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大地が叫ぶような凄まじい地響きが大陸全域に轟いた。
北部では深い森の樹々の地中に張った根までが大地から引き剥がされ、積雪の表面上に引きずり出された。
剥き出しとなった幾十もの太い根は、寒風と積雪に晒されたのだった。
だが、樹齢数百年の太い幹は傾きはしたものの、かろうじて倒木は免れた。
しかし、森の若い樹々の半数は大地から突き上げられるような衝撃に耐えきれずに、無惨な姿と変わり果てた。
西の海岸洞窟では炎が現れた。
醜悪な兵士は次々と現れる。
大魔導師の館の方角からも炎と煙が見えた。
ウィリアムたちは炎の神の眷属である兵士たちが洞窟入口からいなくなったのを見計らってから、洞窟へと向かった。
気を失っている少女を抱きかかえたまま、洞窟の前までたどり着いた。
洞窟の石の扉は既に破壊されており、容易に内部へ入ることができた。
エルフの娘ユーリアは精霊語を詠唱し、光を司る精霊ウィル・オー・ウィスプを召喚した。
光の精霊は踊るように揺らめきながら天井付近へと昇っていき、暗闇の中を白昼のように明るく照らし出した。
ドワーフ族の地下都市である内部は巨人が通れるほどの天井の高さと大広間の広さもあった。
数え切れないほどの無数の巨大な柱には見事な浮き彫り細工が施されており、芸術品に囲まれているような空間であった。
「荘厳な造りで、噂どおりのドワーフ族の地下宮殿ですな。」
「何が荘厳よ! 傲慢と虚栄心の塊だわ!」
老騎士バイロンの言葉にエルフの娘は半ば呆れたように言葉を挟んできた。
突然、柱の暗闇から老人の顔が現れた。
「相変わらずエルフという生き物は気位だけは高いのう」
「ドワーフ! 醜い!」
ドワーフはエルフの言葉など気にもしなかった。ドワーフはイムリと名乗り、エルフは名乗る前に侮辱の言葉が口から先に出ると冗談を言ったが、ユーリアは冗談を真に受けて気分を害していた。
「お前さんの口の悪さはドワーフより酷いもんじゃな」
イムリは愉快そうにふさふさの髭を揺らしながら笑っていた。
「わたしを愚弄する気なの?」
そのことでさらにユーリアの感情を逆撫でし、一触即発という状態にまでなったのだ。
「もういい加減にしてくれ!」
うんざりしたようにウィリアムが二人の間に入り叫んだ。
エルフ族のユーリアもドワーフ族のイムリも真剣に怒っている人間のウィリアムを見て、言い争いを止めた。
「すまんのう。お前さんまでも怒らすつもりはなかったんじゃ」
「ごめんなさい。わたしもむきになりすぎたわ」
ウィリアムは妖精族の二人から謝罪されたが、この妖精族はお互いに謝罪はしないのかと思った。
「ワシらが仲が悪いのは、何も今始まったことでもないしな。そこのエルフの娘さんが嫌いなわけでもないんじゃよ」
イムリは悪びれた様子もなく、ユーリアに言った。
ウィリアムはこの二人が本気で喧嘩しているわけではないことに少し安堵した。
ドワーフ族の地下都市は廃墟となり、ドワーフは一人も住んでいないのではないかとウィリアムは尋ねた。
イムリの話によると、夜空に竜を見たのだというのだ。
それも一般的な成竜ではなく、巨大な竜だったそうだ。
老竜か古竜かは魔術師ではないから判らないということだったが、昔この地へやって来たという殺戮の限りを尽くした古竜さながらの絶対的な存在だった。
ドワーフの地下宮殿には手付かずの黄金の山が保管されているため、竜がその黄金を奪いに来たのではないかと心配になり、このドワーフの地下廃墟へ急ぎ戻ってきたのだということであった。
「竜の宝物に対する渇望は理解しがたいわね。強欲な巨大な爬虫類なのよ」
「竜はそこらに幾らでもある綺麗な物や光る物をただ集めて蓄えているわけじゃないんじゃよ。奴らは貨幣価値のある宝物を集め蓄えたがるんじゃ。奴らは自分たちが所有している物の価値は充分理解しているからそれらを絶対に手放さないし、渇望することを止めることもない」
ドワーフのイムリはユーリアの言葉の後に、先程とは打って変わって真剣な表情で話していた。
ウィリアムの腕の中で少女が意識を取り戻した。
「ここは何処ですか? あなたは?」
「私はウィリアム・ダグラスといいます。ここは北部の西海岸にあるドワーフ族の廃墟都市です」
そう答えると、ウィリアムは少女を床の上へと降ろした。
少女は自分が羽織っているローブの下には体に何も纏っていないこと知り赤面した。
両手で顔を覆いその場にしゃがみ込んでしまった。
ユーリアは布袋の中から替えの服と靴を取り出し、少女に手渡した。少女は礼を言いそれを受け取ると、柱の影で着替えを済ませて戻ってきた。
エルフの娘と少女の体型は大体同じだったようで、服も少女に良く似合っていた。
「わたしはディヴィナといいます……」
少女は名前以外は今は何も思い出せないようであった。
疲労困憊しているためかもしれないとウィリアムは思った。
ドワーフ族のイムリは竜を探すついでに、地下廃墟の中を案内すると申し出てくれた。
少女ディヴィナもこのままウィリアムたちと行動を共にすると言った。
ウィリアムたちの旅が始まろうとしていた。




