第五章 激戦!動物トーナメント!!
今日は土曜日、仕事は休みだ。俺は休みの日の朝は近くの公園までランニングをするように心がけている。
「…早いですよジロウさん、待ってください!」
後ろからついてきているのは上新井、最近同居している居候だ。
一緒に走ってみてわかったがそんなに体力はない。俺も足は早い方ではなくゆっくりジョギング程度の早さで走るが20分もしないうちからバテてとぼとぼ歩いてきている。
「…ついてきたのはお前だろうが。あと外でジロウは止めろ、ややこしいから。」
「…いいじゃないですか、ジロウさんも士郎さんも似たようなものですよ。」
ぜいぜいと息をあげついてくる彼女は世界に名を馳せる大企業デミウルゴスに親のこねで入ったらしい。なんでも親がイデアお嬢様の教育係件執事だったらしい。執事なんて実際にいるんだなぁ。
「…はぁはぁ、帰ったら先にシャワー貸してくださいね。」
親のコネで入社した彼女の話を聞いたが中々のポンコツだったようだ。彼女は自覚はないが感情の起伏が激しく人当たりがそんなに良くない上に要領も悪い。その結果、技術開発部に異動になり「ワイルド・シミュレータ」でのイデアのおもりを担当することになるという不思議な経歴の持ち主だ。
「構わないがお前はもう少し羞恥心を持て。」
俺の家に居候しているのも実質彼女の判断だったみたいでいまいち人の苦労を考えられないちょっと残念なやつだ。
「ジロウさんこそもう少し私に興味を持ってくれてもいいんじゃないんですか?」
お前に興味を持たなくてもたくさん話してくれるから嫌でもわかる。
「…もう少し大人しくなったら考えてやる。」
「どうゆうことですかジロウさん!?」
ゲームの中のカメレオンの姿でもないのに彼女は顔を真っ赤にして向かってくる。まぁ見ている分には面白いやつだよ。
「いよいよ闘技大会ですね!ジロウさん!!頑張ってください!!」
「わんわんがんばって!!」
闘技会場の入り口で俺はカメレオンとフードの女の子に見送られる。
「まぁやるからには勝ってくるよ。」
俺はそれだけいって会場へ向かう。
「私達も観客席でみてますからね!」
「わんわんおうえんするー!!」
一人での自由な生活とはずいぶんそれたところに来てしまったがやるからにはやらないとな。
「それでは選手達の入場です!!」
司会のコンドルが空を舞いながら声高に叫ぶ。今回の大会はここパワーオブメタルズのコミュニティ外から参加者を募り、賞金とレアアイテムを求めた猛者が集まっていた。
その中でも激しい予選を勝ち抜いた八匹の獣達が姿を現す。
「おっとジロウの旦那じゃないか!」
「あら、久々に会ったわね。」
「ファキンジャープ!!」
その中に見覚えのある一羽と二匹がいた。
「なんだよお前ら、来てたのかよ。」
「へへ!当然だろ旦那!今回の賞金は俺がいただくぜ!」
大鷲のタカちゃんは名のある賞金ハンターだ。この世界の空を舞う彼は高い機動力で世界中の情報を集め金になるイベントに意欲的に参加している。
「この間は麒麟にもあなたにも逃げられたけど今度は逃げられないわよ!」
オオツノジカのナチュラルは実は幻獣扱いのレアな動物だ。正確にはギガンテウスオオツノジカと言うらしい、氷河期に生息していた生き物で絶滅種なのだ。
彼女は草食動物の癖にかなり好戦的だ。自分の力を試すためなのか日頃の鬱憤を晴らすためなのかはわからないが強い相手に挑みその大きな角で葬って来ている。一度俺に挑んで来たので返り討ちにしたからか異様に目の敵にされている。
「ウィーーーー!!!!」
ストロンガーことマウンテンゴリラ、学名をゴリラ・ゴリラ・ベリンゲイ。やつは口が悪くこのゲームの自動翻訳機能がうまく機能しない。やつも好戦的だがナチュラルほど見境なく勝負を挑んではこない。寧ろ時々手助けをしてくれたりする。何を考えてるかわからないが何を言いたいかもわからないので気にするだけ無駄だ。一つ言えるのは今のように胸を叩きドグラミングを始めた時は負ける気がないということだけだ。
他にも何匹か見た顔がいたが正直覚えてない。
「てめぇが噂の狼のジロウだな、お前を倒して俺が名をあげるぜ!!」
今回の大会はトーナメント形式で一対一だ。体力がなくなる直前を自動で検知し試合の決着を告げるゴング「バトルマニア」がなるか台場の闘技場から押し出される場外になるかで決着が決まる。いきなり俺に飛びかかってきたワニは大口をあけて俺に噛みつこうとしてくる。しかしどうということはない。
「あんたは水中で大人しくしてた方がいいと思うぜ。」
やつの噛みつきを避けて尻尾に噛みつく。そのまま首を降ってやつを降り飛ばし場外へ叩きつける。大型の奴なら面倒だったが体長1メートル程度の小物ならこれで十分だ。
「決まったー!!圧倒的な強さでジロウ選手の一本勝ちだ!!」
コンドルの高らかな実況で会場が湧く。
「さすがジロウさん!!走り込みの成果ですね!!」
「わんわんつよーい!!」
あいつらの声も聞こえる。まったく、走り込みは関係ねぇよ。
俺は本当はこうやって目立つのは嫌いだが今日はなんだか少し嬉しかった。
「…ジロウあんた何ニタニタしてるのよ?」
会場から降りて控え室に向かう俺にすれ違いざまナチュラルが声をかけてくる。
「…そうか?あんまり気にしなかったが。」
「なんなのその腑抜けた態度は!あなたは私が倒すんだから覚悟してなさい!!」
ふんっと首を降って彼女は去っていく。最近あいつらには会ってなかったけど前よりツンツンしてる気がする。なんなんだろうな。
俺とあの二匹と一羽との出会いはこのゲームのβ版以来だ。β版の頃からこのゲームの完成度は高く、今あるシステムの殆どがバグなく実装されていた。俺とやつらは強力な動物の出現情報がでると何の連絡もなく狩りに集まったものだ。勿論俺は一人で狩るのがメインだが不思議とやつらに出会ってしまう。同じ穴の狢ってことなんだろう。
イデアと出会って、上新井と同居を初めて一週間、中々会わなかったからなんだか少し懐かしい。
初戦はあっという間に決着がつき準決勝はみんな顔見知りになる。
「次の相手はジロウの旦那か!羽がなるぜ!」
俺の相手はタカちゃんらしい。
「ジロウ、あなたは私が倒すからそこの鶏に 負けないでよね!」
「角のねぇちゃんはおっかないね。」
「ウホーーーー!!!!」
久々に会うのに今まで通りだ、少し嬉しくなった。
「ジロウさーん!負けないでくださいよー!!」
「わんわーん!がんばってー!!」
またあいつらの声が聞こえる。また少し嬉しくなった。
「…いいぜお前ら、勝つのは俺だ!」
「それでは準決勝!ジロウ対タカちゃんの試合を始めます!!」
「全力でいくぜ旦那ぁ!!」
タカちゃんは空に舞い上がり俺の上を旋回する。
「来やがれタカ野郎!!」
俺は久々に叫んだ。
「試合開始!!」
コンドルの合図を皮切りにタカちゃんはスピードを高め空中を駆け回る。瞬発的な早さなら俺に分があるが加速をつけたスピードはタカちゃんの方が早い。
「行くぜ旦那ぁ!!」
俺の視界からタカちゃんが消えた時後ろから掛け声と共にやつのかきづめが肉に刺さる。
「くそっ!」
俺が振り向くとやつはすぐさま飛び上がり距離をおく。久々に戦うと飛べるあいつは中々厄介だ。
「どうだい旦那!空を舞う俺の動きについてこれるか!?」
得意気なタカちゃんは一ヶ所に留まらず縦横無尽に滑空する。
「わんわんがんばってー!!」
またイデアの声が聞こえる。俺の背中の肉が割け赤い血を垂らしているのに彼女の無邪気さは変わらない。
「わんわーん!!」
…いや、少し違うな。いつもより必死な感じがする。早く終わらせて安心させてやらないとな。
俺はここで目を閉じる。
目でやつを追っては駄目だ。音と臭い、それで判断しろ。
これはゲームだから臭いなんて感じない筈だが俺にはわかる。
獣のように神経を研ぎ澄ませゲームの中に意識をダイブさせる。
「もう一発いくぜ旦那!」
羽音が聞こえる。獲物の臭いがする。俺はその方向に体を動かす。
「ぐらぁぁぁぁぁあ!!」
「…い、マジかよ!?」
俺の牙は大鷲の胴体を捕らえそのまま地面に叩きつける。あとは爪で切り裂くだけだ。
「…参ったぜ旦那、やっぱりあんたは強いぜ。」
俺との戦いを終えボロボロになったタカちゃんを医務室まで見届け俺は一度観客席へ立ち寄る。試合前に10分間の休憩があるので時間的には余裕がある。
「わーいわんわん!!」
イデアは俺の体に飛び付いてくる。
「…ジロウさん、すごいですね、あっという間に決勝ですね!」
そうゆうカメレオンは少し青みがかった色をしている。
「どうしたんだかめちょん、顔が青いぞ。」
「…いや、だってジロウさんの試合が中々にグロかったので。」
目を背けながら申し訳なさそうに話すかめちょん、俺がタカちゃんに食らい付いてからのことをいっているんだろう。
「狼だからな、俺は。」
「現実のジロウさんもあのくらいワイルドでもいいんですよ?」
さっきまで青かったカメレオンは今度は黄色くなって話してくる。移り変わりの激しいやつだ。
「とにかく次で最後だ、すぐに終わらせてくる。」
「はい!私はお嬢様と待ってますね!」
「いけいけわんわん!!」
「いよいよあなたと決着をつけるときが来たわねジロウ!」
決勝戦はやつの予告通りナチュラルが相手だった。やつはその角でストロンガーをぶっ飛ばし場外へ送り出したのだ。
「まぁさっさと終わらせようぜ、俺は用事があるんだ。」
「最近顔を見ないと思ったらあの観客席の方々と群れて大人しくしてたじゃない、なんなのあのあいつらは?」
今日のナチュラルは妙に突っかかってくるな。
「お前の言う通り旅の連れ添いだ。色々あってな。」
俺の回答に少し機嫌を悪くさせながらナチュラルは睨み付けてくる。
「あなたが何をしてようと勝手だけどあなたを倒すのは私なんだから馴れ合って弱くなってたら承知しないわ!!」
やつは角を構え交戦体制をとる。
「…その辺は心配ないぜ、勘は今まで通りだ。」
「それでは決勝戦!開始!!」
その宣言と共にナチュラルは突進してくる。やつの体は俺より一回り大きくまず投げ飛ばすのは無理だろう。さらに巨大な角は左右の退路を断ち高速でブルドーザーが突っ込んでくるような迫力がある。だが何の問題もない、俺は狼だ。
突進してくるやつの頭に向かって飛びかかりそのまま爪をたてやつの背中を駆け抜ける。
「逃がさないわ!!」
俺が背中をとったのに気付いた彼女はその大きな角を振り回し俺を振り落とそうとする。俺は角と体の合間を縫ってやつの足元に降り立ち前足に噛み付き肉に牙をたてる。
「その程度じゃ効かないわ!!」
やつは蹄をたてて俺を振り払う。普通の鹿なら今ので動けなくなるがこいつはそうはいかない。
ギガンテウスオオツノジカ、氷河期に地球上に存在していた動物で体長は約3メートル、角の重量だけで50キロを超える大物だ。まずあの角の一撃を食らえば俺でもひとたまりもない。毛皮も氷河期を耐え抜くだけあって分厚く牙や爪の通りが悪い。ストロンガーを一蹴する強さは伊達ではないのだ。
俺はやつと距離をとる。インファイトでスピードによる撹乱作戦を行ったが半端な攻撃じゃ大したダメージも期待できない。
「ぼさっとしてるんじゃないわよ!!」
再びやつの角が俺を目掛けて突っ込んでくる。初めてあったときと変わらずごりごりのパワータイプだ。
…やれやれ、本気で戦う必要があるな。
今まで大して話してなかったが狼って生き物は本来大して強くない。俺は狼の中でも大型のハイイロオオカミだが顎の強さや爪の鋭利さで言えばライオンや熊の方が圧倒的に強い。スピードも時速70キロ程度は出るがそれより早いやつらはたくさんいるし体格だけならゴリラや目の前の鹿の方がたくましい。
本来狼は群れでの連携で強くなる生き物だ。だけど俺は誰かと協力して戦うことは少ない。別に一人でいることを悲願じゃいないがな。
ならば俺が戦い続けられる理由はなにか?それは持久力にある。
狼は時速70キロを維持して走り続けることが出来る。つまりスタミナがその辺の肉食獣と比べて段違いに高い。俺はこの能力のお陰で長い長い狩りの中で野生としての勘を磨くことが出来た。
俺の力の源は経験則と持久力に裏打ちされた凡庸なものだ。しかしこれがある種のアクションゲームである以上これ以上の強さの秘訣は必要ないのである。
「…くそ、…相変わらずしぶといわね。」
十分位たったか…、ナチュラルは少し息をあらげている。恐らくこれがこの大会で最長の試合時間になるだろう。
「長きに渡る死闘を経ても!ジロウ選手、余裕の表情だ!!」
コンドルの声で会場は湧いている。
「いいですよジロウさん!そのままやっちゃってください!!」
「わんわんがんばってー!!」
長いこと戦ってるのにあいつらはあきもせず声援を送ってくれる。思えば今までそんなことはなかった。
俺はこのゲームで長い時間狩りに明け暮れて一人で自由にやってきた。会社みたいな組織の統制とか誰かの気を使ってヘラヘラ笑うこともなく自由に戦っていた。俺はそれが好きでこのゲームをやっていた。
けどどうしてだ、それを誰かが応援してくれる。俺がしたいようにしても認めてくれるやつらがいる。…どうしてゲームの中でそんなこと考えちまうんだろうな。
「いい加減当たりなさい!!」
ちょっとだけ気がそれていた俺にナチュラルの角が向かってくる。こいつとの決着をさっさと着けないとな。
「悪いなナチュラル、これで終わらせるぜ。」
角を向けて突進してくるやつの鼻先に向けて俺は飛び付く。恐らく角の一撃をかすることになるが先に止めの一撃を決めておく。
俺の鋭利な牙がやつの鼻先をつつみ口ごとに噛み千切らんとするように食い込む。
「…!?」
口も鼻も塞がれたやつは俺を放そうと顔を振り回し俺の体も揺さぶられる。その勢いで俺の体はやつの角に叩き付けられ多少ダメージを喰らうがスタミナの減っているやつにそれを続ける元気はない。
彼女はしばらくのたうちまわったがそれで目を回したのか体力がつきたのか、どさっと膝をつき倒れる。俺も少々目がまわったが先にへばらせておいて正解だったな。
カーーーン!
〈バトルマニア〉のベルが鳴り響く。
「…勝者!ジロウ選手!!」
声援の絶えない会場に更なる歓声が響く。
「さすがジロウさんです!!」
「わんわんすごーい!!」
観客席から降りてきた二人が俺に駆け寄ってくる。…全く目立つなっていったのはお前らだろうに。
「ジロウさん!!」
「わんわん!!」
二人が俺の背に飛び乗り跳ね回っている。まるで戦いの間待ちかねていたかのようにはしゃぎまわる。…俺も少々疲れたから程々にして欲しいんだが。
「おい、ジロウの上の子犬はなんだ?」
「カメレオンも乗っているぞ!」
観客席から歓声に混じりざわざわと声がする。ほら言わんこっちゃない。早速目立っているぞ。
「あの優勝者のジロウに股がるなんてきっと余程強いやつに違いない!」
「あぁあの一匹狼で有名なジロウを従えるなんて恐ろしいやつだ!!」
「ウルフライダーだ!やつらはウルフライダーだ!」
ざわざわ声は段々と予想外の声援に変わる。
「格好いいぞー!ウルフライダー!!」
「あのジロウが遂にコミュニティに入ったのか!!」
「ウルフライダー!!」
悪い気はしないがこんなに目立つのは大丈夫なのか?
「ジロウさんなんか私達ヒーローみたいですね!!」
お前はなにもしてないだろうが。
「では優勝したジロウ率いるウルフライダー達に優勝商品の贈呈が送られます。」
大会後の授賞式はそのまま闘技場で行われ老虎が自らアイテムを持って現れた。先程まで俺の上ではしゃいでいたかめちょんとイデアも上に乗ったままだ。
「相変わらずいい戦いだったぞジロウ!」
「いつも通りやっただけですよ。」
「お前の気が変わったらいつでもここに来るといい。私は歓迎するよ。」
「…俺は俺のやりたいようにやるだけです。」
「まぁそう言わずな。」
「とにかく老虎さん!早く〈たからもの〉をくださいよ!!」
かめちょんの無神経さはこういうときに役に立つ。
「…いいだろうお嬢さん、私の試練を見事に達成したジロウを称え約束通り一つ目の〈たからもの〉を与えよう!」
俺達と老虎の間に一つの小さな宝箱が光と共に現れる。俺はそれを手にしアイテムを獲得する。歓声がこだまするなか老虎は一言俺達に呟く。
「…その箱は人目のないところで開けなさい。イデアお嬢さんのためにな。」
それだけ言い残して老虎は俺達の前から離れていく。
俺達がなにか言おうとする前に歓声が全ての音をかき消していった。
「待ちなさいジロウ!!」
俺達が街を出ようとすると傷を治したナチュラルが現れる。
「あーさっきのシカさんだ!」
「まだ何かあるんですかね、しつこい人ですね!」
初めてかめちょんと気があった気がする。
「…私はあんな負け方認めないわ!!」
なんだかナチュラルの顔が赤い、まだ傷が痛むのだろうか。
「…あんな、あんな噛み付き、よけれなかったなんて…!!」
どうにも様子がおかしい。
「…覚えておきなさい!今度あったときこそあなたの最後なんだからね!!」
そういってナチュラルは俺達よりも早く街を出る。
「なんだったんでしょうね、いまの?」
「全然わからん。」
嵐のように駆け抜けていったやつを見送って俺達は次の街を目指し出発した。
「…ふぅ。」
少し幼げな女性がヘッドセッドを外す。長いことプレイしていたせいか少し疲れているようだ。
「まさか顔半分噛み付かれるとは思ってなかったなぁ。」
彼女はゲームでの体験を思いだし思い更けているのだ。
「人間だったらあれ…、キスになるのかな…。」
少し顔を赤らめながら彼女はヘッドセッドを机に置く。
「…現実でもしたことないし、わかんないや。」
仕事の資料で少し散らかった机に頬杖をつきながら窓を眺める。
「…ジロウさんってどんな人なんだろう?」
彼女の机の脇には会社の社員証がある。
そこには当然彼女の名前が書かれている。
松下角子と。