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綺麗に整備された石畳の道には人の姿は見当たらなかった。
石造りの建物の木製の扉は固く閉ざされ活気という言葉とは縁遠い印象を与えていた。
「まるで廃墟のようだ……」
ウィリアムは率直な感想を口にした。
「長旅だったし宿を探して腹ごしらえしたいもんだな」
ドワーフのイムリは空腹で死んでしまうと言い、宿を探すのを急かした。
ウィリアムたちは陽が傾いている街中を歩き回ったが、営業している宿はおろか酒場すら見つけることができなかった。
「どうしたものかしら」
エルフのユーリアも窶れきった表情をしていた。
ウィリアムたちはさらに街の中を歩き続けると一軒の住宅の扉が少し開き、幼い子供が手招きしていた。
ウィリアムたちはその建物の前に行くと扉が全開になり若い夫婦が早く中へ入るようにと促した。
招き入れてもらうと再び扉は固く閉ざされた。
「ありがとうございます。」
ウィリアムは若い夫婦に感謝の言葉を述べた。
「この街の状況はいったいどういうことなんですか?」
「話せば長くなるのですが……」
夫はそう言うとウィリアムを部屋の中で寛ぐように勧めた。
ウィリアムたちは各々に椅子や床に腰を降ろし、身に帯びている武器や防具を外した。
妻と幼い息子はウィリアムたちに水の入った木製のコップを手渡している。
水を喉の奥へと一気に流し込んだ。
地下水は冷たく胃に染み渡っていくのが分かった。
木製のテーブルにコップを置くとウィリアムはこの家の主に視線を戻した。
夫は何から話すべきか思案していた。
「この竜の紋章の王国は先の内乱で王様と王妃様が亡くなりました。そして、お姫様が女王様として即位されたんです」
家の主人は平民であるため詳しいことも解らないし、今の女王様も先代の王様も王妃様も見たことがないと付け加えた。
先代の王様が亡くなってからこの王国は変わってしまったという。
慈母神の信仰が盛んだったこの国に異国の炎の神の教団を招き入れ国教とした。
いままで信仰されていた光の七神を異端として王都から追放したのだった。
国教として受け入れられないとして地方都市ではいままで通り光の七神が信仰されていたが、それらの教団を壊滅させるような事件が多発していた。
炎の神という宗教の強要が始まった丁度同じ頃にこの街にも事件が起きたのだった。
夜中になると首のない黒馬に乗った首なし騎士が現れるため、陽が沈む頃には家の扉を固く閉ざして外出する者はいないのだという。
「首なし騎士ですか!?」
ウィリアムは自国を出てからというものいままで知り得ないような体験の連続で、いかに己が無知で無力かを思い知らされる日々であった。
首なし騎士が現れた時に騎士の姿を見た者は、首をはねられ街の住人に被害が出ていた。
それゆえ”死を予言する存在”とも呼ばれた。
竜の紋章の騎士も警備にあたったが皆首をはねられた。
首なし騎士は先代の国王であり自分の首を探しているのではないかという噂さえ流れていた。
「死霊魔術ね。その騎士の頭は術者が所持していて、騎士の霊を支配するものだわ」
黒衣の魔女は魔法に詳しくないウィリアムたちにも解るように説明した。
「騎士の頭を探すのが厄介ですね。何か探し出す手段はないんですか?」
「この竜の紋章の王国は魔法学院があるくらい魔法が盛んな国なの」
王国自体が大小様々な何等かの魔法を施されているというのだ。
室内の魔法の明かりや動く階段、開閉する扉や施錠と解錠などあらゆる所に魔法が溢れているため、特定の魔法の力だけを魔法探査することは難しいということだった。
「魔法学院へ行けば何か手掛かりがあるかもしれない」
ウィリアムは魔法に詳しくないが魔法の専門家に話を聞ければ何か手掛かりを得られるかも知れないと思った。
魔法学院は失われた魔法の数々を復活させ、随一を誇る魔法の学舎となった。
学長のクリフトフが殺害された事件をきっかけに魔法学院に学長の亡霊が現れ次々と導師や学生が惨殺されるという事件が起きていた。
そのことは黒衣の魔女は物見の水晶球で見知っていたのでウィリアムたちに現状を説明した。
「魔法学院は今はどうなっているんですか?」
「機能してないわ。廃墟に棲むのは亡霊たちだけよ」
亡霊に命を奪われると、絶命した者も亡霊として魂が囚われるのだと言った。
これらの生命なき存在は死霊魔術がかかわっている。
それは炎の神の教団が神聖魔法と死霊魔術を扱えるということも、光の七神の教団を追放したことも裏で暗躍していることを示していた。
もしかするとこれはこれから起こる災厄の前兆にすぎないのかもしれない。
夜に首なし騎士が現れるのを待つか、魔法学院へ出掛けて亡霊を待つかしてこの国で起こっている怪奇な事件の何か手掛かりを探す行動に移さなければならなかった。
黒衣の魔女は私用があると言い残し、瞬間移動の魔法で姿を消した。
「忙しいやつじゃな」
ドワーフのイムリはそう言うなり、背負い袋の中を手で探りながら乾燥肉を取り出し豪快にほうばり始めた。
食べ終わるとイムリのお腹が空腹の合図を奏でた。
「まあ!? 呆れた!」
エルフのユーリアは冗談っぽく言い微笑んだ。
エルフのユーリアとドワーフのイムリが初めて出会った時の険悪な雰囲気はこの道中でなくなり、今ではお互いに認め合ってさえいた。
ウィリアムはそんな姿を見て、人は成長し変わることができると感じたのだった。




