表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深紅の竜血  作者: 江渡由太郎
第三章 永遠の生命
33/67

10

 翌日になり、夜の帳が下りると漆黒の闇が足早に訪れた。

 黒猫の鳴き声が、静まりきった夜の街に響いていた。


 灯りもなく人の気配もない、暗い街道を歩いている風変わりな連中が歩いてた。


 夜目が利くドワーフ族イムリが先頭に騎士のピーター、ウィリアム、ディヴィナ、黒衣の魔女、最後尾に夜目が利く古エルフ族ユーリアという順に並んで歩いていた。


 街の中心部まで行くと、領主の館程の大きさの塔があり、それは黒曜石で造られた魔法学院であった。

 魔法学院の敷地は門で固く閉ざされており、門の前には二体の骸骨が立っていた。


 骸骨は剣の盾を構えて直立不動の姿勢で、建物の護衛をしていた。


「おい、骸骨兵が門の前にいるぞ」

 ウィリアムはイムリに言った。


「骸骨兵ではないわ。あれは、竜牙兵よ」

「竜牙兵!? 骸骨兵じゃないんですか?」

 それに答えたのは黒衣の魔女であった。

 ウィリアムは目の前の骸骨が骸骨兵なのか竜牙兵なのかどちらなのかまったく理解できなかった。


「竜牙兵で間違いないわ。与えられた命令どおりにしか動くことができなの。”建物へ侵入する者を排除せよ”とでも命令されているのでしょう」

 黒衣の魔女はそう言った。


 竜牙兵は、付与魔術の系統で竜の牙に宿る混沌な力を利用し、魔法により人の形を成させたものであるというのだ。

 竜牙兵一体で、熟練の戦士三人より勝る戦闘能力があるのだ。

 竜の紋章の王国では竜騎士がいるため竜の牙も入手し易く、魔法学院があるほど魔法に秀でた国家であるため、ゴーレムやパペットよりも竜牙兵を護衛として警備に使うことも珍しくない。


 骸骨兵は、死霊魔術の系統でかつて生命体であった者が、すでに生命が失われているにもかかわらず自らの意思で活動している者のことなのだという。

 死者でも生者でもない者たちのこと指し、吸血鬼、骸骨兵、幽霊、ゾンビなどがそれにあたる。


「外には竜牙兵がいるけど、塔の窓をご覧なさい。幽霊がこちらに気づいているわ。この魔法学院にいるのは今や生命なき亡者なのよ」

 黒衣の魔女はウィリアムに言った。


「誰か塔から出てきたようだ」

 背丈ほども生い茂った雑草を掻き分けて近づいてくる者の姿を見つけたようで、暗視能力が高いドワーフのイムリは言った。


「どこにいるの? わたしには見えないわ」

 エルフ族のユーリアも暗視能力があるが、ドワーフ族ほどは夜目が利かない。


「イムリ、相手は人間なのか?」

「人間の姿はしているが、分からん」

 竜を追いかけ始めてこの旅に加わったが、最近では人間の姿をした吸血鬼や狼男といった存在を目にしているため、こちらに近づいてくる者が何者なのか判断できなかった。


 背丈ほどの高さにまで生い茂る雑草の中から姿を現した黒い人影が、内側から何やら言葉を発していた。


「上位古代語だわ。古代語魔法の詠唱よ」

 黒衣の魔女がそう説明するのと同時に、金属が軋む耳障りで不快な音が夜の静けさの中で響いた。


 解錠の魔法を使ったようで、鉄製の重い門が敷地の内側に向かって左右に開いていった。


 黒い人影は、上位古代語を再び唱えると竜牙兵は頭をうな垂れて脱力しているような体勢になった。


「こっちに来るぞ」

 イムリが警告を与えるようにウィリアムに言った。


 若い騎士のピーターは己の主を護るべく、ウィリアムを庇うように前に立った。

 エルフのユーリアは光を司る精霊を召喚し、黒衣の魔女は樫の杖の先に魔法の灯りを燈した。


 二つの明かりに照らされて、黒い人影がその真の姿を露わにしたのだった。

 

「こんな所へ来るのは、異常者か狂人くらいなものと思っていたが……」

 一人の老人が現れ、ウィリアムたちを見渡しながらそう言った。


「あなた様は……」

 老人は挙動不審に一瞬陥った。


 ウィリアムたちは、目の前の老人が何者なのかということに気を取られていたのだが、老人のディヴィナを見る目があまりにも必死であったために、より警戒心を高めた。


「これ以上、近づくな!」

 あまりの異様さにウィリアムが我慢しきれずに咆えた。


「あなた様は、王女のディヴィナ殿下ではありませんか?」

 老人の声は震えていた。


 ディヴィナは困惑していた。

 少女は記憶を失ってしまい、己の名前以外何も思い出せないでいたのだから。


 目の前の老人はディヴィナの事を知っていて、少女が王女であると言っている。


「わたしは……ディヴィナですが……王女だなんて、そんなはずはありません……」

 ディヴィナもまた声が震えていた。


「あなたは、一体何者なのですか? ディヴィナを何故知っているのですか?」

 ウィリアムはやっと少女の記憶の手がかりを掴めたということに気持ちが高ぶった。


「わたしは先の王の治世で宮廷魔術師の任に就いていた魔術師のイーサンと申します。そちらにいらっしゃる方こそ、この竜の紋章の王国の正統な王その方なのです」

「ディヴィナが竜の紋章の女王だなんて……」

 元宮廷魔術師であるイーサンの言葉を直ぐに理解することができず、ウィリアムも旅の仲間たちも困惑した表情をしていた。


「ここでこのままお話を続けるには危険ですので、どうぞ魔法学院の中へお入りください。詳しいお話は安全な建物の中でいたします」

 イーサンはウィリアムたちを魔法の結界で護られている魔法学院の中へと入るように促した。


 上位古代語を唱えたイーサンの命令で竜牙兵は門の護衛の任に就いた。

 鉄の門も魔法によって施錠された。


 街の中は再び静けさを取り戻していた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ