表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は俺であるために俺を捨てる  作者: 佐賀 貫
第1章
1/14

プロローグ

とある会議室。


「いい加減にしろよ!無関心を装って、あいつを助けようとしなかったのは、お前らのほうじゃねーか」

 

普段は数人の大人たちが集い、淡々と打ち合わせを行う空間に、一人の中学生の怒号がこだまする。   


「まあ落ち着きなさい。君がいくら怒りを露わにしたところで何も変わらないよ」 


「そうだよ。私たちはただ、君が知っていることを聞きたいだけなんだ。少し冷静になりなさい」


「もう一度聞くよ?彼が危険な考えを持っていたり、おかしな行動をとったりするようなことはなかったかな?」

 

三人の大人たちが、感情的になった中学生を落ち着かせながら、無理にでも彼の口から答えを聞こうとする。


「怒りを露わにしても何も変わらないことぐらい分かってる……だからといって、冷静に話したところで、何も変わらない」

 

中学生は激しく揺らいだ感情を必死に堪えながら反論する。


「意地になっても仕方ないよ。ただ君が知っていることを話してくれるだけでいいんだ。ほら」


「…………」


 大人達の問いかけに、俯いて断固として答えようとしない中学生。


「もう、こうなってしまっては先に進めませんね。また日を改めて、直原ただはら君が心身ともに落ち着いてから、再度、話し合いを行いましょう」

 

その発言を機に、周りの大人たちは立ち上がり、まるで何事もなかったかのように、会議室を後にしていく。


 しばらくして気がつけば、中学生は一人、会議室に取り残されていた。


「ん?」


 中学生は目の前に置かれた、あるものに気がつく。彼が座っている席の長机の上に、綺麗に折りたたまれた

ハンカチがあった。


「なんだよ……これ」


 その時、彼は体の中が熱くなっていくのを感じた。彼の目からは涙がこぼれ落ちていた。それが悲しさからなのか、悔しさからなのかは分からないが、そこには何か、涙とともに、彼が大事なものを失っていっているようだった。


 人と人とが互いに言葉を発し合い、聞き合い、理解し合うために作られた会議室。しかし、この空間で彼の言葉に耳を傾ける者は、存在しなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ