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地下墓地のように重厚な雰囲気を与える魔法学院の地下に、ウィリアムたちは滞在していた。
ディヴィナが突然苦しみだした。
身体中から高熱を発していた。
魔法学院の浄水槽から地下水の冷たい水を汲んできた。
エルフの娘のユーリアが、ディヴィナの体を冷やす目的と汗を拭う目的のため洗拭を行った。
十四歳の少女の体は高熱で火照っていた。
エルフ族のユーリアが、初めて間近で目にする人間の少女の体で目を奪われたのは、ディヴィナの背中にぼんやりと朧気に浮かび上がったり消えたりする竜の刺青であった。
竜の刺青が浮かび上がると、少女の体から混沌たる魔力の根源たるマナが溢れ出していた。
この強大な魔力は今まで感じたことがなかった。
あの吸血鬼である大司祭サイラスや、真祖の吸血鬼である女官のグレイシーよりも、巨大な魔力だと感じた。
神々のような神聖さや慈悲や厳格さといったものとは無縁の、猛々しい本能が感じられる。
「いったいあなたは何者なの!?」
ユーリアは本能的な危険を感じていたのだ。
「これではまるで”獣”じゃない……」
ユーリアは恐怖心から全身が震えだしていることに気づいた。
扉を叩く音がした。
「ユーリア、大丈夫なのか?」
ウィリアムの声が聞こえた。
「わたしは大丈夫よ。ただ、ディヴィナの体に異変が起きているようなの」
「イーサンと黒衣の魔女がこの部屋から、巨大な魔力が現れたり消えたりしていると言っているんだ」
「それは、わたしも感じていたわ」
ユーリアはディヴィナの衣服を整えると、ウィリアムたちを部屋中へと招き入れた。
ウィリアムは、ユーリアからディヴィナの背中に現れたり消えたりする竜の刺青のことを伝え、それが
混沌な魔力と何かしら関係があるのではないかと考察したことを伝えられた。
「その竜の刺青については、イーサンから話をお願いします」
ウィリアムに説明を求められた元宮廷魔術師イーサンは、国家秘密である”血の継承”について話始めた。
「ディヴィナの魂の中に古竜”抱擁するもの”が封印されていて、その封印が弱まると古竜が解き放たれるっていうことなんだ」
イーサンの説明の後に、ウィリアムは話が信じられないというような表情のユーリアやイムリに、端的に言った。
「古竜の封印が解けてこの物質界に解き放たれたら、ディヴィナはどうなるの?」
ユーリアは心配そうに少女を見詰めている。
「ディヴィナの魂は砕け散り虚無になる」
ウィリアムは切なそうな表情のエルフ族の娘を見てそう言った。
永遠の命を持つエルフ族にとって死とは無縁である目の前のユーリアは、いったいどのような感情を抱いているのだろうかとウィリアムは思った。
人間はこの世に生を受けたその時から、死が付きまとっている。
だから、その一生を精一杯生きている。
限りある時間の中で懸命にもがいたり、あがいたり見苦しいことをすることもある。
その一生が有意義であったと幸福に満たされながら、最期の日を迎えたいて考えている。
ウィリアムはそうありたいと、この旅の中で感じるようになっていた。
父ユアンは自分の名を歴史に刻みたいと考えているのかもしれないとも思った。
歴史の中で”狂王”として悪名を遺すことになるか”英雄王”として名声を遺すかは、歴史を解釈する者たちに決めるられる。
自国では英雄でも他国では侵略者というふうにだ。
トレバーはウィリアムに”王ユアンは野心家”だと言っていた。
ウィリアムはその言葉が現実のものになるとは思っていなかったのだが、騎士ピーターからもたらされた話によると父ユアンは獅子の紋章の王国を一日で滅ぼしたというのだ。
この話を聞かされた時は、動揺のあまりピーターを酷く叱責してしまった。
だが、ピーターはウィリアムの心の脆さを理解し、それを受け入れそして支えてくれた。
いままで、両親からも兄弟からも距離を持たれて孤独感をいつも胸の奥にしまいこんでいた自分には心を開ける人間はいなかったのだ。
宮中では不義の子という噂があり、それはウィリアムの元にも届いていた。
その真偽を確かめる勇気がなく、父にも母にも聞いたことがなかった。
母は兄と妹は可愛がりウィリアムには冷たかったことから、その噂が真実なのだと受け入れていたのだ。
目の前にいるディヴィナも自分と同じなのではないかと感じた。
この少女は信頼していた家臣たちに裏切られ両親を目の前で殺され、帰る国すら奪われてしまったのだ。
ディヴィナは独りぼっちなのだということが、ウィリアムの胸を締め付けていた。
せめてこの少女の安らぎの場所に自分がなろうと、ウィリアムは心に決めたのだ。
ディヴィナが再び激しい呻き声を上げた。
「何とかできないのですか!」
ウィリアムはいたたまれない気持ちになった。
無力な自分が呪わしく思った。
「慈母神の祭器さえあれば……」
イーサンは絞り出すように言葉にした。
「慈母神の祭器といったい何処にあるのですか? それはどのような物なのですか?」
ウィリアムは元宮廷魔術師の老人に詰め寄って訊ねた。




