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第八章 実況中継!スカイフロントウェア!

「ようこそ!冒険者よ!!」

 俺達が街の入り口、つまりは門の前に差し掛かると門番の二体の獣が現れる。

 一匹は棒につかまって俺達を凝視してくる猿、正確な種族名はインドリ・インドリというらしい。アイアイなどといった猿の仲間でありマダガスカルに住んでいる。現地では神聖な動物として讃えられていたらしく伝承では10メートルジャンプ出来るらしい。このゲームで本当にそんなに飛べるかはわからないが。

 もう一匹隣で鎮座しているのは幻獣種のグリフォン。体の前半分が鷲で後半分がライオンの姿をした空想上の生き物だ。こいつは元々門番としてなにかを守ってるって話を聞くからある意味イメージ通りだ。

 インドリ・インドリとグリフォンは声を揃えて俺達に言う。


「「君達のことは長より承っている。今回のイベントの主役なのだろう?」」


「…え?イベントってなんですか?」

 かめちょんの図々しさも裏を返せば臆せず話が出来る度胸と捕らえることが出来る。ある意味見習うところがあるのかもしれない。

 かめちょんの質問に対してグリフォンが答える。

「今回君達に受けてもらう試練はこの街を使って行われる。」

「…どうゆうことよ?まどろっこしいのはいいから早く長に会わせなさい!」

 お前は本当に松下なのか、ナチュラルよ。

 ナチュラルの問いに対してインドリ・インドリが高い声で答える。

「今回の試練はズバリ、この街に隠れている長を見つけることだ!」

「え?それってつまり…。」

「かくれんぼだ!」

 イデアはなんだか少し楽しそうだ。


「そう今回の試練はかくれんぼなのさ!!」


 俺達の元にスクリーンを抱えたタカちゃんが飛んでくる。しかし声の主はタカちゃんではなかった。

「ようこそ僕の街へ!冒険者のみなさん!君達が来るのを心待ちにしていたよ!!」

 スクリーンに映るそれはインドリ・インドリよりも高い声で喋りだす。

「僕がこの街の長!それでいて実況主のチキンジョッキーさ!!」

「ひよこさんだー!」

 画面に映っているのは可愛いひよこだ。鶏ですらない。このゲームの動物は歳をとったりとかそうゆう時間の概念がないのにも関わらずオタマジャクシやヒヨコといった成長途上の生き物もプレイアブルキャラとして配信されている。運営が用意した一種のギャグ要素なのだ。

 しかし彼、チキンジョッキーはリリース当初からひよこのままなのだ。

「色々言いたいこともあるだろうけど今回の試練は僕の試練と言うことで派手にやろうと思ってね!街そのものを使った取り組みにさせてもらったよ!」

「鳥だけにってか!チキンの兄貴!」

「あー、日本語はわからないからよくわからないけどそうゆうことだよ!」

 タカちゃんのボケに笑顔で答えるチキンジョッキー。彼はイギリス人なのだ。

「とにかくルールは簡単だ!僕はこの街の何処かにいるから君達冒険者には僕を見つけてもらいたい!」

「見つけて捕まえることが出来たら試練はクリアだ!〈たからもの〉もすぐに用意するよ!」

「待ってよ!あなたみたいなちっころいのをこの町中探せって言うの?スミに隠れられたら見つけられないわ!」

「まぁまぁ鹿のお姉さん、ちゃんとハンデはあるよ!」

「ハンデ?」

「まずこの試練は今現在も僕の動画サイトで生中継されている!」

「…え、それって。」

 ナチュラルの勢いがなくなる。彼女は気付いてなかったのだろうが俺には予想通りだ。

「ジロウさん!これで私達も有名人ですよ!!」

 かめちょんは嬉そうに黄色になる。イデアの事があるから目立っちゃ駄目なんじゃないのか?単純に嬉しくて舞い上がってるのかよくわからないやつだ。


 とりあえずかめちょんが喜ぶ理由について少し話をしたいと思う。

 近年VRデバイスの普及で画面を見てするゲームだけでなく体感型ゲームの普及が世界規模で進んでいる。それに伴って世界規模でそれらのゲームのプレイ動画が話題になっている。若者の間ではテレビを見るよりもそっちをみるって人も少なくない。

 ゲームの発展に伴って賑わいをみせるプレイ動画界隈だが、その中でも激しい再生回数争いの中でスターが生まれてくる。それが彼、チキンジョッキーだ。

 彼は元々建物を作ったりする人気のゲーム「スカイクラフト」の実況動画で人気をはくしていたが「ワイルド・シミュレータ」のリリースが決まると共に日夜その情報を集め自分の番組で放送していた。

 前から人気のあった彼が更なる人気を得たきっかけは二つ、このゲーム初の自動翻訳機能で世界中の誰でも言語を気にせずに見れるようになったこと、それと彼が行ったゲーム内での企画の面白さだ。

 彼が行った企画とは弱肉強食のこのゲームにか弱いひよことして参加して世界の頂上に自分の街を作ることであった。

 通常なら達成は困難な課題であったが彼には多くのファンがいた。多くのファンが協力して参加した結果、天空都市「スカイフロントウェア」が生まれたのだ!

 彼の企画の良さは視聴者が気軽に参加できたということだ。動画を見たプレーヤーが集まり街を作る。参加したプレーヤーはみんなで一つの街を作るという取り組みを楽しむ。その後口々に他のプレーヤーに伝えつつ自分の参加したプロジェクトを見守るために継続した視聴者となる。

 空を飛べないひよこが空を目指すという無謀な挑戦だからこそ人々を惹き付け多くの協力者を得たのだ。

 勿論邪魔をしようとする輩も多かったが彼の持つカリスマ性で参加者を指揮し余計な争いを生み出さずに街作りを成し遂げたのだ。

 彼は動画の広告料だけで生計をたてている様だが世界中のプレーヤーを魅了するカリスマ性があるのだから政治家になれるんじゃないかと一部で噂がたっているらしい。


 まぁ長い話になったがとりあえず俺達がこれから探すひよこは世界レベルで人気の大スターだってことだ。

 俺達はそいつの企画に参加してその勇姿を世界中の人に見られてしまうわけだ。

このご時世若者でなくても、例えば俺の得意先の40過ぎたおばさん、岡見さんでも子供と見てると話してるくらいだ。誰に見られてるかわかったものではない。

 確かにこれはゲームの世界で俺達も動物の姿をしている訳だが、子供の頃に眺めていたテレビの向こうの雛壇に座っているような気分だ。

 別に憧れがあるわけではない。寧ろ俺は人前が苦手だ。苦手だから今まで一人で自由に旅をしてきたのだ。

 かといって今更引き返す訳にはいかない。

 俺の上で嬉々とするかめちょんとイデアを背中に乗せてしまった以上ここは進むしかないようだ。


「この街、スカイフロントウェアには多くの電工掲示板がある!」

 俺の理想とする自然界はどこにいったんだ。

「その掲示板にはこの街の地図と僕の居場所が表示されるんだ!」

「君たちはそれを頼りに僕を探すことが出来る。」

「なるほどそれなら簡単ですね!」

「私もかくれんぼは得意なの!」

 俺の上の二人はいつも楽観的だ。

「…は、早く終わらせて、は、早くこの街を出ましょう。」

 今回はナチュラルと気が合うようだ。

「更に君達には助っ人としてタカちゃんが同行するよ!」

「よろしく頼むぜジロウの旦那!」

 そういって翼を翻すタカちゃん。都合よく俺達の前に現れたと思ったら主催者とグルだったのか。

「いいんですかそんなにハンデもらって?こんなのそのとりさんがいなくても楽勝ですよ!」

 かめちょんは調子にのっている。

 これはまずい流れだ、最近わかってきた。

「勿論そんなに簡単には捕まらないよ!何故なら!」

 スクリーンに映るチキンジョッキーが段々と小さくなる。元々彼がドアップで映るようにカメラを近付けていたのだろうか?

 映像が彼からフェードアウトしていくと彼の後ろに何か黄色い塊が映るのが見えた。

「…なんですかあれ?」

 もぞもぞと動く不定形な塊はばっとみた印象ではわかりにくいが目を凝らすとそれが一つ一つの小さな生き物の群衆であることに気が付く。

「…さっきのカラス達の方がましだったわ。」

 一羽一羽がピーピーと鳴いているのだ。


「わー!ひよこさんが一杯だ!!」


その数はざっとみで百を越えるだろう。

「今回は視聴者から応募を募って影武者を用意させていただきました!!」

 どうやら俺達は五体一の不条理なかくれんぼではなく、五体一杯の理不尽な鬼ごっこをするようだ。


「とりとめもないよな、鳥だけに!」

 …タカちゃんってそんなキャラだったっけ?

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