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深紅の竜血  作者: 江渡由太郎
第五章 嘆きの壁
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8

 大地が悲鳴をあげていた。


 北部は大地の裂け間から吹き上がる白煙と熱気、そして時折赤銅色のマグマが地表へと荒れ狂うように姿を現した。


 それはまるで、裂けた傷口から血飛沫をあげている光景そのものである。


 それを眺めているのは炎の神と呼ばれる至高の存在であった。


 神としての奇跡の力で、この世界を終末へと誘っていた。


 炎の神はこの汚れきった地上を憎んでいた。


 愚かな人間は神の恩恵を受けていることさえも忘れ、己の欲望のままにこの地上を神の如く振る舞いで治めている。


 人間は互いに憎しみ合い争い合っては、互いに殺し合っている歴史を遥か昔から永遠を繰り広げ、それはいまもなおとどまることを知らないのだ。


 野蛮で粗野な人間は、神々が創造したこの地上の害虫でしかない。


 神々がこの地上を神々が住まう永遠の楽園として治めようとしたが、神々の間でも対立が起こりそれはやがて神々の最終聖戦とまで拡大した。


 神々はその大いなる奇跡の力で、互いに最終兵器として古竜を召喚した。


 古竜の業火で神々の肉体は塵となり、不滅の魂は天界へと旅立った。


 聖戦で生き残ったほんの一握りの神々は、自分達の姿に似せて人間を創造した。


 この地上を神々の代わりに治めさせるために、神々は宙飛ぶ舟でこの地上から去った。


 だが、炎の神は地下深くで眠りにつき、この地上に留まったのだった。


 生き残った他の神々は、宙から人間たちの成長を見守っていた。


 時には地上へ降りては人間たちに叡智を与えたりもした。


 やがて、彼ら神々は完全にこの地上から姿を消した。


 人間のあまりにも横暴な振る舞いを想像主である神々は、何処か遠くで憂いているのだ。


 肉体を失った神々の不滅の魂は、高次元である天界にて存在することとなり、物質界へ介入する術を失った。


 炎の神はこの地上で唯一肉体を持った神として、己の本来の使命を果たそうとしていた。


「全てを無に……それこそが我が望みであり、我が使命である」


 炎の神は”粛清の時”を実行している喜びに心が踊っていた。


 世界各地で今まさに起こっている大災害は、炎の神である自分の御業なのだと思うと愉快でならないのである。


 このような愉快な阻む者は、この地上にはもはや誰ひとりいないのである。


 先程、神の本来の力を行使したため、この地上は七日間の内に炎の海で焼き尽くされる。


 惑星ニビルの衝突により全ては塵となる。


 そして、他には何も残らないのである。


「粛清の聖火により、一度全てを無にし、そしてそこから新しい歴史の幕開けとなる」

炎の神は己の言葉に酔いしれるように言った。


「そうはさせない。神である我々が人間を粛清しても良いというのはおまえのおごりではないか?」

 炎の神は己の精神へ直接語りかける別の強い意志を感じた。


「おまえにいったい何ができるというのだ? 肉体を持たずにこの物質界への介入する術を失ったおまえたち天空人に」


「我々は遥かな昔にこの地上から姿を消した。だが、人間たちを導くのを忘れたわけではない。遠くから彼らの悲劇的な争いを憂いているし、なにより人間は決して愚かな生き物ではないと信じている」


「それが無駄なのだということがまだ分からないのか? 人間は愚かな生き物なのだよ。冥府を司る神であるおまえなら、既に気づいていると思ったのだがな」


 炎の神は自分に語りかけてくる強い意志に対してそう告げた。


「我々の時代は終わったのだ。これ以上我々がこの地上に君臨すべきではない。ましてや炎の神よ、お前は神の御業の全てを使ってまで、あの赤色惑星ニビルをこの惑星へ衝突させるとは……全てを……全てを消し去るつもりか!?」


「全てを消し去り、また一から想像するのだよ。この地上をこの宇宙を完全なる秩序で満たされた完全なる神の楽園を想像してみせる」


「炎の神よ……我が古き友人よ……何故、何故そこまでして……」


「わたしは誓ったのだ。あの神々の聖戦で至高の存在である我々神が互いに殺し合う姿が、今も昨日のことのように思い出される。このような悲劇的な歴史は、もう二度と起こしてはならない。わたしは自らの姿を炎の獣の姿へと変えて、我々を焼き尽くす獣である古竜どもとも戦った。この地上にあの古竜が再び姿を現したからこそ、惑星同士の衝突さえも実行したのだ」


「古竜は目覚めはしても、やがて再び眠りにつく」


「古竜は再び眠りにつくだと!?」


 冥府を司る神の言葉の真意がどこにあるのか、炎の神はそれを確かめるために問うのだった。

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