9話『おバイト』1-2
お疲れ様です銀玉です。タイトルをちょっと変えてみました。違和感ヤバかったら変えます。(こういうタイトルにちょっとしてみたかったんです。)
アルバイトを初めて数週間が経ち、ウェイトレス(と偶にメイド)も板に付いて来た頃。
「よっちゃんお疲れ様〜。よしゃよしゃ。」
「あふあふ...お疲れ様です...あふあふ...。」
ピークが過ぎ、一段落着いた『サウスクラウド』で義人は美咲に丁寧に撫でられていた。
(撫で方上手いな...気持ちいい...。)
すっかり気分は猫である。ネコミミを付けていると猫に近付いていくのかもしれない。
「あ、そうだ。よっちゃんさあ。」
「あふ...はい?」
「メイド服、優君の家で着てあげれば〜?」
美咲のからかい混じりの提案に、義人は一瞬遅れて激しく否定する。
「なっ!?そんな事絶対しないですよ!何言ってんですか!」
「えっ!?付き合ってるのに!?」
「無いですけど!!??」
「あんなラブラブなのに...?」
「え...そう見えてんだ...。」
義人は美咲からの認識を知ってまた赤面する。美咲は面白そうに追求する。
「逆にどう見られてると思ってたの〜?」
「と、友達...?」
「それは無理があるでしょ。うん。」
「うっ...!や、やっぱり...。」
義人は複雑そうな顔でカウンターに突っ伏す。
「告白はされてるの?」
「はい。でも、なあなあにしちゃってて...。優と俺は友達だったから...。」
(俺...?)
「よっちゃんは優の事好き?」
「...好き、だと、思います...。何だかんだ普通に接してくれてるし...でも、簡単に応えるのも負けた気がして...。」
「意地張っちゃって。そこまで分かってるなら伝えてあげたら良いのに。」
「それじゃダメなんです。」
義人は面と向かって否定をする。
「ダメ...?」
「今はまだ曖昧なんです。ハッキリ決まったら...俺から言うんです...。」
「そっか...。ね、よっちゃん。いい事教えてあげようか。」
にひひと笑ってみせる美咲を義人は訝しげな表情で見つめる。
「な、なんすか。」
思わず身構えてしまう義人。美咲の口から出たのは義人の中ではあくまで可能性だった事だった。
「私ね、優くんと付き合ってたんだ。」
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次の日、優と義人は学校で何時もの用に昼食を取っていた。
「なんで美咲さんと付き合ってたって言わなかったんだよ。」
「いや、好きな人に元カノの話しなくねえか...。しかもバイト先だったから気遣ったつもりなんだ。」
「いや〜?そうだけどさぁ〜。」
「何を不貞腐れてるんだ...。」
義人はぶつくさと言いながら机に突っ伏していた。
そこに少しオドオドした様子で男子生徒が一人近づいてくる。
「あ、あの...!」
「ん〜?あ、堂島。どしたの。」
堂島孝平、以前から義人と親交のあったクラスメイトだ。
「一つ、頼み事があるんだ!和田にしか頼めない...ッ!」
「な、何をそんなに決意を固めて...。」
クラスメイトの決意に若干引きつつも、義人は堂島の話を聞く。どうやら、近くコスプレ等の同人イベントが開催されるので、そこで売り子をして欲しいとの事だった。
「コ、コスプレ...。ちなみに参考の画像とかは...?」
「これ、俺が描いた同人誌のサンプル。」
「どれどれ...な、なるほど...。」
「ほーう...!」
サンプルが表示された画面を二人で覗き込む。コスプレして欲しいキャラクターと言うのは某戦艦×美少女のキャラクターだった。
「セーラー服位なら...大丈夫だと思うけど...?」
「本当!?」
「ただし条件がある!」
「なんでお前が条件を出すんだよ。着るの俺よ。」
何故か堂島に条件を出す優に抗議する義人だが、それをスルーして続ける。
「俺も出る。コスプレはせず受付でな!」
「なるほど!」
「ちょっと待ってスルーしないで!って、言う程なるほどか!?」
「どうだ?」
「ああ!お願いするよ!」
「決まりだな!」
熱く握手する堂島と優。普通ならば交わる事の無い、二人の漢の目には確かな煌めきがあった。
「俺が主役では...?」
いっそドタキャンしてやろうかと思った義人だった。でも着てみたい気持ちが大きい。少し。
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イベント当日、土曜日開催ということでかなりの人でごった返す会場に義人達三人は居た。
「うぉぉ...すっげえ人...。」
「なんか緊張して来たなぁ。あっはっは。」
「二人共頼んだよ!」
いざと臨む三人。経験者が誰一人として居ない、かなり不安。
「らっしゃい!安いよ安いよ!」
「待って!?そのキャラそんな事言わないから!あと安いとか言わない!」
屋台の親父の様な客引きをする義人にたまらず堂島は突っ込みを入れる。
「そこのお姉さん買う新刊決まってますか?全然在庫ありますよ!」
「キャッチみたいなの止めて!?在庫ありますじゃ無いよ!悲しくなるよ!」
明らかに慣れた感じで道行く人に声を掛ける優にも待ったが掛かる。
「普通に!普通にやって!?」
「えぇー。こういうの初めてだしー。」
「普通のやり方じゃ売れないぞ。」
「そういうのは普通にやってから言おうか!?ここ繁華街じゃないから!」
ぶつくさと納得のいかない感じの義人達を必死に抑える堂島。
「と、取り敢えず普通にやってみてよ!SNSで宣伝はしてるから、変な客引きは悪目立ちするだけだよ...。」
「あんまり目立ちたくはないなあ...。」
「そうだな、普通にやるか。」
「ん、そうしよ。」
三人は再びスペースに戻る。
「はーい!こちら一つ500円です!ありがとうございましたー!」
(最初からそれで良かったジャン...?)
さっきとはまるで違う接客に堂島は驚くが、好きなキャラクターが目の前に居るかの様で非常に嬉しかったので何も言わなかった。
「新刊は...1000円ですね。え?1万円か...ちょっと!お釣り!...って足速っ!」
優の方は何故か1万円札を手渡され、渡した相手には逃げられていた。
静かにしていれば美男と美少女である。良い意味で目立つので客引きにもなっている。
そのかいあってか新刊既刊共に売り切れとなった。それまでに義人がナンパされたりしていたが、時間はあっという間に過ぎていった。
「ありがとう!実を言うと、売り切れたのなんて初めてなんだ!」
「そうなんだな。あんなに上手いのに。」
イベントの終わり際、堂島と優はスペースで片付けをしていた。
「ありがとう...最初は一人だけでやったりしたけど、1冊も売れなかった...。でも今回は勇気を持って宣伝して、声掛けて...本当にやって良かったと思う。」
「いや、こちらこそ良い体験が出来たよ。...最近義人も色々あってさ。こういう場なら違う自分になれるから、嫌な事少しでも忘れられたと思う。」
「それなら良かった。また機会があったら宜しく。」
「ああ。まっ、義人次第だけどな。」
労いあっている最中、義人がトイレから戻って来る。
「お、お待たせ...。」
「ん?戻ったか...って、義人それは...。」
戻って来た義人は黒いセーラー服から『サウスクラウド』のメイド服に着替えていた。
「また見たいって言ってたから...ちょっと借りて来た。」
「...!」
「吉田が固まってる...。」
「な、何とか言わないと着替えて来るぞ...!」
義人を凝視したまま固まっていた優はハッとした様に動き出す。
「か、可愛い...可愛い!」
「やっぱり恥ずかしい...。」
「もうちょっと...っていうか、何でまた着てくれたんだ?」
義人は一度詰まった後、バツが悪そうに白状する。
「美咲さんが...着たら優が喜ぶぞって...。」
「貸し一つって事かァ〜!でもありがとう美咲さん!あ、ネコミミ!無い?じゃあポーズだけでもさ!」
「えぇ...それはもっと恥ずいだろ...うーん...。」
そんな自分を無視して繰り広げられるイチャイチャを見て、堂島は初めて真剣にあの台詞を力強く呟く。
「リア充爆発しろ...。」
「「...すいませんでした...。」」
今週は色々あるので少し更新遅れるかもです。ただ書き溜めておく予定です。感想レビュー等お待ちしてます!
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