第十八章 主演!猛獣のサーカス!
「さぁもういいわよみんな!」
リンリンはカーテンを開けて俺達に話しかける。
「無事にグリーンホスピタルの内部に着いたわ!」
俺達の乗っていた荷車は街の中心部の広場に来ていた。辺りを見渡すと門からここまでの道とこの広場以外は様々な木々が生えておりとても緑豊かだ。静かな森だからか小川のせせらぎが聞こえてくる。
「ふぅ、一時はどうなることかと思いましたよ!」
俺の上のかめちょんが安堵する。門を潜る際には緊張したが何事もなく通り抜けれた。
「助かったわパンダさん。」
「なぁに気にすることないわ!!」
笑顔で答えてくれるリンリン、親切な人がいてよかった。
「なら長のところに行きましょうか皆さん!」
かめちょんが指揮をとろうとするとイデアが俺の毛をつかむ。言いたいことはもうわかってる。
「かめちょん、先にやるべきことがあるぞ。」
「…またこの流れなのジロウ?」
「…まぁイデアちゃんがそうしたいなら仕方ないですね。」
「うん!サーカスみる!!」
イデアの言葉を聞いてリンリンは笑顔を見せる。待ってましたと言わんばかりだ。
「なんだったらみんな、一緒に参加してくれないかい?」
「さてさてようこそ集まりいただきましたグリーンホスピタルの皆さま!」
俺達の荷車を引いていた馬の声がマイク越しに聞こえる。
「我らサーカスコミュニティ、サイレントパーティーのショーを開催いたします!」
このコミュニティ、サイレントパーティーのメンバーは現実世界ではサーカスと関係のない仕事をしているらしい。なんの経験もない彼らもゲームの中の別の姿なら様々なことが出来る。それをショーとして発表し世界を旅する不思議なコミュニティだ。
テントの舞台裏からチラリと覗くとグリーンホスピタルにすむ多くの動物達が集まっていた。ナチュラルと違って無駄に角の大きくない鹿やシマウマ、オカピ、キリンなどの動物の他にもリスやネズミなどの小動物も沢山だ。コアラやナマケモノなど激しい戦闘が行われる外部では滅多に見ない動物が沢山いるのだ。
ここにいる多くのものが騒がしい現実から離れ闘争なく静かに暮らすことを望んでいる。静かに会話を楽しむのも、アイテムの作成にいそしむもの、仲間と遊び楽しむもの、様々な暮らしがあるらしい。
ここでは外界の闘争と無縁の生活を送れるが外界との交流がないわけではない。
貴重な物資を持ってくる行商人もいるし、前の街にいたようなアーティストもやってくる。街に危害を加えない信頼があればこの街には簡単に入れるのだ。サイレントパーティーも街に自由に出入り出来る名の知れたコミュニティなのである。
「舞台に立つと思うと緊張しますね!」
発言の割にかめちょんは余裕がある。
今回のショーのために小動物用のフリフリのドレスを着ている。
「わ、私は舞台にでていいのかしら…。」
ナチュラルも大型動物用のドレスを着飾っている。
「いいなーおねーちゃんたち!」
イデアはいつも通りフード姿だ。これは仕方がない。余計な装飾は変装フードの効果を阻害する可能性があるからだ。
ただ顔には猫のお面がしてある。動物だけのゲームでなんの需要があってそんなアイテムがあるのだろうか?
「旦那!見てくれよハデハデだぜ!」
タカちゃんは羽根つきの帽子と鳥用のスーツを着て勇ましくなっている。中身が女子高生だということを知ってなければ素直に格好いいと言ったろう。
「それにしても…、ジロウさん…、似合ってますよ…、ぷぷ。」
かめちょんは笑いを堪えきれず吹き出す。
「ちょっとチビトカゲ、確かに面白いけど先輩に失礼よ!」
お前も十分失礼だぞ、松下。
皆が綺麗に着飾るなかで俺は道化師の格好をしていた。狼の姿でだ。目の回りはリンリンと同じようにペイントされ、ブカブカの服を着せられている。俺はピエロ役のようだ。
確かに小さい頃、道化師という言葉の響きには憧れたが実際にやりたいとは思ったことはない。
まさかこんなことになるとは…このゲームは奥が深い。
「可愛いよジロウ!」
隣でイデアが笑いかけてくる。
色々思うところはあるがとりあえずイデアに笑い返してみせた。
サイレントパーティーのショーは中々に盛り上がっていた。パンダのリンリンの玉乗り、オットセイのジャグリングやテナガザルの空中ブランコなど様々な芸が披露された。
これはゲームなのだから簡単そうに見えるが実はそうではない。近年開発が進んだVRデバイスは脳から出る微弱な電磁波を読み取って起動しておりボタン入力という概念がない。プレイするゲームの上手さはその人の動体視力などのいわゆる運動神経に比例する。勿論最初は上手くなかった人もプレイを続けることで上手くなり神経の伝達速度が向上するってデータをテレビかなんかでみた。
とにかく彼らのような芸が出来るようになるにはそこそこの練習が必要だ。それにプレイキャラに出来る動物は数えきれないほどいるのだから全キャラの操作方法を把握するのはまず無理だろう。それ故にこのゲームではこうしたショーが好奇の目で見られるのだ。
「続きましてスペシャルゲストのご紹介です!」
とうとう俺達の番が来てしまった。
「今回我々は恐ろしい猛獣達を連れてきました!」
打ち合わせでは聞いていたが中々緊張する。
「いよいよだねジロウ!」
俺の背中でイデアが言う。
「お願いしますよジロウさん!」
かめちょんはイデアの肩を登りその頭に乗る。
「それでは登場いただきましょう!猛犬フレディです!!」
馬がそう高らかに宣言すると俺はよたよたと前にでる。かわいい子犬のように歩けとのご指名だ。
奇妙なピエロ姿でイデアを乗せててとてとと歩く俺を見て会場が笑いに包まれる。なんか複雑な気分だ。
「ではこちらの猛犬フレディには火の輪潜りに挑戦していただきます!」
司会の馬の声がすると大きな角に大きな木製の輪っかをつけたナチュラルと火のついた棒を爪で掴み飛び立つタカちゃんが現れる。
ナチュラルが定位置につきタカちゃんが会場を一周すると持っていた火を輪っかにつける。火をつけ終えるとタカちゃんはナチュラルの隣に降り立ち、俺に乗っていたイデアとかめちょんもナチュラルの隣へと駆け寄る。
「いいですよ先輩!」
ナチュラルは燃え盛る火の輪を角で掲げながら俺の方を向く。その光景になんだか闘技大会でのことを思い出す。
あの時戦った二人は今や旅をする仲間になりあの時幼かったイデアも少し大きくなった。かめちょんは相変わらずカラフルだけど前よりも明るい色が増えた気がする。
「成功しましたら拍手をお願い致します!!」
馬の掛け声と共に俺は駆け出す。
スタミナゲージをフルに使って駆け出した勢いをそのままに飛び上がる。
俺の体はしなやかな風になり火の輪を潜り抜けていく。
会場が歓声に包まれる。
先程までの小馬鹿にした笑いでなく驚きと称賛の声だ。
なんだか不思議だ、イデアと会ってからこんな声ばかり聞く気がする。
昔はこんな声聞いたことなくて職場でも静かに仕事して、ゲームでも静かに一匹狼だったのに。
なんだか不思議な気分だった。
ちょっと感傷に浸って忘れそうになってたが今の俺はピエロだ、最後まで役に徹さねば。
火の輪を潜り着地を成功させた俺はその場であわてふためくふりをする。
俺の来ていたピエロの服が燃えているのだ。
勿論これは演出でこの服は炎の熱によるダメージを無効にするレアアイテム「炎の羽衣」を加工したものなのだ。
俺は慌てて用意された水桶に飛び込むふりをする。俺の服の炎が消えると会場は笑いに包まれる。
「アクシデントはありましたが猛犬フレディの火の輪潜りは見事成功です!!皆さま拍手をお願い致します!!」
観客の拍手に送られて俺達は控え室に向かう。
ただ少しだけ気分がいいのでアドリブを入れることにした。
「…ナチュラル、ちょっといいか?」
「…どうしたのジロウ?」
「前タカちゃんを捕まえたあれをやろうぜ!」
「…わかったわ!」
ナチュラルも俺の意図を組んでくれて頭を下げてくれる。俺はそれに乗っかる。
「いきますよ先輩!」
「おう!」
「いやー君達のお陰で今回のショーはとても盛り上がったよ!!ありがとうみんな!!」
バンダのリンリンが俺達をまとめて抱き締めてくる。最初に抱きつかれた時と違って加減がしてあるのかダメージはないがやっぱり苦しい。
「楽しかったよパンダさん!!」
イデアもなんだかご機嫌だ。
リンリンからの包容を五分ほど受けて解放された俺達はテントを出ようとする。
「それじゃあ私達は長のところにいきますね!お世話になりました!」
かめちょんが笑いながら言うとリンリンは笑いながら返してくれる。
「大丈夫だよ!わざわざいかなくても!」
「…へ?」
「すぐに会えるわよ!」
俺達がテントの出口の扉を開けると門番をしていたアナウサギ達がたっていた。
「…な、またあんたたち!?」
ナチュラルが身構える。
「まぁまぁ落ち着けよ、角の悪魔。」
門番達の後ろには森の番人、パラケラトリウムのパパが現れる。
「…バレちゃってたんですか?」
かめちょんの焦りが伝わってくる。まぁあんだけ派手にショーをしたら変装してもバレるよな。
「…合格だよ!」
パパの下からのそのそと何かが近付いてくる。大きな甲羅とゆっくりした移動、やつの正体はリクガメだ。
俺達の前に現れたリクガメ、ガラパゴスゾウガメは一見小さく見える。しかしそれは後ろにたつパパが大きいのであって亀の中では最大級の大きさでイデアよりも大きいのだ。
「今回の試練は合格だ!君達!」
呆気にとられた俺達にリクガメは野太い声で語りかける。
「今回の試練、私は争い事が嫌いだから人助けにしようと思っていたのだよ。」
「君達は自分達の目的を後回しにしてそこのリンリンを手伝ってくれた。これで十分だ。」
亀の見た目に反して早口な彼はそう述べた。
「え、じゃあ最初からリンリンさんも知ってたんですか?」
「あぁ、長に頼まれてね!」
かめちょんの問いに穏やかな笑顔で答えるリンリン。
「おっと、自己紹介が遅れたね。私はゴルフ・ガラパゴルド、そうだね、君達の呼びやすいようにガラパとでも呼んでくれ!」




