときにバッテリーが上がって一貫の終わりだったが、今年は不安材料は何もない。


 昨日はその持ち越しの1台を夕方、門司大里の中村さんに店頭納車して8時前には帰宅する予定だったが、お客さんの都合で大幅に時間が狂ってしまい、帰り着いたのは11時前だった。いつもの通り風風ラーメンで唐揚げ焼き飯を食ってさぁ出発というところで頭が重い。店で一人お客さんを待つ間一眠りしてしまった。それが原因か。しかし、今日の嫁は運転に乗り乗りだ。

「俺何か頭が痛ぇんじゃ。運転頼むわ」

「何なら今からでもいいよ」

 一般道路の運転を無性に嫌う嫁にしては珍しい。

「まだ燃料入れたりせなならんけ吉志PAからでええわ」


 デリカのリヤシートはフラットにしてマットレスと布団を敷いた。快適な寝心地だ。夜はそう暑くなくエアコンは切って走れた。燃費節約だ。夜中にできるだけ走ってせめて広島県には入っておきたいなと思っていたが、ちゃん(息子)が俺を起こす。

「父ちゃんかあさんが呼びよるよ」

「何か?」

「どこまで走ったらいいとって言いよるよ」

「走れるところまで走れや」

 そのうちデリカはPAに入ったようだ。嫁のダウン宣告だ。

「もうきつい寝る。運転して」

「俺はまだ頭が痛ぇ。駄目じゃ」

 嫁はリヤシートに移ってきて寝の体勢に入った。

「ちゃんここは何処か?」

「まだ山口県ばい」

「何か情けねぇの」

 家を出るとき頭痛薬をちゃんに持たせていた。

「ちゃん薬はどこにあるか?」

「母さんのバックに入れたよ」

 薬を飲んで寝れば目が覚めたら治っているだろう。


 朝5時、目が覚めたら頭痛は治っていた。空が白む。

「そんなら出発すっか」

 ナビを見たら到着時間が11時になっている。

 ――ち~と着くのが早過ぎるな。どっかで時間調節せなならんか。

「父ちゃん朝飯は?」

「腹が減らんわ」


 夜明けの太陽が眩しい。俺はサンバイザーを下ろす。視界の右に宮島が浮かぶ。さすがに睡眠時間が少なかった。眠い。所々のPAに寄りながらデリカを走らせる。走り初めはエアコンは必要なかったが、徐々に気温が上がりだす。今度は強烈な眠気がやってきた。エアコンを入れたまま吉備SAでちょっと長めの仮眠を取った。エアコンは快適に効いている。側道から本線に合流する折、一瞬ベルトがぎゃっと鳴いた。

 ――何じゃ?エアコンベルトか?

 ――何でエアコンベルトが泣くんじゃ。社長がプーリーとベルト新品にしてくれたばっかりやねぇか。もしかしたらマグネットクラッチか。

 エアコンベルトは一定の間隔をおいてぎゃっと鳴いてはすぐ消える。まさかこの真夏の真っ只中にエアコンがイカれる?恐ろしい!考えたくない!

 俺は大音量で流れるミュージックを止めてベルトの音に耳を欹てた。息子も心配する。

「父ちゃんあれベルトの音やろ。大丈夫なん?」

「あぁまさか…、大事にゃならんちゃ思うばってか」

 嫌な泣き方がずっと続いた。車は兵庫県に入る。俺は吹き出し口に手を当ててエアコンの効き方を確かめ続けた。気のせいか…、エアコンが効いてないような気がする。


 PAに入って確かめる。風を額に当てる。

「効きよるやねぇか」

(長年車に携わってきたのに俺はド素人か!ベルトが緩んでるなら回転が上がれば空回りしてエアコンは効かないが、この段階なら、スロー状態だったらまだプーリーに密着している)

 息子も、「父ちゃん冷たいよ」

 しかし、走り出すと冷たくなくなる。

「おかしかな?」

 スロー状態だとエアコンは効くが、走り出すと全く効かない。

 後ろから嫁が、「暑いよ。エアコン効いてないよ」

「壊れた!!」

「エアコン壊れて旅行なんちでけんぜ!冗談じゃねぇ!明日もう帰るぞ!」

 頭にきた俺は吐き捨てた。息子が窓を開ける。

「父ちゃん外の方が涼しいよ」

 嫁も、「窓開けて走れは我慢できるよ」

「しゃぁねぇな」

 俺は諦め切った。できることならこのままUターンして小倉に帰りたい。でもそういう訳には行かない。宿の当日キャンセルは無効だ。金は全額払わねばならない。暑くても死にはしない。走れないよりはましだ。とにかく宿に着きさえすれば天国だ。明日は即行で小倉に帰ろう。


 車は山陽道から中国道へ。この糞暑いのに窓を開けて走っているのは俺らだけだ。羨ましい。下り線の渋滞が激しい。上り線の流れはスムーズだが、明日帰るときに渋滞に掛かるとしたら…、考えただけでも恐ろしい。吹田ジャンクションから近畿道へ。料金所で半額の6000円を支払う。千円高速は6月で終了した。俺らはETCは使わず障害者割り引きを使った。まだETCの障害者割引の手続きをしてなかった。さすがに通常料金に戻ったらどこのSAでも車が少ない。いっぱいで停められないということがなかった。松原ジャンクションから西名阪自動車道へ。

 ――くそっ、暑ぃ!恥ずかしい。

 ――ちょうど昼じゃ。この辺で飯でも食うか。

 香芝SAに車を停めてカレーライスで腹を満たして車に戻ってエアコンを入れてみる。

「あれっ冷てぇやん」

 と思ったのも束の間、ぎゃーと凄い音がしてエアコンは温風に変わる。

 ――まぁこげなもんやろ。

 周りの車を見渡す。軽の箱バンのおっちゃんがエアコンを快適に効かして昼飯を食っている。羨ましい。香芝インターから一般道に下りた。


 ――あれっおかしかな。ディーラー開いとるやねぇか。小倉はもうみんな盆休みに入っとるちゅうんにこっちは休みやないんか。ラッキーじゃ。修理工場があったらダメもとで飛び込むか。

『待てよ。こっちのMBまだ休みやないかもしれんな』

 前方に大きなダイヤマーク。

「やっぱり開いとるやん」

 整備士が忙しく立ち働いているのを横目に車で通り抜けて駐車場に入る。サービスフロントに向かう途中、ある整備士が俺に声を掛けてくれた。

「どうかされましたか?」

「すいません、エアコンが急に効かんごとなりまして」

 俺は彼を車の方に誘う。

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