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第四章 力の国!パワーオブメタルズ!!

「大崎?どうした寝不足か?」

 所長が俺の変化に気付き声をかけてくる。さすが所長をしてるだけあってめざとい人だ。

「まぁ大丈夫っすよ、大したことないです。」

 最近いつもより眠りが浅い。それもこれも上新井とかいう女のせいだ。

 イデアとかいう人工頭脳の少女のおもりは割りと上手くいってると思う。あの娘はやんちゃでいろんなところを駆け回るが俺の言うことは割りと聞いてくれる。問題は上新井だ。

 初めて会ったあの日以来本当にうちに泊まり込んでいるのだ。初対面のクールな印象とは裏腹に喋り好きで暇があったら話し掛けてくる。喜怒哀楽の激しいやつで付き合う俺の気が休まるときがない。

 因みにこの事は誰にも言えない。イデアのことを世間に公開出来ないからそれに繋がる情報は可能な限り隠さないといけないらしい。

 突然家に上がり込んできて無茶苦茶なやつだがそれが社長から極秘裏に受けた任務らしい。会社に対して裁判を起こせば勝てそうな気もするがそんなことをする時間も元気もゲームにさいたほうがよっぽどいい。俺はそう考えている。

「先輩、本当に大丈夫ですか?」

 後輩の松下だ。よく気が利く娘で将来有望だ。うちの会社では珍しい営業ウーマンだが男女平等をうたう世の風潮にあてられて取り立てて話題にされることはない。どちらかというとそうゆう話をするとセクハラだのなんだのいちゃもんをつけられる時代だからみんな妙な気を使っているのだ。

「大丈夫だよ松下、ちょっと遅くまで遊んでただけさ。」

 この歳になってゲームしてましたなんて恥ずかしくて言えない。

「そうなんですか、私も遅くまでゲームしてたりするんで程々にしないとですよね。」

 若いやつらは俺みたいな抵抗がないみたいである意味羨ましい。


 ともかく俺は今日の仕事も足早に済ませ自宅に帰るのであった。


「随分遅かったですねジロウさん。」

 家に帰るとやはり上新井がいる。

「またシャワーは勝手に借りちゃいました、すみません。」

 悪びれる様子はあまり見えない。なんなんだこの女は。

「…あんたはマジでここで暮らす気なのか?」

「それが私の仕事なので!」

 随分楽な仕事だな。

「勿論利用させて頂く以上、炊事洗濯家事掃除、全てにおいてお任せください!」

 上新井はなんだかご機嫌だ。

「いや、そうゆう問題じゃなくてだな。」

「あとジロウさんの口座に報酬の方も支払わせていただきますよ!社長のポケットマネーで!」

「そうゆう問題でもなくてな。」

「なにが不服なんですか!こんな美少女と二人、同棲出来るんですよ!普通喜ぶもんじゃないんですか!?」

「そうゆう問題でもなくてだな。」

 俺は頭を抱えるが仕事の疲れで反抗する気が起きない。

「…とりあえず今日もゲームしないとなんだろ?」

「はい!よろしくお願いします!」

 しばらく一人で静かには出来そうに無さそうだ。


「ようやくつきましたね!一つ目の街パワーオブメタルズ!」

「ついたぞー!!」

 このゲームにワープ機能はない。移動は自力で行う必要がある。代わりと言ってはなんだがクジラの背中に出来た船やペリカンの口の中に乗って移動できる交通網もありはする。しかしイデアを連れて人目につく交通網を使用するのは目立つため俺達の旅は殆ど自力での移動だ。正確に言うなら殆ど俺の移動だ。

「たまにはお前も自力で移動したらどうだ?」

 俺は頭の上の上新井ことかめちょんに問いかける。

「ジロウさんに乗ってる方が私は移動しなくて済むので楽なんですよ!」

「そうゆう問題じゃなくてだな。」

 …いかんいかん、このままでは現実と一緒だ。

「お前らを乗せてる分俺の体力が削られるんだよ。」

 それを聞いたかめちょんは体を赤くする。

「もージロウさん!私は軽いんで対して負担になってないはずです!」

 こいつは感情に合わせて色を変える、本来のカメレオンはこんなに鮮やかに色を変えないんだが中身が上新井である以上どうこう言っても仕方ない。

「そもそもレディに向かって体重の話をしちゃダメなんですよ!」

「…はいはい、俺が悪かったです。」

「あんまり反省してませんねジロウさん!」

 相変わらずかめちょんは真っ赤だ。

「けんかはめー!」

 イデアが俺の背中を揺さぶってくる。どうにも今回はかめちょんの味方のようだ。

「…わかったよ、悪かった。」

 俺は声のトーンを落とし話す。

「わかればよろしいのです!」

 これを聞いたかめちょんは機嫌を取り戻したのか黄色になり少し偉そうだ。

「なかなおりー!!」

 俺達の様子を察してかイデアが喜んで叫ぶ。話の内容を理解しているのかいないのかよくわからないが子供にはそんなことかまわないようだ。


 俺達は街の入り口のゲートをくぐり中に入る。ここはパワーオブメタルズ、常に燃え盛る火山「ターメリックマウンテン」の麓にある都市だ。

 俺はここに一度訪れたことがある。

 この街について語るならズバリ強い街だ。このゲームのコミュニティランキングで常に軍事力一位の街だ。軍事力のランキングについてどの様に判断しているのかと言うと定期的にコミュニティ同士の縄張り争いとしてチーム戦が開催され生き残りをかけたサバイバルゲームが行われているのだ。このコミュニティ、パワーオブメタルズの連中はそのサバイバルゲームで常に最後まで生き残る。

 その強さの秘訣は徹底した分業によるチームの強化だ。パワーオブメタルズは大きく二つの構成員にわかれる。戦闘をメインに行う戦士とその支援をする開発者だ。

 戦士達は戦闘能力の高い肉食獣や幻獣を主に構成され常に戦闘訓練を行っている。狩りにもよく出ていてこの街の外のNPC動物は出現と同時に狩り採られていると言っても過言ではない。勿論プレーヤーであっても襲われる可能性がある。俺達もここに来るまで三組ほどチームの連中に襲われた、まぁそいつらは俺が殆ど一人で退けたが。ともかく近付くだけでも危険なこの街を訪れる者は中々に多い。それの理由は開発者達にある。

 戦士達のバックアップをメインとする開発者達はこのゲームでは珍しい武器の製造を行う。何故珍しいかと言うとそもそも作成の難易度が高いからだ。このゲームでは武器を作るために鉱石を採掘しそれを加工する必要がある。鉱石は力のある動物でなければ採取に時間がかかり、加工も動物ごとの器用さに応じて作成に時間を要する。それをこの街ではパワーが高い象やサイなどの動物が山で鉱石を採掘し手先の器用な霊長類達が武器を加工すると言うシステムを作り上げられているのだ。彼らはこの街の戦士達に身の安全を保証してもらえる分他者からの妨害を気にせず開発に没頭出来る。軍資金獲得のために市場にて販売も行っており、ここで作られた性能の高い武器を購入するために多くのプレーヤーが危険を省みずここを訪れるのだ。

 さらに武器だけでなく懸賞金をかけた闘技大会などの催しも自主的に行っており力自慢達が集まる街でもある。

 本来自然を楽しめるこのゲームではあるがこの手付かずの自然の中で現実世界の様な開発と闘争に飢えたやつらが集まる、それがこの街パワーオブメタルズなのだ。

 しかし俺達の目的は武器でも戦いでもない。このコミュニティの長にあって「たからもの」を貰うことだ。

 長の住む家は街の奥にそびえ立つ和風の城であり俺達はそこを目指し人混みで賑わう市場を歩きながら向かう。

「どんな人なんでしょうね、この街の長さんは!」

「おさおさ!!」

 かめちょんは黄色い体のままイデアと楽しそうに話している。

「ランキング見たら載ってるだろ、見てないのか?」

「いや勿論見た目は知ってますよジロウさん!その辺はちゃんと研究済みです!」

「じゃあなんで聞いたんだよ?」

「いや、やっぱりお会いしてたからものを貰う以上人柄って気になるじゃないですか?」

 成る程、みんなが動物の姿のこのゲームで人柄って言うのも不思議な話だが言いたいことはわかる。

「…俺はあんまり好きじゃないかな。」

「ジロウさん会ったことあるんですか!?」

「あるの!?」

 かめちょんとイデアは驚いたように聞いてくる。

「昔俺のところにスカウトに来たんだよ、あいつが。」

「スカウトってパワーオブメタルズにですか?」

「まぁそうゆうことになる。」

「凄いじゃないですかジロウさん!現実じゃ冴えないサラリーマンなのにゲームだとトップチームからスカウトを受けてるなんて!」

「すごーい!」

 きっと二人には悪気はないのだろうけど内心かなり傷付く。

「でも断ったんだよ、俺は自由に遊びたかったからな。そうゆう意味ではあんまりあいつには会いたくないんだ。」

 ぶっちゃけイデアのことがなければこの先も関わることなく過ごしていたかったのだが成りゆきでこうなってしまった以上会うしかない。どうせ会うなら苦手なやつから会っておく。これが俺の営業スタイルだ。

「…そうなんですね。それなのにイデア様のために来てくれるなんて…、ありがとうございます!」

「ありがとうわんわん!」

 かめちょんは目をうるうるさせながら、イデアはいつも通り笑顔で俺に言ってくれた。なんだか騒がしやつらだがそろそろ慣れてきた。

「まぁいいってことさ。それより〈たからもの〉ってどんなものなんだ?」

 その辺は詳しく聞いてなかったから確認する必要がある。

「それはですね!見た目は宝箱のアイコンなんですけどイデア様が手に入れると本来の姿のアイテムになるそうです!宝箱のアイコンはですね…、丁度あんな感じです!」

 かめちょんは説明しながら市場の途中に立て掛けてあった看板を舌で指す。そこには宝箱の絵と共に闘技大会の参加者募集を呼びかけるポスターがあった。



「…って、ええーーー!?!?」



 かめちょんの絶叫が市場にこだましてから10分後、俺達はこの街の長が住む城に到着し長の部屋まで案内されていた。内装も和風な作りになっていて最近実装された畳が一面にひかれ、奥の方には金の屏風、それと四足歩行動物用の甲冑を立て掛ける衣装たてがあった。

「久しぶりだな、ジロウ。」

 俺達の眼下でくつろぐ大きな白い獣、真っ白な体毛に黒い縞模様、青い眼光を放つそれが俺に声をかけてくる。

「そうですね老虎さん。」

 彼は老虎、ホワイトタイガーの台湾人だ。俺は台湾語はわからないがこのゲームは自動翻訳機能があるので別に困ることはない。

「わざわざ私に会いに来るとはどうしたんだね?遂にうちに入ってくれる気になったか?」

「その件は残念ですが以前にお断りしたとおりです。」

「…それは残念だ、君が来てくれれば我がチームの常勝記録も安泰だと言うのに。」

 この人の勧誘は中々しつこかった。実際このゲームで最強の戦士達を集め、それを支援する組織作りをしているのだからその行動力と手腕は評価するべきだろう。でもそれは俺の目指す自由なゲームとは違うものだ。

「武装した私とタイマンを張って生き残れるものもそういないと言うのに、実に惜しいことだ。」

 俺はこの人の勧誘を断るためにわざわざこの街に出向いてこの人と決闘した。この街にある闘技場には体力が1以下になる前に自動で戦いを制止し勝敗のゴングをつげるレアアイテム「バトルマニア」があるからだ。俺はなんとかこの人から逃げ切り自由なゲームライフを勝ち取ったのだ。


「老虎さん!!どうゆうことなんですか!?」


 我慢できなくなったのかかめちょんは俺達の話に割って入る。

「〈たからもの〉はイデア様が来るまで厳重に保管するようにと言われていた筈ですよ!!」

「ですよー!!」

 俺達が求めてやってきた〈たからもの〉は今週末に開かれる闘技大会の優勝商品になっていた。彼女はその事を抗議しているのだ。

「なんだお嬢さん、〈たからもの〉関係者だったのかい?」

 老虎は俺の隣にいるかめちょんとフードを被ったイデアに視線を向ける。

「ということはもう一人のフードの娘が例のイデアお嬢さんってことだな?」

 彼の青い視線がイデアを見つめる、それに気付いたイデアはさっと俺の後ろに隠れ俺の毛を引っ張ってくる。

「…わんわん、こわいよ。」

「おやおや、怖がらせてしまったか。大丈夫だよイデアお嬢さん。」

 俺達の目の前の白い虎はにっこりと笑う。まるで日向ぼっこをする猫のようだ。

 それをみて少しだけ警戒を解いたのかイデアは俺の隣にくる。それでもまだ俺の毛をぎゅっと引っ張っている。

 俺はイデアを安心させるため尻尾で彼女を包んだ。先程よりも彼女の手は緩くなった筈だ。


「話してるのは私ですよ老虎さん!!」


 俺がイデアの面倒をみているのを余所に隣のカメレオンは再び体を赤く変色させて白い虎を睨み付けている。

「これは勝ち気なお嬢さんだ。」

 最強のチームを率いる彼もこのこうるさいカメレオンにはお困りのようだ。

「老虎さんはイデアのことをどこまでご存じなんですか?」

 俺は話を進めるために質問をする。これを聞いて老虎はいぶかしげな顔持ちで答えてくれる。

「…私達四大都市の長はそれぞれ社長さんと直接、ゲームではなく現実で会って話をうかがっているよ。」

「…本当ですか?」

 あの大企業デミウルゴスの社長が直接会いに来るとはよほど大事なプロジェクトなんだろう。俺はまだ会ったことはないがどんな人なのだろうか?

「…あぁ、わざわざ世界中を回り会いに来てくれて協力してくれと頭まで下げられた。よほどそのイデアお嬢さんにとって大事なことなのだろう。」

「だったらなんで〈たからもの〉を景品にしてるんですか!?」

「お前は少し落ち着け。」

「…どうやらカメレオンのお嬢さんは一つ勘違いをしているようだね。」

 静かに老虎は切り出す。

「私が社長さんからうけた依頼は〈たからもの〉を保管し、いずれ来るイデアお嬢さんに対して試練をだすことなのだよ。」

「…え、試練ってなんですか?」

 かめちょんはどうやら知らなかったらしい。

「イデアお嬢さんが四大都市を巡り〈たからもの〉を集める目的は簡単に言えばリハビリなのだよ。」

「…リハビリ?」

「…そう、それは人間の頃の記憶を取り戻すためのものだ。」

「…。」

「だからこそ、ただ〈たからもの〉を手にするのではなくイデアお嬢さんを試す試練を用意するように言われたのだよ、RPGのボスのようにね。」

 彼は笑いながら答える。

「私は私の街の特色である闘技大会、これを試練として選んだ。つまりはそうゆうことなのだよ。」

 彼の答えに対しかめちょんは紫色になりながら動揺をみせる。

「…で、でも私達がいつここにつくかわからなかった訳ですし…。」

「君達の動向は君の会社の方から連絡を受けているよ、君が毎日日報を送っているのだろう?」

 そういってにこやかに答える白い虎に対し彼の瞳を映したようにかめちょんは青く変色して大人しくなった。

「…そんなの聞いてなかったですよジロウさん。…私除け者にされてるんですかね。」

 言うまでもなく露骨に落ち込んでいる。

「…落ち込むなよかめちょん。」

「…ジロウさん。」

「まぁお前はそのくらい静かな方がいいけどな。」

「どうゆう意味ですか!?」

「かめちょんげんきになったー!!」

 また彼女の体は赤くなる。みてるこっちが疲れそうだ。

「とにかく試練と言うからには大会で優勝しろってことだよな?」

「さっしがいいじゃないかジロウ、その通りだ。再びお前の強さを私に見せてくれ!」

 嬉しそうに笑う彼をみてふと疑問がうかぶ。

「…え、俺?」

「そうだ!こんなお嬢さん達に戦わせる訳にはいかんだろう?」

「なるほど!ジロウさんの本気が見れるんですね!楽しみになってきました!」

「わんわんがんばってー!!」

 黄色いカメレオンとフードの少女、笑うホワイトタイガーに囲まれて俺は拒否権のない戦いへと誘われるのであった。


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