10話『水着と浴衣が世界で一番似合うのは君だと思う』1-2
お疲れ様です銀玉です。試験も一通り終わったのでまた更新していきたいと思います。
26000PV行っていました。ありがとうございます!
まだR15タグ要らない、よね?
夏、湘南の海。
ーーーでは無いが、義人達は海に居た。
時間は2時間程遡る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おはようございます...。」
「早っ!どうしたの義人まだ6時よ?いつもならもう6時間は寝てるのに。」
「いや、緊張してというか。イベントがある日は早起き出来るんだよね...ふわぁ...。」
その日、義人は珍しく早起きした。優と海に行く日だ。
「出掛ける日だったわよね?」
「そう、海に行くんだ。」
「優君とね?」
「う゛っ。まあ隠しても意味無いか...。」
母の真奈はコーヒーを飲みながらニヤニヤと笑っている。
「そうよね〜水着可愛いの買ってたもんね〜。」
「〜〜〜っ!そうですよー!買いましたよ水着!柄にも無くね!」
「良いじゃないの可愛い水着!優君に写真お願いしちゃおうかな〜。」
「やめてー!それだけはー!」
義人は頭を抱える。真奈には全てお見通しだったらしい。多分、というか確実に根回ししている。
「で、誰に送って貰うの?電車使うの?」
「あ〜、それは緋桜のお姉さんにお願いしてる。」
「緋桜君、大学生のお姉さん居たもんね。」
海までは神田緋桜の姉、蒼蘭が送ってくれる。何やら彼氏と連絡が取れなくなって暇が出来たらしい。義人達にとっては有難い限りだった。
「そ。くれぐれも迷惑掛けないでね。あ、お金ある?ガソリン代必ず渡しなさいね。」
「大丈夫。バイト代残ってるから!」
「なら良し!ほら、シャワー入って準備!」
「うん。」
義人は風呂場に入る。それを見届けた真奈は優しく微笑み、暫し物思いに耽ってみる。
(良い顔してる。男の時より。恋をしたから、なのかな?ふふ、もう立派な女の子ね。)
「お母さん...。」
「あら?聖子。早いのね。どうしたの兄妹揃って。ん?姉妹?」
「お兄ちゃん、優君と海に行くの?」
真奈は一瞬考えた後、正直に事実を言う。
「そうらしいわね。行きたいの?」
「行く!」
「でもお兄ちゃんに聞かないと。...ちょっと待って、お姉ちゃんなのかな?」
そんな話をしていると、シャワーを浴びて着替えた義人が脱衣所から出て来る。
「ふいー。ん?どしたの二人共変な顔して。」
「うん、聖子がね...。」
真奈が言うより早く、聖子が遮るように義人の前に立つ。
「お兄ちゃん!私も海、行くから!」
「はい?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「という事でして。」
『一人増えるだけだろ?...姉ちゃん!俺合わせて5人!...ありがとう!大丈夫らしい。まあステーションワゴンだしな。余裕余裕。ガソリン代は取るけど。』
「それは勿論払うよ、大丈夫。」
『OK。莉々愛んとこ、優のとこ、で最後に義人の家だから。出る時また連絡する。』
「了解。それじゃ。」
乗員が一人増える事を緋桜に伝えたが、どうやら余裕らしい。頼みの綱はあっさりと切れた。
「...大丈夫ってさ。」
「緋桜君に悪いわね。聖子、ちゃんと連れていってくれるお姉さんに挨拶しなさいね。」
「うん!分かった!」
「まあ、良いんだけどさ...。」
義人はまたも頭を抱えた。どう考えても妹の聖子は自分に対抗している。大方、義人が水着で優にアタックすると予想したのだろう。
(逆だ!逆!攻め込まれてるのこっち!)
義人はお世辞にもアグレッシブな性格とは言えない。それは性別が変わっても変わらない事だった。確かに水着は優の為に買ったと言っても過言では無いが、関係を深めようとかそう言った事は何も考えて居なかった。
「頑張れ義人!湘南のワンナイトクイーンになるのよ!」
「何それ!?湘南には何があるの!?ていうか!そんなんじゃないって何度もさあ!」
「...負ける気無いから!」
「だぁかぁらぁ。」
全く噛み合わない会話に義人は出掛ける前に疲れていた。母はただからかいたいだけな気もするが、妹はガチの目だった。
「あのねぇ...。お『ピンポーン!!』」
「着いたみたいね。ほら出るんでしょ。」
「優くーん!」
「うん、何か予想はしていたというか。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おはようございます。義人と妹さんは?」
「もう出て来るから。...ほら!」
先に緋桜に挨拶していた真奈の後ろから、聖子と義人が出て来る。
「おはようございます!今日は宜しくお願いします!」
「はーい!元気な子はお姉ちゃん大好きだぞー!」
「蒼蘭ちゃん今日は宜しくね。ちょっと急に追加になっちゃったけど...。」
「全然!大丈夫ですよ!一人位なら増えても誤差ですし、ガソリン代は皆で出し合いますから。」
「ありがとう。聖子、迷惑掛けちゃダメよ!」
「うん!大丈夫だよ!」
「真奈さん、おはようございます。」
「あら莉々愛ちゃん!また可愛くなっちゃって!」
母と友人達とのあらあらを、何だか達観した様に義人は見ていた。そこに優が寄ってくる。
「よっ。何だかなって感じだ。」
「ぽいな。まさか聖子ちゃん来るとは。何で急に。」
義人は優を見ながら大きなため息をつく。
「なんだよ。」
「お前目当てだよ。」
「マジ?困ったな。」
2人してウンウンと唸っていると蒼蘭からお呼びがかかる。そろそろ出発したいらしい。
「それじゃ、行ってきます!」
「うん!気を付けてね!」
母に見送られ、車は発進する。夏の海へ出発だ。
車内にはかなりキマッたEDMが流れる。
「蒼蘭さん、結構キレキレのやつ聞きますね...。」
「そお?彼氏の音楽の好み移ったパターンかも。ちゃんとJPOPとかラブソング聞いてましたとも!今じゃ物足りないけど。ワハハ。」
蒼蘭はそう言うと豪快に笑ってみせる。綺麗な人なのにたまにネジが外れてる所があると、義人は会う度に思っていた。
(弟はまともなのに...。)
「義人君失礼な事考えてるなー!」
「違いますよそんな事ないですって!ほらパーキングエリア!飲み物買いたいです!」
「姉ちゃんも義人も何騒いでんだ...?」
「楽しそうで良いんじゃないか?」
車は一度パーキングエリアに駐車する。
「おい義人!ソフトクリームあるぜ!」
「ヒャッホイ!食おうぜ!」
「くぉらバカ共!トイレ休憩つってんだろ!飲み物ならまだしもいきなり腹冷やす奴がいるか!」
出店でソフトクリームを買おうとしたところで緋桜に止められてしまう。二人揃って口を尖らせ、恨みがましく見つめる。
そのやり取りをトイレから戻って来た聖子が見ていたらしい。
「ソフトクリーム良いなー!」
「ほらー良いだろー!」
「だろー?」
「お前ら...高校生二人が中学生を利用すんなよ...。全く、小さいのにしろよ?しばらくパーキングエリア無いんだから。」
半ば聖子を利用しながらも義人と優と聖子はソフトクリームを買う許可を得た。
「俺、こういう車での移動で寄るパーキングエリア好きなんだよね。」
「俺はあんまりかな〜。目的地早くつかねえかなってなっちゃう。」
義人の父は車好きなので小さい頃、今より多少時間が取れた頃は休日に家族で少し遠出したものだ。その時のゆったりとした時間は思い出で、渋滞の時間でさえ楽しかった。
(最初はあんまり乗り気じゃ無かったけど...。久しぶりだなあ、こんな感じで出かけるの。)
元々出不精だし、リア充の行くようなプールや海へは行く気がマイナスから始まっているような人間である。
そんな義人が今回承諾したのも、水着に中々の額を使ってしまったのもあるし、なによりその水着を見てもらいたい相手が居るからだ。
「皆、そろそろ出るよー。」
「はーい。」
蒼蘭からの招集が掛かり、ぞろぞろと車に戻って行く。車は再び海へ向かって発進する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、車はとうとう目的地である海水浴場に着いた。着いてしまった。
「着いたぁーっ!海!何だかんだ今年も来たなあ。」
「俺は5、6年ぶりだけどネ。」
「んじゃ、手早く着替えようぜー!」
優と緋桜は我先にと更衣室へと向かう。おのれリア充め、とボヤく。なかなか足が動かない。
「...義人君?」
「あ、莉々愛さん。」
「行かないの?...もしかして、緊張してる?」
「恥ずかしながら...。」
「大丈夫。ね?」
「?」
莉々愛は自信に満ち溢れた表情で義人の手を握る。そして真っ直ぐ見詰めてくる。
「私と選んだ水着でしょ?大丈夫。すっごい可愛いから、自信持って。」
「うん、でも...。」
「義人君の水着姿すっごい可愛いかった!だから、吉田君もぜっ...たい!喜ぶから!さ、行こ!」
「...分かった!ありがとう!」
義人は決意を固めたらしく、莉々愛に手を引かれながらも更衣室に入って行く。
「んーっ!晴れて良かった!...で、義人は?」
優は一度伸びをしてから辺りを見回してみる。
「変な顔すんなよ。もうじき出てくるだろ。取り敢えずシートの張るから手伝えよ。」
「あ、そっか。分かった。」
緋桜から荷物を受け取り、スペースを確保してからシートを張る。ビーチパラソルも張り準備は完了した。
「おい...優、主役のご登場だぞ。」
「ん?...あ...。」
優の視線の先には、水着姿の義人と莉々愛が居た。義人は上にラッシュガードを着けていたが、それでも恥ずかしそうに見つめ返してくる。
思わず見とれて目で追っていると、優の目の前まで歩いて来る。
「お前...こういう時何も言わないのな。」
「...可愛いよ。その、凄く。着てくれると思わなかったから、来るって聞いて朝からドキドキしてた。」
「...俺はそれより前から...ドキドキしてたよ...。」
互いにとても気まずい時間が流れる。その流れを先に切ったのは優だった。
「ラッシュガード脱いで見せてよ。」
「えっ!?」
「ダメか?このままでも遊べるとは思うけど、やっぱり見たいなって。」
一瞬義人は固まるが、ゆっくりと、ゆっくりとラッシュガードのチャックを下ろす。
義人の細い腰と胸のふくらみが水着に包まれ、姿を現す。
「ああ...最高だ。生きてて良かった。ホント...凄い可愛いよ。」
「...ありがと。...ひゃっ。」
優はおもむろに義人の腰に手を回す。
「おい、何やって...」
「腰細いな...本当に女の子のカラダだ。」
腰に手を回したまま、今度は力強く抱き寄せられる。義人は反射的に突き飛ばそうとするが、抗えず優の胸筋に手を添えるだけに終わってしまう。
それはつまり、優には義人の物が当たるわけで。
(うわっ...硬...。)
(や、柔らかい...!)
図らずも抱き合うような形になってしまっていたが、よく見ると優も顔が赤くなっている。反射的にやってしまったようだ。
「吉田君に義人君...もういい?」
「はぅ!」
「うおっ?!」
莉々愛の声で2人は再び動き出せたが、彼女の後ろに般若が見えたのは気のせいだろう。
「ほら、せっかく海に来たのに時間がもったいないよ。ビーチボールあるよ!遊ぼ!...吉田君は来なくていいから。」
「え、う、うん!」
「ちょっと待って!俺も混ぜてくれって!」
莉々愛に手を引かれ、義人は皆の所に走って行く。置いて行かれた優は慌ててそれを追い掛ける。
「さあ義人ちゃん、日焼け止め塗りますよ〜!それ〜!」
「私も!ほらほらここがええんか〜!」
「蒼蘭さん辞めて下さっ、くすぐったいですからっ!莉々愛さんはホントっ、それただのセクハラっ!」
「優君は見ちゃダメ!」
「えっ聖子ちゃん!?もうちょっとだけ!」
義人に寄って集って日焼け止めを塗りながら体をまさぐるのを、ダメだと思いつつもしっかりと見ていた優は、しっかりと聖子に止められていた。
それからの時間は、義人にとって初めての体験ばかりだった。周りが気になりはするが、太陽の下で友達と遊ぶ事は本当に久しぶりで楽しい物だった。
「海の家で何か食べる?焼きそばあるよ。」
「おじさん、焼きそば2つ下さい。」
「あいよっ!お嬢ちゃん達可愛いから少しサービスね!楽しんで!」
海の家では屋台のおじさんにサービスで増量して貰った。後ろで何も声をかけられなかったと嘆く蒼蘭がいたが。
「ね、君達ヒマかな?さっきのはカレ?」
「あっ、そのっ。」
「...あの...!」
優と緋桜が少し外すやいなや、ハイエナの如くナンパが寄って来る。怯んでしまう義人を庇って莉々愛が注意しようとした時だった。
「あー!嫌がる女の子をナンパするのはダメですよお兄さん方!誰か助けてー!」
「逮捕は嫌よねぇ?ならお姉さんと...ちょっと待って!そんなに逃げなくてもいいじゃない!?」
すかさず聖子が介入し大声で声を張り上げ、嫌でも注目が集まる。蒼蘭はちょっかいを出す前に逃げられていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楽しい時間ほどあっという間に過ぎて行くもので、いつの間にか夕日が沈み始めていた。
「あー...楽しかった...。こんなはしゃいだりしたの久しぶり。」
「俺も。今日はありがとな。」
「水着、着てよかった。」
微笑みながら長い髪をかきあげる仕草に、不覚にもドキッとしてしまう。目の前に汗と水の滴る水着の義人が居る事に、優は気付く。
また無意識に、優は義人の顎を指で引き寄せていた。
「ぁ...。」
「義人...。」
「お二人さん!早く着替えなさーい!あんまり遅くなるといけないから!」
「あ、そんな時間か。」
「ソウデスネ...。」
すんでのところで蒼蘭の招集が掛かる。正気に戻り、互いに気まずい空気で更衣室に向かうのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ただいま〜。」
「おかえりなさい。あら、聖子寝ちゃったの?」
「皆ではしゃいでたからね。」
真奈はにっこりと微笑むが、少し意地悪な表情に変わる。
「優君、喜んでた?」
「う、うん。凄い喜んでた。あ、お風呂入るね!」
「あ、うん。」
「『娘はやらん!』って練習しなきゃかな?」
「ス、スーツとかで『娘さんを下さい!』ってなるのかな!?」
満更でもなかった義人を見て、両親は来るべき未来について考え...もといシミュレーション(妄想)するのだった。
感想やレビュー等頂けるとめっちゃモチベ上がるので是非!!ブックマークもテンション打ち上がります!