第二十章 雪降る季節
「兄貴!」
高島南は扉を開けてそう叫ぶ。
「なんだよ南、もう交代してくれるのか?」
仕事帰りで一服していた高島孝人もそれに動じる様子はない。
「兄貴の言う通り面白いことになってきたわ!」
南はVRデバイスを手に孝人の部屋に入る。特に家具もない簡素な部屋だ。
「それはジロウの旦那の件か?」
孝人もそれを察し嬉しげである。
「えぇ、思わず舞いあがっちゃうわ!鳥だけに!」
南は少々興奮ぎみである。
「とりあえず計画通りってことか?」
孝人はニヤリと笑う。
「えぇ、今のところジロウも他の二人も誰も気付いちゃいないわ!」
南もニヤリと笑い答える。
「いよいよあいつの計画を進めるときみたいだな!」
孝人は立ち上がり高島南に近付く。
「楽しみだね兄貴!」
近付く孝人に南はVRデバイスを手渡す。
「あぁきっとあいつも喜ぶぞ!」
VRデバイスを受け取った孝人、手渡した南、二人は似たような含み笑いを浮かべていた。
「先輩、年末の営業報告書書く時間がないですよ。」
珍しく松下が泣き言を言っている。12月に入って仕事量も増えたのだろう。
「頑張って時間を作れ松下、俺も最初は苦労した。」
残業してパソコンを打ち込みながら俺は答える。
「…でも先輩、イデアちゃんと会う時間が。」
松下は他の社員に聞こえないように俺に言う。
「…それも作るしかないんだ。」
「いつもご苦労様ですジロウさん!」
かめちょんはいつも俺を待っていてくれる。もうなれてきてしまった。
「いつも思うんだけどお前は日中何をしてるんだ?」
「家事と業務連絡と資料作成ですね!」
「…資料作成って何をしてるんだ?」
「企画部で発案された資料の発表のために必要なデータの統計をまとめたり、まぁ補助資料の作成が主です。」
「…おまえも大変なんだな。」
「ジロウさんほどではないですよ!」
かめちょんは少しはにかんで俺をみる。
「おかしな話ですけど最近こんな生活が続けばいいのにって思うんです。」
「どうしておかしいと思うんだ?」
俺が聞くと少しだけ顔を曇らせて答える。
「…私の今の仕事はイデアちゃんがああなってしまったから成り立っているんです。」
「勿論イデアちゃんには前みたいに元気な姿に戻ってほしいです。」
「けど…、イデアちゃんがああなった時みたいに、おしまいって突然に来るんだと思うんです。」
彼女がそんなことを話すのは俺達が三つの〈たからもの〉を手にしたからだ、俺はそう思う。あと一つで全ての〈たからもの〉は揃うのだ。
俺達の旅もそう遠くない日に終わるのだ。
その時にイデアは、かめちょんは…。
…俺はなにを思うんだろうか?
「わー雪だよジロウ!!」
イデアは降り積もる雪をみて喜んでいる。
現在ワイルド・シミュレータは初のクリスマスイベントが実施され通常雪の降らないエリアでも雪が降っているのだ。
今俺達の立ち寄っている街〈ポップコーンホリデー〉もクリスマスムード一色だった。
「…まだイブでもないのに気が早いわよね。」
ナチュラルは少し呆れ顔だった。
「いいじゃないですか楽しそうですし!」
かめちょんとナチュラルとの関係は少し落ち着いてきていた。俺が思うに、だがな。
12月に入ってからの大きな変化は俺達のプレイ時間が少し減っていることとタカちゃんがいないことだ。兄の孝人さんは年末年始の準備で忙しいらしく、妹の南も学校の関係であまりプレイ出来ないらしい。年を越したら合流すると言うことで連絡を受けていて現在地はいつも連絡している。
実際最後の都市は今までの都市と違って行くのに少し時間がかかるし丁度いいと言えばいいのだがいつも一緒にいたやつが突然現れなくなるとなんだか寂しいものがある。
俺達はメンバーがかけたことでみんなが物寂しさを感じていた。
「どうしたのジロウ?疲れているの?」
もう一つ変化がある。それはイデアについてだ。
三つ目のたからものを得て彼女はまた少し背が伸びた。最初の頃の幼さは薄れてきて大人に近付いてきた感じだ。
前よりも俺達を気遣ってくれるようになった。俺達のプレイ時間が減っても何も言ってこない。
「…大丈夫だよイデア。」
俺達の旅は前よりも緩やかになった。移動する距離は前より極端に落ちたし四大都市以外の村に立ち寄ることも増えた。
結果としてイデアの笑顔を前よりも眺める時間は増えた。プレイ時間は減っているはずなのに、そんな気がする。
「彼女のためにもその日々を大切にしておくれ。」
ガラパゴルドは〈たからもの〉を集めた後イデアがどうなるか教えてはくれなかった。
かめちょんもどうなるのか知らない。
もし〈たからもの〉を集めなくていいのなら俺は集めなくていいんじゃないかと思う。
こうして彼女と過ごす時間は今の俺にとって大切な時間だ。
仕事を頑張って、寄り道せずに帰って彼女とふれあう時間は大切な時間なのだ。
かめちょんの言っていたようにこんな生活が続けばいいのにって思う。
でもきっとイデアはそれを望んでいない。
「…私知りたいの、お父さんのこと。」
〈たからもの〉を開ける前に言ったあの言葉、それについて彼女は開けた後も何も言わなかった。
今までの記憶をみた限りお父さんはまだ顔を見せていない。俺達が見ていないだけでイデアは思い出したのかもしれないが俺はそうは思わない。
あの娘は少なからず最初の状態と違って〈たからもの〉を開けることに意欲的なのだ。自分が何者かもわからなかったあの頃と違って、自ら知りたいと思っているのだ。
イデアがそう思うのなら俺達は見守ってやらないといけない。
それがかめちょんの言っていたついていくってことなんだと思う。
「見てジロウ、サンタさんだ!」
イデアは街を通りかかる赤い服を着た動物を指差していう。服装こそサンタだがその正体は牛の仲間ヌーである。神様の失敗作とも言われる程不思議な動物だ。
「なんか毛深いサンタですね!」
俺の頭のカメレオンは黄色い体でそう話す。
「…サンタならトナカイもついてないとな。」
俺はナチュラルを見ていう。
「な、なによジロウ?私はトナカイじゃないわよ?」
「いいじゃないか似てるし、前みたいに乗せてくれよ。」
「…じ、ジロウが言うなら仕方ないわね。」
ナチュラルは俺の意を察してその場にしゃがむ。
「かめちょん、頼みがあるんだが?」
「なんですかジロウさん?」
「ナチュラルの鼻に乗って赤くなってくれ。」
「むー!ジロウさん!!私は装飾ですか!!」
かめちょんは赤くなる。わかってはいたが面白いやつだ。
「ならいいや、イデアの頭に乗ってくれ。」
俺は頭の上のかめちょんにいうとイデアを見ていう。
「ほら、イデアも俺に乗ってくれ、俺達も負けてられないぞ!」
前までは飛び付いてきたイデアだったが少し恥ずかしそうに近付いてくる。
「…どうしたイデア?」
「…ちょっぴり恥ずかしい。」
なんてこった、これが反抗期か?
「…でもやる!」
照れ臭そうにしてたイデアはそういってはにかんで俺の上に股がる。その様子をみたカメレオンは黄色くなりながらイデアの背を登り頭の上に乗る。そして俺はそのままナチュラルの背に乗る。
「ほら、いくぞみんな!」
「「「おーー!!」」」
俺達はそのまま雪の降る街中を駆け回った。
きっと周りからみたらさぞ滑稽な姿だったろう。
でもいいんだ。
俺達はみんな笑顔だった。




