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深紅の竜血  作者: 江渡由太郎
第一章 始まりの地
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5

 北部の西岸に位置する奇岩地帯に広大な地下都市がある。


 不毛な荒地の地下に、大地の妖精族の地下都市が築かれており、それらの地下都市間は横穴で連結しているという。

 収容人数は推定十万人以上とも言われているドワーフ族の地下大宮殿。


 巨大な地下都市は精巧に作られたこの地下ネットワークがあり、いくつもの入り口、通気孔、井戸、縦横無尽につながる通路がある。


 何千年も前にこの大陸の岩からできたドワーフ族の地下大宮殿は、何世紀もの間、埋もれたままこの地下深くに広がっている。


 大地の妖精であるドワーフ族は、エルフ族と同じく妖精界を出身とする種族である。

 ふさふさの長い髭を蓄え、背が低く頑丈な体型をしており、酒が大好きであり、その体型と大酒飲みから”酒樽”と揶揄されることもある。


 誠実で頑固一徹な性格であり、金属細工や石工の技に長けている。

 成人は四十歳ほどで、寿命は二百歳と言われている。


 物質界に囚われ妖精界へ戻る術を失ったドワーフ族は、物質界の原理原則に縛られることとなったために寿命ある生き物となった。


 ドワーフ族が築き上げたこの地下都市の中では、最も深い百メートルまで広がっていて、十八階構造になっている。


 ドワーフ族の地下都市でしか採ることができない貴重な金属がある。

 鉄より軽くそして固い、金属の鋼より丈夫であり、銀色に輝き黒ずみ曇ることのないという伝説の金属ミスリムである。


 貪欲なドワーフ族はミスリムを求めて、地下十八階という深さまで掘り進んでいったと言われている。


 延々と続く真っ暗なトンネルは、明かりがないとなにも見えない。暗視能力が備わっているドワーフ族からしたら当たり前の環境でもあった。

 地下都市の通路は戦略的にあえて狭くなっていて、侵入者は縦一列になって進まなければならないほどだった。


 トンネル通路はたくさんの大広間である洞窟へとつながっているが、そこは数万人を収容できるほど広い。

 内部には、さまざまな長さの通気孔も無数に作られているので、地上での暮らしと変わらないような環境が整っている。


 個人の家、採掘場、石工作業場、金属加工場、装飾品製作場、地下でも育つ作物農場や貯蔵庫、教会、食料品店、家畜小屋、エール酒保存庫、学校まであった。


 地上の西海岸の出入り口は、巨大な丸い岩の扉で閉ざされている。

 このような岩の扉がそれぞれの階層に設置されていて、地上の脅威から地下都市を守っている。


 最下層を流れる川が井戸を満たし、原始的な灌漑システムが飲み水を運んでいる。


 ドワーフの地下宮殿と呼ばれる地下都市には、地下に果てしなく張り巡らされたトンネルがあるだけでなく、外敵からの侵略を受けた時に、便宜上地上で生活しているドワーフ族の住民が地下に逃げ込んできたとき、いつも通り仕事が続けられるよう、食堂、雑貨店、礼拝のための神聖な場所もあった。


 武器を保管する武器庫もあれば、最後の手段で脱出するための秘密の逃げ道もこの大陸全土に張り巡らせてあった。


 最下層を流れる川が、地下と地上の両方の住民ための主要な井戸として使われていた。

 川や地上の井戸を利用していた場合、侵略者に毒を流し込まれる恐れがあるが、ドワーフ族の地下都市の最下層に流れる川を利用しているためその危険はない。


 水の供給は下の階から始まり、順次上に向かうようになっていたため、下のフロアは上への供給を止めることができた。


 地下三階にある五キロに渡るトンネルは、大魔導師が住んでいる砦とつながっていたが、トンネルの一部が崩落しているため、もはや機能していない。


 地下三階にある大広間の中央に、明かりとりのために設けられた大鍋がある。

 その大鍋の中で揺らめく炎が生き物の心臓の鼓動のごとく脈打つたびに、ユアンの瞳の中に映るものは語りかけているかのようであった。


 赤い祭服を身に纏った二十代後半の美しい女性が、ユアンの元へ音もなく近づいてくる。

 そして、まるで恋人を誘惑するかのような仕草で、ユアンの肩に手を置いた。


 真っ白な雪のように白い肌と繊細な指は、王の体を弄ぶかのように肩から二の腕へそして胸元へと滑るように移動した。

 そして、ユアンの体に己の体を密着させるように寄り添い、大鍋の中で揺らめく炎を見詰めた。


「炎の神の声は聴こえましたか?」

「いや、まだだ……」

「信じるのです。そして感じてください。炎の神は語りかけています」

 紅い女の言葉どおり、ユアンは再び揺らめく炎へ視線を戻した。


 炎は揺らめくたびに、形を変えてゆく。

 生き物のようにそれは大きく燃え上がったかと思うと再び小さくなる。


 大鍋の油を沸騰させて燃え続ける炎はやがて、渦を巻くように天井近くまで燃え上がる。

 その炎の大渦が徐々に人間のような姿をとりはじめた。


 ユアンは大きな炎の固まりが巨大な魔物にしか見えなかった。

 腰に吊るしてある長剣を鞘から抜く。


 この長剣の刃は圧倒的な固さとさびない性質を備えていた。

 そして、その長剣は不思議な波模様が特徴のダマスカス鋼で造られた刃であり、その刃は炎の光を受けて美しく輝いた。

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