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俺は俺であるために俺を捨てる  作者: 佐賀 貫
第1章
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日常クライシス10

 早めに終わったものの、教授が遅れてきたり、パツキンジャージ御怒り事件があったから、通常の終了時間と三十分しか変わらなかったな。

 

 六時半か。なら全然間に合うだろうな。

 

 隣のイケメン君の誘いを断ったのは、俺の性格に因るものであると同時に、今日、四月七日はどうしても行かなければいけないところがある。

 

 俺は目的地へ向かうため、やや足早に歩き出した。

 

 辺りは、ゼミが早めに終わった所為もあってか、人影はかなり少ない。

 

 早々に門の付近までたどり着き、とりあえず駅へと向かうため門を出て、右に曲がろうとした時、


 「直原」

 

 突然呼び止められた。

 

 一瞬ビクッとしたが、俺に声を掛けてくる人間なんて本当に極少数。更にこの声は、ついさっきまで半ば強引に聞かされていた声音だ。


 「……何?」

 

 「まずこっち向きなさいよ」

 

 この声音に、この口の利き方。もはや振り向くまでもないが仕方ない、溜め息混じりに俺は声の主の方へと顔を向ける。


 「なんだよ、まだ言い足りないことでもあるのか?」


 「ある」


 「……それはわざわざ待ち伏せしてまで言わなきゃいけないことなのか?」

 

 パツキンジャージを煽るかのような問いかけをしてみるが、以外にも彼女は冷静でいる。


 「うん。ちょっと確認しておきたいことがあるから」

 

 確認? 俺とこいつとの間で確認を取り合わないといけないことなんかあったか? 

 

 いや、高校時代一緒だったとはいえ、俺からすればこいつと今日初めて会ったようなもんだから確認事項はないはずだ。ならば確認というより何か聞きたいことがあるのだろうか。パツキンジャージが俺に聞きたいこと……。

 

 今日のゼミでの質問タイムから判断するに、大学での成績のことか? 指定校がどうとか、テストの順位がどうとか成績のことについてばっかり突っ込んできていたからな。


「俺のGPAについてでも聞きたいのか? 俺は大学では勉強を全然やってない。だから、お前の方がGPAは高いと思うぞ」


 「あんたの今の成績なんてどうでもいい」

 

 あれ、予想と違ったか。それにしても今の成績はどうでもよくて、過去の成績ではあんなにずべこべ言うってどんだけ執念深い性格してんだこいつ。そんなことはどうでもいい。今日はこれから行かなければいけないとこがあるんだ。さっさと確認を取らせてやって向かはなければ。

 

 俺は早くここから立ち去りたいという意思を込めた口調で言う。


 「だったら何についての確認だ?」


 「あんたの中学時代について」


 「……え?」

 

 俺の中学時代のこと……なんで今日会ったばかりのようなやつが(俺からすれば)そのことを聞こうとするんだ。


 「あたしの大学の友達にあんたと同じ中学だったって子がいて、その子が言ってたことが本当かどうかの確認」


 「……わ、わるい、また今度にしてくれ。今日は用があって急いでるから。じゃあな」


 「え、ちょっと待ちなさいよ!」


 俺は彼女に呼び止められるも、踵を返し、駅の方へと向かう。




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