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深紅の竜血  作者: 江渡由太郎
第二章 黒衣の魔女
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1

 灰が厚く堆積している坑道の床は、歩くたびに灰が舞い上がり視界を悪くした。

 息をすることさえ次第に苦しくなり、ローブのフードを深く被り口元に生地を当てたり手拭いで口元を覆ったりした。


 それでも髪や鎧と服の隙間にも容赦なく灰が潜り込んでくる。

 火山灰のような灰は、ドワーフ族の廃墟に侵入してきた者たちを退けようと、必要に抵抗し続けているかのようであった。


 天井や壁にも灰は積もっていた。

 洞窟の外で雪が降り積もっているのと同じように見えた。


 だが、この灰がただの灰ではないことを知っているのは、今この中ではドワーフ族のイムリ唯一人だけである。


 百年も前にはこの灰の一つひとつがドワーフ族だったのだ。

 竜のように強欲に”真の銀”であるミスリムを渇望した結果、王国は滅びたのだった。


 炎の神というものがこの大地の奥深くで眠りについているとは知らず、神の眠りを妨げ目覚めさせてしまったのだった。


 ドワーフ族は業火に焼き尽くされ、爆風や熱風により最下層から地上に通じる上層階まで灰と化した命が吹き上げられて堆積したのだった。


 光の神々である”鍛冶神”は古くは雷と火山の神でもあり、現在は炎と鍛冶の神とされた。

 ドワーフ族は灰にされる瞬間、神の怒りを買ったのだと思ったに違いない。


 そして、先程、この地下都市から現れた醜悪な兵士を見たのならば、再び神の逆鱗に触れたと思ったはずだ。


 忌まわしい記憶の産物であるこの北部のドワーフ族地下都市は先程の大地震で崩落や倒壊し、地下の階層まで通れる状態ではないことは誰の目にも明らかであった。


 第三階層まで降りると、天井や柱が煤けていた。

 岩の床も焦げて溶けていた。

 今まで通ってきた坑道も無数の足跡のように焦げていたが、ここの床は特に酷かった。


「ここでエレナは……」

 ウィリアムは言葉に詰まった。

 彼女を偲ぶ物は何一つ残されていない。


 ここであの惨劇が繰り広げられたかと思うと憤りしか感じなかった。


 ドワーフのイムリは先を急ぐと短い足からは想像もできない速さで歩き出した。

 侵入者を撃退するために施された幾つもの仕掛けや罠に捕らわれた炎の兵士たちにウィリアムはエルフの剣で突き刺した。


 かりそめの命を与えられた兵士は、その役目を終えて灰色の灰の塊と化した。

 老騎士バイロンも鋼の剣で炎の兵士を突き刺したが、絶命することはなかった。

 どうやらエルフが鍛えたダマスカス鋼の刃でしか、この兵士をほふることができないようである。


 ドワーフ族の地下都市は完全に崩落しているため、このまま地下へ進むことができない状況となった。


「ここまでのようじゃな。奴らもここから地上へ向かったようだ」

 イムリはこのまま地上へ上がると、大魔導師の館近くに出ると伝えた。


 ウィリアムが連れてきた捜索隊の駐屯地もあるが、あの大地震の後に大魔導師の館の方角で炎と煙りが見えていた。


 不安が脳裏を過った。

 最悪な状況が続いただけに何が起こっても不思議ではなかった。


 地上へ続く階段は延々と続いた。

 エルフのユーリアとディヴィナのために途中何度も小休憩を挟まなくてはならなかった。


 ウィリアムも鋼の鎧を纏ってはさすがにつらかった。

 老騎士バイロンは体力的に限界のようで若い騎士ピーターに背後から押してもらいながら階段を上らなくてはならないほどだった。


 ドワーフのイムリだけは頑強な体力があり、見た目は老人だがきっと若いドワーフなのかもしれない。

 彼らドワーフ族は成人する頃には初老のような容姿になると学匠から聞き学んだ。

 それにしてもエルフ族やドワーフ族と一緒に行動する日が来るとは夢にも思わなかった。


 やっとの思いで地上にたどり着いた。

 陽が高く昇り昼頃の時刻かと思われる。


 眩しさにまだ目が慣れずにいた。

 だが、樹々が燃えて残り火が燻っている臭いが鼻についた。


 エルフの娘は怒りに震えて声も出せずにいた。

 焼けただれた森は死んでいた。


「……すまない……」

 ウィリアムは絞り出すような声でユーリアに言った。


「あなたたち人間はいつもそうなのよ。野蛮な争いを好み多くの命を奪い続ける。大義名分を翳してはそれは永遠に終わることがないのよ」

 エルフの娘にウィリアムはかける言葉が見つからずにいた。


「殿下! 捜索隊は撤退したようです。炎の兵士と争った形跡もありません」

「いったいどうなっているんだ!?」

 若い騎士ピーターの報告を受けてウィリアムは困惑した。


 あの邪悪な兵士と相対することがあれば、騎士たちは怯むことなく戦いに挑むはずなのだ。

 だが、炎の兵士の骸も騎士たちの屍もどこにも存在しないのだ。


 騎士たちはいったい何処へいったのだろうか。

 あの醜悪な兵士たちの行方も気にかかる。


 王の今回の行いは決して許されるものではない。

 真実を明らかにしなければならない。


 真相がどのようなものであろうとも。

 ウィリアムは暗く沈む内なる闇に囚われぬように、必死に己を見失わないように努めた。

 真実の目を持つ大魔導師の館の主を、再び訪ねなくてはならないと心に決めた。


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