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深紅の竜血  作者: 江渡由太郎
第一章 始まりの地
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9

 天井は吹き抜けで屋根がなく、壁は天然の岩肌が剥き出しである。

 建物と自然の岩を組み合わせた建物内部には岩肌を流れる大滝があり、それは空から流れてくるようにも見えた。


 滝壺として純白の大理石で設置された貯水槽がある。

 そこから橋がかかった床の大きな排水溝を通って屋外の川に合流する。


 その透き通った水は星が流れているように輝きを変えながら流れていた。

 半円のような形の橋の中央にエルフの女王イザベラはは立っていた。

 案内してくれた衛兵はウィリアムに女王の近くに行くように言うとこの場から退室した。


 今この大広間には二人しか居ない。

 天井から流れ落ちた水は水受け皿となっている貯水槽に勢い良く音をたてて豪快な水飛沫をあげていた。


「待っていました。未来はこの流れる水のように規則的でありながらも不変なものではありません。これから目にするものを受け入れ立ち向かう勇気をあなたが持っていると信じます」

「勇気ですか……」

 ウィリアムは噛み締めるように呟いた。


「ウィリアム、運命が動き始めたのです。人間の一生涯とはわたしたちの目から見ると瞬きの間の出来事ですが、それを一生懸命悔いなくまっとうしようともがく姿は人間らしくもあり素晴らしいところだと思いますが……ときに誤った選択をし狂気に走るのも事実です」

 エルフの女王イザベラはそう云うと大滝の流れる水の中央部を見るようにウィリアムを促した。


 流れる滝の水の中央部が生き物が、動き回るような渦を作り出した。

 やがて、それは水鏡に変化し、そこに鮮明な映像が映り始めた。


 廃墟となったドワーフの地下都市の坑道を進軍する兵隊の姿が映し出された。

 それは赤く煮えたぎるマグマの部分と黒く固まった岩のような岩石が、人の姿に似せ形をなした兵士たちであった。


 ウィリアムはこのような奇怪な形状の怪物を見たことがなかった。

 その兵士に命が宿っているのか、知能があるのかさえ解らなかった。

 あまりの醜悪な容姿に背を向けたくなるほどであった。


 無数の兵士たちは王ユアンと王子グラントを護衛するかのように付き従っていた。

 王の隣には炎の神の女司祭である紅い女がいた。


 妖艶な笑みを称え満足そうにしている。

 王女エレナの姿がそこにはなかった。


 そして大滝に映し出されている水鏡の映像が、違う場面を映し出した。

 炎の中で虚ろな表情をしている。

 一糸纏わぬ生まれたままの姿の少女がいた。


 生きたまま火やぶりにされているように見える。


 しかし王女エレナは苦痛の表情ではなく快楽を得た恍惚とした表情である。

 巨大な業火は王女エレナの体を包み込んでいた。


 エレナを抱いている巨大な業火は、魔物のような姿であった。

 その魔物の業火から次々と、先程の醜悪な兵士が生み出されている。


 そして業火の魔物はエルフの女王とウィリアムがこの光景を見ていることはじめから知っていて見せていたのだ。


 エルフの女王イザベラが水を司る精霊ウンディーネを召喚し、地下水を通ってドワーフの廃墟の坑道を流れる水路の水に忍ばせていたのだ。

 ウンディーネの目を通してこの大滝の水鏡に映像が送られていた。


 炎の神は愉快そうな笑みを称えていた。


「破壊の炎は放たれた。聖火によって粛清の時は来たのだ」

 そう告げると炎の神に抱かれていたエレナの体は、歓喜の高声と共に皮膚が焼けただれ肉が焦げやがて骨さえも遺さず王女は燃え尽きた。


 エレナの魂と肉体がなくなると、あの醜悪な兵士たちも業火から生み出されなくなった。

 生け贄とされた王女の魂と肉体を代償に、この物質界へ召喚されていたようであった。


 炎の神の形を成していた業火が揺らめきだした。

 炎の神の原形が崩れ始め炎も小さく縮みだした。


 そして最期の残り火が力なく燃え尽きそうな一瞬に火球が、ウンディネをめがけて放たれた。

 火球の炎に水の乙女の姿は一瞬にして蒸発して、水を司る精霊はその場で絶命した。


 大滝の間にある水鏡の映像もそこで途絶えてしまた。

 ウィリアムはこの出来事を理解することができなかった。


 あまりにも多くのことを目にしそれが真実なのか、それともエルフの女王が見せた幻なのかさえも判断できずにいた。


 父ユアンと兄グラントが妹のエレナを犠牲にして、邪悪な軍団を率いているという事実全てが悪い夢であればいいとさえ思った。


 だが、これはまぎれもない現実であり、受け入れなければならない真実なのだ。

 ウィリアムは途方に暮れた。このまま西の海岸洞窟へ行き、ドワーフの廃墟となった地下宮殿へと向かっても無意味のように感じられた。


 狂信者の炎の神の女司祭である紅い女に拐かされた王を止めなければならないことだけは、ウィリアムが王子であり息子であることの使命として感じた。


 これ以上、犠牲者を出してはいけないのである。


 ウィリアムは妹のエレナが好きだった。

 十四歳の彼女は厳格な父を笑わせることができる特技も持っていた。


 父ユアンも彼女を愛していたはずなのだ。

 何故、このような悲劇的な結末を選んだのか理解できなかった。


 エレナの命を捧げてまで欲する力とはいったいどんなものなのか父と兄に問いたかった。


 妹との思い出が走馬灯のように過ぎ去って行った。

 もう二度と妹のエレナを抱きしめることもできない。


 あのはにかんだ笑顔も記憶の中でしか会えないのである。

 彼女が甘えた声でウィリアムの名を呼んで、駆け寄って来ることなくなったのだ。


 そう思うとひどく胸が引き裂かれるほど苦しく痛んだ。

 ウィリアムの頬に涙が伝っていた。


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