表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深紅の竜血  作者: 江渡由太郎
第三章 永遠の生命
25/67

2

 サイラス大司祭は、一瞬のうちにウィリアムとの距離を縮めてきた。

 鋭利な爪を振るう度に、ウィリアムの鋼の鎧は火花を散らした。


 切り裂かれた鎧の一部は下水道の岩壁に弾かれ、激しい金属音をあげた後、汚水が流れる濁った水の中へ水飛沫を上げて落ちた。


ウィリアムの肩が剥き出しとなり、鮮血が血飛沫を上げて宙を舞った。


「サイラス大司祭の動きが全く見えない!」

 ウィリアムは古エルフのユーリアに光を司る精霊で、この下水道の内部を明るく照らして欲しいと伝えた。

 古エルフの娘は精神を集中させて精霊魔法の詠唱を始めた。


 不死の存在となった大司祭は、エルフの娘へと標的を変えて襲い掛かるのだが、ウィリアムの長剣に行く手を阻まれた。


「小僧の分際で、ワシの目の前でちょこまかとうるさい蝿のように目障り極まりない!」

「これ以上先には行かせはしない!」

 ウィリアムは、牙を剥き出しにして怒り狂うサイラスに向かって叫んだ。


 ユーリアの精霊語の詠唱が終わり、暗闇の中に一つの発光する球状のものがゆらゆらと揺らめきながら下水道の中に現れた。

 そして、昼間のような明るさになるように、光を司る精霊は発光する力を最大限に高めた。


 手で光を遮るような仕草をしたサイラスは眩しさのあまり顔を背けた。


「忌々しい光だ! 小賢しい真似をしおってからに! お前たち全員、この場で八つ裂きにしてくれる!」

 サイラスは怒りに任せて、ウィリアムの長剣の刃を素手で握った。


「!? 何だか! この剣は!」

 刃を素手で握った手から、焼けるような痛みを感じたサイラスは悲鳴を上げた。

 刃から手を離し掌を見ると焼けただれていた。


「小僧! お前の剣はエルフの剣なのか!?」

 サイラスは取り乱している様子だった。


 焼けただれた掌は、次第に燃え尽きた木炭のような形状になった。

 鋭利な爪で慌てて手首から切断することで、炭化の進行を最小限に食い止めた大司祭は怒りで真っ赤な 目を更に燃えたぎるように輝かせた。


 手首の再生を試みたが、再生は上手くいかなかった。

 傷口からどす黒い血を流しながら、吸血鬼は狼狽え始めた。


 残りの鋭利な爪で心臓目掛けて、突き刺すような攻撃をしてきた。

 ウィリアムは後ろに三歩ほど後退したことで、かろうじて胸を串刺しにされることは免れた。


 ウィリアムは剣で横に払うように振るうと、サイラスは刃先から逃れるように後方へ跳ねて宙を舞った。

 間髪入れず、ウィリアムは吸血鬼が着地したところで、エルフの剣を突き刺すように懐に飛び込んで行った。


「エレナ!?」

 ウィリアムは刃を突き刺すことを一瞬躊躇した。


 その一瞬の隙を逃さずに、目の前の少女の片手の五本の爪が各々長剣の刃の如く伸びて、ウィリアムの 胸部や腹部といった上半身を貫いた。


 目の前の少女は再び老人の姿に戻り、不適な笑みを湛えていた。


「おのれ……卑怯な真似を……」

 ウィリアムは口から血を吹き出しながら言った。


「お前の内にある大切な人の姿を透視し化けただけのこと。お前の弱さが死を招いただけのことだ」

 吸血鬼は嘲るように言った。


 ウィリアムから爪を引き抜くと、力なくその場に崩れ落ちた。

 吸血鬼は指に付いたウィリアムの血を貪るように、舌で舐め回していた。


 血のように真っ赤な眼光が炎のように揺らめきユーリアを魅了した。

 虚ろな表情でエルフの娘は、腰に挿している細身で先端の鋭く尖ったレイピアを抜き放った。


 ユーリアはサイラスの魔眼の魔力によって操られていた。

 素早い身のこなしで、ドワーフのイムリを牽制したのちに、無防備な少女ディヴィナに刺突用の片手剣レイピアで突き刺しにかかった。


 ディヴィナは恐怖のあまり身動きできなかった。

 迫り来る死の影に言葉を発することもできなかった。


 レイピアの鋭く尖った剣先の先端が、ディヴィナの胸を目掛けて接近してくるのが、コマ送りの映像のようにゆっくりと見えて時間が経過しているように感じた。


 ディヴィナの目の前に突然、黒い壁が現れた。

 エルフの娘のレイピアが肉を貫き、血が吹き出た。


 血飛沫が少女の顔を塗らした。


「ウィリアム!?」

 少女は驚きのあまり大きく目を見開いていた。

 ウィリアムはディヴィナを庇うために、己の体を縦にしていたのだ。


 エルフの娘は虚ろな表情のまま、レイピアをウィリアムの背中の肩甲骨近くから引き抜いた。

 再び傷口から鮮血が溢れ出す。


 ウィリアムはディヴィナに微笑むと、その場に倒れ込んだ。

 それを見ていたエルフの娘に一瞬の油断が生じた。


 先程までドワーフのイムリは戦斧を構えたまま微動だにしなかったのだが、この一瞬の隙を見逃しはしなかった。

 ドワーフは戦斧の柄の部分でエルフの腹部に鋭い突きを見舞った。


 華奢なエルフの娘は、ドワーフの力強い一撃に木の葉のように宙に舞い上がった。

 そして、下水道の床に叩きつけられるように落ちた。


 エルフの娘ユーリアは、そのままぐったりとして動かなくなった。


「心配ない! 峰打ちじゃ!」

 ドワーフのイムリはディヴィナと女官に向けて叫んだ。

 イムリの言うように、エルフの娘は呼吸をしているので、微かに胸が上下に動いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ