6
黒エルフ族の王ヴェンデルベルトは玉座に座り見下した態度を崩さなかった。
狡猾で醜悪なゴブリンでも見ているかのようなその視線の先にはウィリアムたちがいた。
「私は北部の狼の王の息子ウィリアム・ダグラスです」
ウィリアムがそう告げた。
「家畜の分際で共通語を話すな! 余の方が恥辱を感じる!」
黒エルフ族の王ヴェンデルベルトは玉座から立ち上がり激昂した。
そして古エルフ族のユーリアを見て皮肉めいた笑みを浮かべた。
「深い森の古エルフ族の小娘まで居るとは愉快! 傲慢な古エルフ族があの醜悪なドワーフ族と一緒に居るとは前代未聞よな」
王ヴェンデルベルトはユーリアを見て言った。
王ヴェンデルベルトは深い森のエルフ族のことだけは助けてやろうと言った。
血筋を重んじているため、王の子を生めと言ったのだ。
闇の森には世界樹の若木があり妖精界へも行ける。
そこで交わり子を生めば命を助けると言った。
黒エルフ族は滅びに瀕していたのだ。
一族間での婚姻が繰り返され、血が濃くなり限界が訪れた。
もう数百年の間、黒エルフ族に新しい子が生まれていないのだ。
そこで古エルフ族なら血統に問題ないと考えたのだった。
「傲慢なのはあなたがたよ!! 私利私欲のために我らから世界樹を盗み、外では物質界のエルフを虐殺しているじゃない!!」
「笑止! お前は何も知らぬ愚か者よ! イザベラ女王は氷の上位精霊を使役し、精霊の理に反しているではないか!!」
ユーリアは悔しかった。
北部を氷で閉ざしたことにより、深い森の南部は荒れ地となり枯れたのだから
このままでは荒れ地は砂漠になるのは避けられなかった。
だから広大な森を復活させるためには、世界樹のちからが必要だったというのだ。
「そ、それは……」
ユーリアは返す言葉がなかった。
確かに上位精霊の永続的な使役は精霊界の理に反している。
氷の精霊王であるフェンリル狼は、北部を雪と氷で閉ざしているのも事実であるのだ。
嘗ては深い森のように広大な森が広がっていた場所は荒れ地となった。
それは森の上位精霊であるエントを使役し続け、古エルフ族の領域である深い森を守ったからなのだ。
そのため、世界樹の若木の力をもってしても、精霊の理が反故され歪められた精霊の力が働いている闇の森が病んでいるのである。
黒エルフ族は古エルフ族の傲慢さを許せず、離反したのだった。
真実を知らされ深い森の娘ユーリアはその場に崩れ落ちた。
高潔なはずの古エルフ族が自らの欲のために、上位精霊を使役し続けており精霊の理を無視しているのだとしたら、取り返しのつかないことをしたのは古エルフ族に他ならないのである。
「では……闇の森の王よ……何故、この物質界で生を受けたエルフ族を虐殺なさるのですか?」
ユーリアは今まで理解できなかったことを質問した。
「小娘には理解できないだろう。物質界で生を受けたエルフ族の末路について……」
闇の森の王ヴェンデルベルトは暫くの間、目を閉じていた。
「妖精界の住人は決して物質界の住人にはなれない。物質界の理に支配された妖精族はやがて妖精ではなくなるのだ」
「妖精ではなくなる!?」
ユーリアは自分の耳を疑った。
「そうだ。小娘は考えたことはなかったのか?」
「考える!?」
ユーリアはそんなこと考えることはなかった。
何故なら永遠の命がある自分にとっては考える時間はいくらでもあるため、あえて考える時間を作らなくてもいいのである。
「余も必要に迫られるまで考えることはなかった。我らエルフには永遠の時間がありゆえ。そして物質界で何が起ころうと感心がないゆえ」
エルフの王は玉座に再び腰を下ろした。
「何故物質界のエルフ族は永遠の命の加護を失ったのか? 何故物質界のエルフ族は精霊との繋がりが弱まったり失ったのか?」
「それは……」
ユーリアは答えられなかった。
「それは奴らは堕落しエルフ族ではなくなりつつあるのだ」
「堕落しから虐殺するのですか?」
「我らはエルフ族なのだ。堕落しようが同族を手にかけるのには理由がある」
ユーリアには同族殺しに何が理由があるのか理解しがたかった。
「我らが手にかけたのは……もう気高いエルフ族ではなくなっていた者よ。邪悪で醜悪な”オーク”に変異していた」
「オーク!!」
「物質界のエルフの寿命は二百年だが…その寿命前にオークへ変異する。半エルフ族も同様だ。殺戮を好む妖魔になるのだ」
闇の森のエルフの王ヴェンデルベルトの言葉に、ユーリアは衝撃を受けた。
王ヴェンデルベルトはドワーフ族のイムリを指差した。
「そこのドワーフの小僧も堕落し、二百年の寿命を前に変異するかもしれん。狡猾で醜悪な”ゴブリン”になるのだ」
ユーリアはドワーフ族のイムリを見た。
大地の妖精族であるドワーフのイムリも、真実を知らされ心の動揺を隠せずにいた。
「だが、我らももうすぐ滅びるだろう。粛清の炎が目覚めたようだ」
王ヴェンデルベルトの言葉は滅びを受け入れているのか、穏やかな口調であった。
「炎の神のことでしょうか?」
ウィリアムは目の前の王ヴェンデルベルトに訊ねた。
「人間よ。もうお前たちできることは何もない。我らの力を持ってしてもな。」
闇の森のエルフの王ヴェンデルベルトはウィリアムを一瞥し、人間の少女ディヴィナを見詰めていた。




