7話 『貴方も一方通行』
お久しぶりです。(n回目)
自分でも驚く遅筆です...。ただ、書きたいことが多かったなと思います。
出来るだけ早めに更新できるように頑張ります~。
義人は自分の部屋で妹に詰め寄られ、あたふたとしていた。
「だから!優君とお兄ちゃんは付き合ってるかって聞いてるの!」
「いや、付き合ってないって!」
「嘘!さっき家の前でいちゃいちゃしてるの、私見たよ。」
「あう。」
(な、何も言い訳が出来ないっ・・・!)
「やっぱり付き合ってるんだ...!」
「だから付き合ってないって...!ていうか!どっちでもお前には無いだろ?なんだってそう突っかかるんだ。」
「関係、あるよ!私、優君の事好きだから。」
聖子は堂々と言い放つ。自分を見つめる真っ直ぐな目を見た義人はベッドに腰掛け俯く。
「そうかよ...。はぁ...降参だ。聞きたいこと聞けよ。答えられれば答えるさ。」
「じゃあ...。お兄ちゃん、優君に告白されたの?」
「うん。」
「返事は?」
「まだ。」
「なにそれ!優君が可哀想だよ!」
「俺だって、返事位はしてやりたいけど...。でも、俺がOKしたらお前は...?」
「...私は、優君が幸せなら、いいと思うよ。」
聖子は涙を目に溜め、震える声で喋る。
「聖子は凄いな...。俺は...俺は優と一緒に居たら楽しいし、変わった俺をアイツが一番わかってくれてる気がするんだ。それに、優は俺の前なら似合わない愛想笑いしないんだ。でも、どんなに優しくされても俺はまだ男なんだよ...。まだ、俺は女になりきれてないんだろうな...。情けないだろ?」
自然と微笑みながら話す義人を見た聖子は笑いながら涙を指で拭う。
「フフ...お兄ちゃんも優君の事、好きなんだね。」
「え!?いや、俺は...。」
「分かるよ。でも、絶対に答えは出さなきゃダメだと思うよ...。後悔したくないから、私は優君に告白する。」
「...。」
「だから、お兄ちゃんも後悔しない様、伝えたい事は伝えてあげて欲しいな。ライバルだから、正々堂々勝負だよ。」
「ライバル...。うん、頑張るよ...。」
「義人ー!聖子ー!ご飯だから降りて来てー!」
1階から母の呼ぶ声が聞こえる。呼びかけに2人で返事を返す。
「今行くー!」
「すぐ行く!」
(明日...学校で優に伝えたい...。ちゃんとした返事じゃなくても、気持ちだけでも。優、俺は『ルビコン川を渡る』ぞ...!)
自分を少しだけ、許せた様な気がした。今だけは。
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「あれ、アイツ、遅刻か?」
朝、通学路を歩いていても優はいつまで経っても来ない。
(多分寝坊だと思うけど...。まったく...。)
何となく出鼻をくじかれた気がして釈然としない時、後ろから声を掛けられる。
「ねえ!」
「あ?だっ、誰...?」
感じからして同学年の男子だろうが全く面識が無い。むしろ義人の性格的には苦手な男。
未だ見知らぬ男性に抵抗がある為、無意識に身構えてしまう。
「和田さん、だよね!」
「そうだけど...。」
「俺、隣のクラスの並川!近くで見るとやっぱり可愛いね!」
「は、はは...。どうも...。」
話す時間が伸びるほど緊張と動悸が少しずつ激しくなっていく。
「付き合ってる人とか居るの?」
「あ、い、居ないけど...。」
分かっていたはずの在り来りな質問だったが、優を思い出し一瞬だが詰まってしまう。
「マジ!?居ないんだ!じゃあさ、学校終わったらどっか寄らない?」
「いや、俺あっ、私、放課後やる事あるから...。」
「ええっ!じゃあ連絡先交換で良いからさ。それなら大丈夫でしょ?ね?」
「ええ...。」
並川の言動一つ一つに精神を消耗させられていた義人は、この緊張から抜け出せるなら渡した方が楽になれるという考えになっていた。
(優っ、本当に来てないのかよ...!)
ポケットのスマートフォンに手を伸ばそうとした所で、誰かに名前を呼ばれる。
「義人くん!」
「り、莉々愛さん!」
小走りで駆け寄って来る莉々愛は義人の肩を抱き、並川から距離を取る。
「女の子が嫌がってるのに詰め寄るのは紳士的じゃないと思いますよ、並川さん?」
「さ、三条家さん...。別に、和田さんだって嫌がってた訳じゃ...。」
並川が狼狽えながら義人に視線を向けるも、義人は涙目で並川を睨むのみだった。
「なんだよ...。くそっ。」
莉々愛と義人から睨まれ、周りにいた他の生徒の注目も集めてしまった並川は捨て台詞を吐きながら小走りで去る。
「ふう...。義人くん、大丈夫だった?」
「あ、ありがとう莉々愛さん...。あの、もう大丈夫だから離してくれないかな~...?」
「んふふ~♪義人くん柔らかいしいい匂い~♪」
「く、くすぐったいよ...。」
義人の腕には柔らかい感触がしており、引き剥がそうにも無理にすると怪我の恐れもあるのでなかなか手が出せない。
「む、胸が当たってます故...。」
「女の子同士だから大丈夫だって。ほら、早く行こ?」
「あうう...。」
結局、離してもらえず莉々愛と腕を絡めながら...半ば抱き着かれるような形で登校する事になった。
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(朝から大変だったな...。)
前半の授業も終わり、昼休みになる。
(いつも優と昼ごはん食べてたから気が付かなかったけど、俺ぼっちじゃん...。やだな...。)
義人の性別が変わってから前まで絡みのあった友達とは距離が出来ていた。
持って来た惣菜パンと紙パックのりんごジュースで昼食を済ませ、やることも無いので携帯を触っていると、隣にクラスの女子が立っていた。
「わ、和田、さん...?」
「あ、何...?」
「3年の先輩が呼んでるんだけど...。」
「?...分かった。ありがと。」
席を立ち、人が待っているであろう廊下に出る。教室の扉の側には綺麗な黒い髪をポニーテールに結んだ女子が立っていた。
「貴女が和田さん?」
「そ、そうですけど。貴方は?」
「私は3年5組の櫛宮奈蛇子よ。ちょっと貴方とお話がしたくて...。その、優君の事でね...。大丈夫かしら?」
「は、はい。大丈夫ですけど...。ん?」
呼び出しに応じる義人の頭が聞いた事のある苗字からある記憶を掘り起こす。
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『義人今日帰りゲーセン行かね?』
『良いけどお前、彼女さんどうした?櫛宮先輩だっけ?』
『あー、別れた。あの人他の女子に厳し過ぎて冷めたし...なにより合わねえわ。』
『速いな?!でもまあ、お前にしちゃもった方か?』
『4ヶ月だっけな?最高記録かなあ?』
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「ん?どうかしたの?」
「いや!なんでもないです。」
(こ、この人が優の元カノの櫛宮先輩か...!で、でも案外普通そうだな...。)
付いていくと屋上へと出る扉の前まで来る。
そこで櫛宮は振り返り、義人の方を向き肩を掴む。
「それで、優君とは何処まで行ったの?」
「え?えっと、どういう意味ですそ「なにうぶな振りしてんのよ!!」ひっ!?」
櫛宮は突然豹変し義人の肩を掴んだまま踊り場の壁に押し付ける。
「い、痛いです!ほんとにやめっ...!」
「"私は純情です"とでも言いたいの!?そんなに私から優君を奪ったのが嬉しい!?このっ!こんなっ!」
「んのアホ!痛いっつってんだろ!」
錯乱したように何度も壁に押し付け、髪を乱暴に掴んでくる櫛宮に義人は裏拳を見舞う。
「...っ!」
「...優を奪ったとか意味わかんないですから!」
「じゃあ何で優君は私に別れようなんて言ったのよ!貴女が奪ったんでしょこの売女!」
「ばいたって何...うわっ!?」
櫛宮は義人を押し倒し、両二の腕を押さえつけ組み伏せる。
(ち、力強いなこの人...!?い、いや、俺が弱くなってんのか!?)
「優君が好きだったのに!やっと、やっと結ばれたと思ったのに...。うぅぅぅ...!」
櫛宮は義人を押さえ付けたまま、涙を零して泣き始める。
「何で!?何で貴女を選んだの!?絶対認めない!こうして...やれば...!!」
怒り狂った櫛宮は泣き顔のまま義人の首を絞める。
「や、やめ...!ぐぞっ...はっ!離せよ...!」
「貴女なんか!!」
「たっ、助けて...!優...!」
「っ!」
義人の言葉に反応した櫛宮は一瞬手の力を緩める。
「ごほっ!ゔぇはっ!はぁ...はぁ...。うぐぅ!?や、やめ...やめ...!」
「どうして貴女の物でも無いのに優君の名前を呼ぶのよッ!!......死ね!」
「ひぅ...!あッ...!」
櫛宮は義人の首を絞める手により強く力を込める。
(嫌だ...死にたくない死にたくない...!死にたくない...優...!)
段々と意識が薄れて行く中、頭には優と最後に会った日が浮かぶ。
「ここに居るのかな?義人く...あ、貴女!何をしてるんですか!義人君を離して!」
「くっ...ッ!」
「あっ!待ちなさっ...!...義人くん!」
櫛宮は莉々愛を押し退け階段を降りて逃げて行く。
「ゴホッ!ゴホッ!ハァハァ...!うっ...莉々愛さん...。助かった...うっ。」
「よ、義人くん、しっかり!」
助けが来た事に安堵したのか、義人は気を失ってしまう。
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「うん、もう大丈夫。しばらく休めば問題無いと思うよ。」
「ありがとうございます...伊勢崎先生。」
莉々愛は学校の養護教諭である伊勢崎眞理《いせざき まり》に頭を下げて礼を言う。
「やっぱり警察に相談した方が良いですよね。義人くん、首を絞められてたんですよ!?」
「落ち着いて莉々愛ちゃん。私もその方が良いってのは分かるよ。」
「じゃあなんで...!」
思わず椅子から勢い良く立ち上がった莉々愛を伊勢崎は宥める。
「だから落ち着いて。考えてみて、高校で殺人未遂。被害者は性転換症で美少女になった高校生。センセーショナルな、マスコミが好きそうでしょ?ニュースになったら最後、義人君の人生がめちゃくちゃになってしまう。」
「うっ...有り得ない話では無いですね...。」
「私から教頭先生と3年5組の担任の先生に相談しておきます。今はそれで手を打ちましょう。ね?」
「...分かりました。ごめんなさい、取り乱してしまって。」
ひとまず納得した莉々愛を見て伊勢崎はほっと一息付き、優しく微笑む。
「大丈夫ですよ。『莉々愛お嬢様』。」
「ふふ...。ありがとう『眞理お姉ちゃん』。」
「さ、取り敢えず気分が悪くなってふらついた義人君を介抱したって体にして教室に戻って。帰りのHR終わる頃に校内放送を掛けるから、今日は義人君と一緒に帰ってあげて。」
「分かりました。」
莉々愛は軽くお辞儀をして保健室を出る。それを見届けた伊勢崎は内線で何処かに電話を掛ける。
「教頭先生、私です伊勢崎です。少しご報告とご相談がありまして...。あ、ありがとうございます。ではお待ちしておりますので。はい、失礼致します。」
受話器を置いた伊勢崎は長い溜息を吐く。
「さて、これ以上の事をしでかさなければ良いのだけれど...。」
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放課後、校内放送で呼ばれた莉々愛は先程言われた通り保健室に向かう。
保健室のドアを開け、中に入ると義人と伊勢崎が話しており、二人の視線が莉々愛に移る。
「来たね。義人君、大丈夫?」
「...はい...一応。」
「義人君、大丈夫...?車で送ってあげれるけど...。」
「...ううん、大丈夫。帰ろ、莉々愛さん。鞄...ありがとう。」
義人は莉々愛に持って来て貰った鞄を背負う。
「それじゃ、気を付けて帰ってね。」
「はい。」
「莉々愛ちゃんもね。」
「分かりました。先生さようなら。」
「うん、さようなら。」
義人と莉々愛は伊勢崎に頭を下げて保健室を出る。
帰り道は気まずい様な空気が流れ、話も弾まず続かない。そんな時、莉々愛は流れを変えようと提案をする。
「ねえ義人君、今から私の家来ないかな?」
「え?」
「美味しいケーキを頂いててね、お父様とお母様は甘い物が好きでは無いから...。その、私だけで食べられない訳では無いのだけど...。」
「...ふふっ。」
「義人君?」
校門から歩いていた中で義人は初めて笑みを見せる。
「あ。ごめん。バカにしたとかじゃなくて...嬉しいよ。」
「私の方こそ、無理に誘ったかもしれないし...。」
「そんな事ないよ。ケーキ、食べたいな。」
「じゃあ...!」
「行こうか、莉々愛さんの家。」
「うん!私、紅茶の淹れ方も上手くなったんだ。桐井さんと同じくらい...あ、桐井さんって言うのは家政婦さんの中でも特に紅茶の淹れ方が上手な方なの!」
「紅茶、俺にも味わかるかな?」
「大丈夫よ!ミルクティーにも出来るら!」
「へえ...じゃあ、期待しちゃおうかな~。」
「任せて!紅茶の美味しさを分かって貰えるはずだから!」
紅茶の事をキラキラとした瞳で楽しそうに話す莉々愛と同じ笑顔で会話をする義人。二人に流れていた寂しい空気は嘘のように無くなっていた。
「いい香りだなあ。紅茶、本当に久しぶりに飲んだ気がするよ。」
「紅茶はね、味もそうだけど香りも楽しんで欲しいの。茶葉から香りを引き出すのが大変だったんだ~。」
「なるほど...あ、ケーキと合う。」
「あ!美味しい?良かったぁ!」
莉々愛の家で義人はケーキと紅茶を楽しんでいた。ケーキの合間に紅茶を飲み、莉々愛の楽しそうに話す姿を見て相槌打つ。ゆっくりとした時間が流れていた。
「美味しいなあ...。うん、本当に、美味しい...。」
「義人君...?大丈夫?やっぱりまだ体調悪い?」
「いや大丈夫だよ!...まだ信じられなくて。今日の事。」
「義人君...。」
そう言って、義人は微笑を浮かべながらカップをテーブルに置く。
「もしかしたら俺はただ本当に気分が悪くなって倒れただけで、悪い夢だったんじゃないかって...。」
「あぅ...。」
「分かってるんだ。現実逃避してるだけだって事は。だって、体が覚えてるんだ。首を絞められた時の痛み、苦しさをさ。意識が遠のいて行くんだ。その時、なんか小さい頃の思い出とかが出て来て...。優との思い出も一瞬で横切って...。死ぬんだなって思って...それで...。」
「義人君!」
「あっ...。」
段々と虚ろになって行く義人を強く抱き締める事で現実に引き戻す。
「ごめんね。怖かったよね。もう大丈夫だなんで思っちゃったけど、ダメだよね。」
「莉々愛さん...俺...。」
「ごめんね...ごめんね...。」
「死にたくない...。まだ死にたくない...!」
胸の中で涙を流し続ける義人の頭を撫でながら抱き締める事しか出来ない。
「うぅ...ぐっ...!俺、まだ優に好きって言ってない!言えてないんだ...!」
「えらいね義人君。もう大丈夫だからね。よく頑張ったね。」
(吉田君、貴方という人は...一度見極め無ければいけないようですね...。)
「うっ...ぐすっ...う...。」
「...寝ちゃった...?義人くーん?」
「すぅ...ふん...んっ...。」
「取り敢えずベットに運ぼうかしら...。」
泣き疲れて胸に顔を埋めたまま眠りに落ちた義人をベットに寝かせる。
すやすやと寝る義人の寝顔を眺めながら、慈しむ様に頭を優しく撫で、そっと髪を指で梳く。
「義人君...。」
(女の子になっても変わらない。本当に可愛いな...。)
起こさないよう、ゆっくりと義人の耳に近付く。
「好きだよ。」
(なんちゃって...。こんな事、面と向かってなんて絶対出来ない癖にこんな状況だからって...。)
「ん...。」
「はぅっ!!...ふぅ...。危なかったぁ...。」
一人照れ笑いをした直後だっただけに、莉々愛の心臓は途端に跳ね上がる。
「俺も...。」
「え!?...あっ!んんっ...。」
「優...ん、んん...。」
「あ......。私、バカみたいじゃない...。やだな...。」
すぅすぅと寝息を立てて熟睡する義人の顔を、莉々愛は静かに見つめる。
(私が初めてになってあげる...。)
仰向けになった義人の顔に、起こさないようそっと、そっと唇を近付けていく。
「お嬢様。失礼致します。礼棋で御座います。」
「!...なに?」
もう少しで触れ合うというセンチ数ミリという所で部屋のドアがノックされる。
ノックしたのは莉々愛専属の使用人である礼棋だった。
「お友達がいらっしゃっています。お部屋にお通ししますか?」
「いえ、ドアホンで対応します。」
「かしこまりました。」
莉々愛は口惜しそうに部屋を出る。
リビングに設置されたドアホンのディスプレイには、息を切らしているらしい様子の優が映っていた。
「吉田君...。」
『莉々愛っ!義人が今日...、襲われたって聞いて、それで...!』
「それでのこのこと家から来たんですか...!...あっ!」
『っ...!...ああ。伊勢崎先生から電話があって、それで...!』
優は沈痛な面持ちで俯く。莉々愛も無意識の内に出た自分の台詞に驚愕した。
「ごめんなさい...。」
『いや、俺も...。それは今はいい、義人は今そこに居るのか!?』
「居るよ。疲れて寝てしまっているけれど。」
『無事なのか...良かった...。本当に良かった...!』
優は涙ぐみながら安堵した表情を浮かべる。
『入れて欲しい。義人に会わせてくれ。』
「それは...出来ないわ...。」
『何でだよ!無事なんだろ!?』
「義人君ね、朝に男子に絡まれてたの。どうせ体目当て、女の子を自分の飾りとしか思ってない奴に!義人君、震えてたの。」
『...。』
「その後昼休みに首を絞められて倒れたのよ!それも、貴方の付き合っていた女に...。」
『っ...。』
「死にたくないって言ってたの。まだ好きって伝えていないって。寝言でも貴方の名前を言ってたの。」
『義人...。』
優は莉々愛の話に耳を傾け、ただ悔やむ事しか出来なかった。
「なんで私の名前じゃないのって思っちゃったの...。最低ね、私。」
『莉々愛...?』
「吉田君、私ね、義人君の事が好きなの。」
『ああ...。そう、だったんだな...。』
「だからね、私は今日の貴方を絶対に許せない。義人君の事が好きなのに、何で大事な時に一緒に居てあげないの?貴方が守らなきゃいけないんでしょ?」
『お、俺は...。』
優は拳を握り、悔しそうに俯く。
「...ごめんなさい。今日の吉田君に義人君と会って話す資格は無いわ。帰って。」
『そんな...!待ってくれ!』
「明日からも普通に接すると思うけど...お願い。帰って下さい。」
『...分かった...。でも...』
「何?」
『俺も、義人の事が好きだから。そこだけは、絶対に譲れない。』
「そう...。」
『義人の事介抱してくれてありがとう。じゃあまた明日。』
優はインターホンに向かってお辞儀をし、その場から立ち去って行く。
「ダメね...私。嫌な女。」
部屋に戻ると、起きた義人がベッドに座っていた。
「あ、莉々愛さん。ごめん、俺寝ちゃってたみたいで...。」
「ふふ、おはよう義人君。」
「ちょっと恥ずかしいな...あ、誰か来てたの?もしかして優?」
さっきまでのやり取り等知るはずも無い義人は莉々愛に問う。
(お父様、お母様、ごめんなさい。莉々愛は初めて嘘を付くかもしれません。でもこれは、きっと悪い嘘では無いと思います。)
「ううん、来てなかったよ。」
「そっか...。あ!今何時!?」
義人は一瞬俯いた後、窓の外を見てスマートフォンで時間を確認する。
「あ、もう夜になっちゃうね。家まで送ってあげる。」
「今日は色々ごめんね...迷惑掛けちゃったな。」
「大丈夫だよ。辛い時はお互い様だから。」
「莉々愛さん...本当にありがとう。俺、もう大丈夫。もし莉々愛さんが辛い時は俺がしてあげられる事は何でもするよ!」
「ふふ、頼りにしてるね。」
「任せてよ、友達は絶対に助けたいから!」
綺麗で真っ直ぐな笑顔で意気込む義人の言葉に一瞬固まってしまう。
「うん...。」
自分の中に黒い何かがある事に気付く。
「...?莉々愛さん?」
「大丈夫、行こっか。」
莉々愛は義人の手を引いてガレージに向かう。
(私じゃ友達の向こう側に踏み込めないのかな。私はずっと、ずっと好きだったのに...。)
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車は10分程走ると、義人の家の前で止まる。
「じゃあね義人君。また明日。」
「うん。ありがとう。運転手さんもありがとうございます。それじゃ!」
義人は車を降り、自宅に帰る。
車の中で莉々愛は力を抜いて背もたれに身を預ける。
「礼棋、私ね...。」
「義人様の事でしょうか?」
「礼棋にはお見通しなのね。ねえ礼棋、私嘘をついてしまったの。悪い事なのかな?」
「この老人には満足のいく回答は出せませんが、莉々愛お嬢様を幼い頃から見て来た私としては、お嬢様の納得出来る答えに辿り着けるのなら...それは正しい判断をされたのだと、言えますでしょう。」
礼棋は正面から視点を動かさず静かに答える。
「私が言いたいのはそんな事じゃ...。」
「ただ、時には衝動的な、そう...後先を考えない行動も必要ですよ。」
「...やっぱり、分かってたじゃない...。性格が悪いわ。」
「お嬢様、私の性格についてはチェスの時にとっくにご存知のはずでしょう?」
「もう...帰ったらココアを作って下さいね!」
「お嬢様のお願いとあらばなんなりと。」
車は発進し、夜道に消えて行く。
今回は書きたいことを少し入れてみました。
この後は仲直り編といった感じで行きたいなと...