1話 『変化』1-2
少し詰め込みました。よろしくお願いします。
「義人!?どうしたの!」
叫び声を聞きつけて母がドアを勢いよく開け部屋に入ってくる。
「か、母さん!お、俺女の子になっちゃったよ!どうしよう!病院に行かないと!」
「落ち着きなさい!」
「は、はい!」
「深呼吸!」
「スゥー...フーッ...。」
肩を強く叩かれ深呼吸を促され、勢いのまま実行すると不思議とパニックは消えていた。
「さああなたの名前は?フルネームで。」
「和田...義人。」
「よく出来ました。さあ何があったのか話して。」
「待って母さん...み、水を下さい...。」
落ち着いたからか、一気に体から力が抜けその場でへたり込む。
「軽い脱水症状かしら。待っててポカリ持ってくるから。」
母は下に降りてポカリスエットを持って来て俺に手渡してくれる。
「ありがと...んっ......んぐっ...ぷふー!い、生き返る...。」
「凄い飲みっぷり。本当に喉が乾いてたのね。」
手渡されたポカリをすぐさま飲み干す。本当に必要な水分を取り込んだ感じがする。
「仕切り直しね。何があったの?」
「昨日の夜体が突然熱くなって...いろんな所が痛くなって...朝になってカメラで自分の顔を見たらこうなってた...。」
「んー。でも...」
「?」
母は美少女に変わった俺の体を上から下までじっくり見ながらしきりに頷く。
「な、何?」
「いや~こう見てると、本当に可愛くなっちゃって...。」
「いい迷惑だよ!」
「ブスよりマシよ!それより、貴方の良いとこそのままに可愛くなっててよかった。私には分かるわ。それに、女の子が増えたって事は素直に嬉しいことよ。少なくとも母さんにとってはね。」
「そう...?なら、少し良かった。」
母の真摯な言葉で少し心に余裕が出来た気もするが、現実が現実か分からなくなる。
「いや...おかしいだろ...。女の子になってみたいっていう願望は少しあったけど、唐突だわー...。」
「取り敢えず学校には休みの連絡入れとくから。後で病院行きましょう。母さんも今日はお仕事休むわ。」
「父さんどんな顔するかな...ハハ...。」
「遊輔さんも喜ぶわよ。息子が娘に変わっただけよ。中身は変わってないし、ね?」
「説得力あるような無いような。」
母が学校へ俺が休むことを伝えている時、俺のスマートフォンから着信音が聞こえる。画面には『ゆう』の文字。
(不味い...!!まだ知られる訳には...!)
『母さん!俺の代わりに出てくれない?』
「言いたいことはなんとなく分かるわ。優くんにバレるの恥ずかしいんでしょ。分かってるわ。」
『もしもし、義人?お前、まさか寝てたのか?』
「優くん?義人の母です。」
『義人のお母さん?おはようございます。義人はまだ寝てるんですか?』
「義人ね、朝から脱水症状とかで気分悪いみたいなの。だから暫く学校お休みすると思うわ。学校にはもう伝えてあるから。」
『本当ですか。クラスメイトにも伝えておきます。』
「ごめんね優くん。お願いします。」
『はい。失礼します。』
「ありがとう...。」
「別に、優くんには知ってもらっておいた方がいいんじゃない?親友でしょ?」
「そうなんだけど、親友だからこそこんなダサいの知られたくないし...絶対会ったら笑われる...。」
「優くんはそんな事しないわよ。」
「そんなの...分からないだろ...。」
「取り敢えず!お風呂一人で大丈夫?まずはさっぱりしてからよ。」
「わ、分かった。」
普段着で使っているチノパンツやトランクスを持って風呂場に行く。
(うう...自分の体とはいえ、女の体かあ...。変な気分だし緊張する...。)
服を脱ぎ、いざ風呂場にはいる。熱いシャワーを浴びながら、目を瞑り恐る恐る自分の胸を触ってみる。
(おおー...ああ...なるほど...。はぁ~。うわぁ...いやぁ、ええ?マジか凄い。ええこれ...。)
「義人ォ!いつまでシャワー出してんの!さっさと病院行くわよ!」
「すいませんすぐ出ます!!」
急いで風呂場から出て着替えるが、どうしようもない違和感に襲われる。
(無え...。)
なんとも言えない感覚に戸惑っていると、母が脱衣所に入ってくると
「ブラの付け方分からないでしょ?今の内に教えてあげる。」
「母さんノリノリじゃない...?」
「いい感じの娘を見てテンションの上がらない母親は居ないでしょ!ほら!」
「ええっ。」
母は俺の胸を寄せ、手際良くブラジャーを俺に着させる。
「背中のホックを外せば取れるからね。」
「ありがとう...。慣れねえー。」
「最初から女の私でも初めは凄い違和感あったしね。そんなものよ。じゃあ行きましょう。」
「うん。」
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「娘さんは今のところ、特に異常は無いですね。脱水症状があったとの事ですが、今の気分はどうですか?」
「は、はい。大丈夫です。」
「なら特に薬を処方する必要も無いでしょう。ですが、少しでも異変を感じたらすぐに病院に来てください。」
(異常だらけだよ~!!)
病院を出て、少し歩き母と顔を見合わせる。
「なんっっっも無かったね。」
「疑われる素振りすら無かったわね...。」
タクシーで家に帰り、今後について話し合う。
「学校はどうしたい?転校はその...難しい。なんだったら通信制高校にするのも手よ。」
(友達が居なくなっちゃうなんて嫌だ...。勝手に消えたら優、怒るよな。)
「母さん。俺、学校続けるよ。」
「それは、どうして?」
「友達が居るから。どういう反応されるかなんて、考えても分かんない。友達には...正直で居たい。それに、俺は俺だから。」
母は微笑みながらゆっくりと頷く。
「分かったわ。でも、そうなると色々問題がまだあるから先生には電話しておくね。」
「よし!なるようになれだ!」
その日の夕方、自分のクラスである2-3の担任『荒馬 漣』に事情を話し、自宅に来てもらう。
「はっあーーー...お前本当に義人か...?」
「マジですよ。あ、俺、昨日科学の授業寝てて起こされました。」
「うん確かに昨日起こした。中身、変わってなさそうだ。」
「当たり前ですよ。」
「ふう......お母さん、学校指定の店で制服を注文して下さい。こちらから話はしておきます。」
「ありがとうございます。」
「クラスのみんなには結構大きい病気で一週間居ないって言っとくから、来週、昼からでいいから来い。」
「...分かりました。」
「俺は校長達に説明だよ。まあ大事にはならんだろうししたくないと思うから、まあ心配すんな!残業なんて慣れてるからな!」
「よろしくお願いします!」
「おう!また来週!」
その日、緊急の家族会議が開かれた。
「信じ難いが、中身は義人だな。なにより、結美の言う事なら正しいはずだ。」
「さすが遊輔さん!」
「お兄ちゃんがお姉ちゃんに...。めんどくさいからお兄ちゃんのままでいいよね?」
「俺もそれでいいよ。」
意外に父と妹は直ぐに納得、というか事実を認めていた。母は母で学校に行くまでに女としての最低知っておくべきことを叩き込むと意気込んでいたが。
(母強し、か。)
夜、そんな事を考えながら早めにベッドで寝転んでいるとメッセージアプリにメッセージが表示される。発信者は勿論『ゆう』だった。
『体調大丈夫か?学校いつ戻れる?』
『明日先生から言われると思うけど来れるのは来週からかな。』
『マジか笑頑張って直せよー1人でゲーセン行く気しねー』
『お前どうせ1クレで10連勝するやろ。』
『調子良ければなーまあ来週ちゃんと来いよ!』
『おう。今日疲れたから寝るわ。』
『了解』
(優は今の俺を見てどう思うかな...。他の奴だって...。)
不安に駆られたが、体は想定外に疲れていたのか意識は自然と眠りに落ちていった。
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一週間は目まぐるしく過ぎた。女子用の制服の着方等を母に教えてもらいながら色々な事を学んでいると、自分の知らない世界が広がって行く気がした。
「さあ行くわよ。」
「いざ...!」
うるさいぐらいに高鳴る心臓を抑えつつ、車で学校に向かう。学校に近付くにつれ心臓は更に激しく脈打つ。
(大丈夫...大丈夫...!)
登場人物の紹介は手短にさせたいものです。