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浮き島の離宮の外は、夜空に満天の星空が果てしなく続いていた。
手を伸ばせばその星を掴むことができるのではないかと思うほどである。
大魔導師トレバーの足元には雲海が晴れて、今は地上の景色が広がっていた。
漆黒の闇の底のような闇の中にも村や町、そして都市の灯りが輝いており、それは天空に煌めく星々と同じように老魔術師の眼には映った。
その光景はまるで空中に浮かぶ神の住まいに居るかのごとく、宇宙空間にこの離宮が時空を超えて存在しているかのようである。
「夜風に当たりすぎますとお体に障りますぞ」
背後から声をかけたのは、狼の紋章の王国に仕えている老騎士であった。
「バイロン卿、それはお互い様じゃな」
トレバーは老騎士にしわがれた声で言った。
「で、これからどうなさるつもりなのですか?」
「さあな……」
バイロンの問いに曖昧に答えた。
地上はまるで地獄のような状況である。
大地は裂け、マグマが溢れ出し、森も動物もそして人間も呑み込んでいるのだ。
「あの紅く燃えるように輝く地上の光の数は何だか分かるか?」
「大小無数にいたるところにある、あの紅い光のことですか? あれは町や村の灯りではないのですか?」
「あれは……地上の火事で紅く輝いている。あの一つひとつの輝きは”命の数”だな」
「!?……」
北の賢者と呼ばれた大魔導師トレバーは、奇妙に湾曲した樫の木の杖の先を地上の光へ向けてそう言った。
あの大小無数の光は地上でマグマに焼かれた森や村や町そして都市であり、そこには様々な命ある生命体が存在していた。
地上はまさに地獄なのである。
永久凍土である大地の北部は、以前の美しい純白の景色はもう何処にも存在しないのである。
大地は紅蓮の炎で焼き尽くされ、炎の神の住まう国に相応しい風貌となっていた。
「これからいったいどうなるのですか?」
「それこそ、神にしか分からんよ」
北の賢者や大魔導師などと呼ばれていても、所詮は人間であることに変わりはないとトレバーは己の無知さと無力さを痛感していた。
これからどうなるかは、あの若者に委ねれているのかもしれないと漠然とした考えが脳裏を過ぎった。
学者であるトレバーにとって憶測や漠然とした考えなどは、何の根拠も意味も持たないものであったが、今はそれにすがるしかなさそうであった。
あの若者ウィリアムがこの地上の危機を救ってくれるかもしれない。
終焉の日が近づいているが、あの若者なら最後まで諦めないであろう。
大魔導師は樫の杖を天高く掲げ、魔法の力を行使するための長い詠唱を始めた。
複雑に空中に魔方陣を印すと何もなかった空中に巨大な魔法陣が出現し、それは紫色の魔法の輝きを夜空の中に浮かばせていたのだった。




